僕の名前は『沢田 綱吉』。
他の人からは『ボンゴレ』とか『十代目』とか色んな名前で呼ばれることもあります。けど今この世界で僕を一言で表すなら『沢田綱吉』という固有名詞が一番ふさわしいと思うのです。

だって僕の周りにいる人たちがそれを望んでいるのですから。

特に今、僕の隣でスヤスヤと寝息を立てている美しい女性・・・普段、人前で僕の事を『十代目』と呼ぶこの女性が何よりそれを望むのです。『ボンゴレ』でも無く、『十代目』でも無い、『沢田綱吉』という僕を望むのです。肩書きにも何にも縛られず『沢田綱吉』を望んでいるのです。
それは何て嬉しくって喜ばしくって、悲しいことなのでしょうか。

僕のこの相反する感情を彼女は気付いてません。
きっと一生、気付くことは無いのでしょう。誰もそれを望んでいないのだから。
そして何より僕がそれを望んでいないのです。不思議と気付いて欲しいと思わないのです。本当なら、心のどこかでそう思ってもいいはずなのにそれを望まないのです。

そんな事を僕が考えていると隣で眠っていた女性が突然、パチリと緑色の瞳を開きました。そしてキョロキョロと辺りを見渡し、僕が隣にいた事に気付くと満面の笑みを浮かべます。

「おはようございます、綱吉さん」

まさに花の綻ぶ様な笑顔とはこういう事をいうのでしょう。彼女は僕が挨拶を返すより先に抱きつくと子犬のように顔を僕の胸に摺り寄せてきました。

「怖い夢を見ました」

「怖い夢?」

「みんなが酷い嘘を俺に言う夢です」

そう淋しそうに言う彼女の顔は僕の胸に埋もれて見えません。でも声色から彼女がどれだけ心細く辛かったのかは計り知れます。

「・・・ねぇ、綱吉さん」

「なに?」

「綱吉さんは、ずっと俺の傍にいてくれますよね」

抱きついてきた彼女の腕の力が強まりました。夢の不安か、『沢田綱吉』への不安からか返事をしない僕へどんどん回す手の力が強まっていきます。
だから、僕は彼女を安心させるために彼女の頬を両手で包み込んで僕のほうへ顔を上げさせました。そして僕なりの最高の笑みを浮かべると涙を流していた彼女の両頬と唇に顔を寄せます。

「大丈夫、“僕”はずっとそばにいるよ」

僕は傍にいるよ。
あなたの・・・獄寺隼人の傍に、ずっと。



それは何処までも澄みきっていて、透明で、

なにものにも例えようのないヤミの色。




伏線だらけの第一話。全四話の予定だけど回収できるのかw