4月1日。エイプリルフール。

今日はね、嘘をつくことが許される日なんだ。





「俺、ボンゴレ十代目を辞めようと思うんだ」


君の反応が見たくてついた嘘。けど君は一瞬、驚いた顔をすると書類を書いてた手を止めて「そうですか」と静かに返すだけだった。


「そんだけ?」
「そんだけ?と言われましても…貴方が本気なら俺に止めることはできませんよ」


そう言うとまた書類を書き始める。

会話終了。

俺の嘘はあっさり流されてしまった。


「辞めるのなら、色々やることがありますね」
「そうだね」

「部下達にもシメシをつけなきゃいけないし」
「そうだね」

「もう次のボスは決めてるんですか?」
「そうだね」
「それじゃあ、今夜かあたりの会議を開いて幹部達の説得から始めましょうか」
「そうだ…ね」


なんかスラスラ出てくる君の言葉に俺は内心冷や汗をだす。
えっと…これってもしかして流されたんじゃなくて受理されちゃってる?


「ご、獄寺くん…」


俺は恐る恐る名前を呼んだ。


「はい、何でしょう?」


君は俺の方に体を向けると綺麗な笑顔をくれる。


「あのさ」
「はい」
「嘘なんだけど」


4月1日。
俺はカレンダーの今日の日付を指差した。


「エイプリルフールの嘘…だったんだけど」
「はい」
「って、またそれだけ?」
「気付いてましたから」


そう言うと君はそれはそれは綺麗な笑顔を俺に向けてくれた。

どうやら嘘と知ってて付き合ってくれたみたいだ。
それに気付いてため息ひとつ。
怒ってないのに気付いてまたひとつ。


「毎年のことですからね。慣れますよ」
「それもそうだよね」


海外暮らしが長かった君は慣れてるだろう。でも、やはり今まで生きてきた内の半分を日本で暮らしてた俺としてはまだ慣れない行事だ。


「嘘をついても良い日、か」
「まぁ大らかにとればジョークを楽しむ日ですからね。そこまでムキにならなくても良いと思いますよ」
「でもね…」


やっぱり見たいんだよ。
君が俺の嘘で戸惑ったりする顔。


「はぁ…結局、今年も失敗か」
「来年は頑張ってください」
「来年…ね。ところで獄寺くんはつかないの、嘘?」


ふと思って口に出した。
思えば気になるかも。君がつく嘘。
でも君は困った顔を浮かべるだけ。


「つきませんよ。俺は」
「ふーん」
「俺は十代目に嘘をつくことは出来ません」
「命令でも?」
「命令でも、です」


それを聞いて俺はまたため息ひとつ。
融通がきかないというかなんというか…。


君は俺の横で書類をかく。
俺はまとめてもらった書類に目を通してサインする。


4月1日。エイプリルフール。
今年の嘘を許される日は何事もなく終わってしまいそうだ。



その後、噂で聞いたところリボーンがこっそり開いてた
ボンゴリアンエイプリルフールで君が優勝したことを聞いた。
一体、どんな嘘をついたんだか…。
気になって君に聞いたらまた綺麗な笑顔で誤魔化された。


「十代目には内緒です」




嘘をつかない。が、最大の嘘という話。