獄寺はいつも悩んでいた。いつも感じる視線、吐息、気配。最初は気のせいだと思っていた。だが“それ”は確実に傍にありいつでも自分を監視している。
それを事実として知ってしまったのはいつだっただろうか。

親友と思っていた同級生の変貌。

いや、元々彼は狂っていたのかもしれない。そして自分はそれに気がつかないようにしてたのかもしれない。この日常から抜け出したくないから、彼の持つ非日常を否定したかったのかもしれない。
けれど自分が否定していたものはもろくも崩れてしまう。
一度、ヒビの入ってしまったグラスのようにそこから不安という水が溢れ出すのは早かった。
山本武。彼の何がそこまで自分への変質的な愛を駆り立てるのだろう。それとも彼を壊してしまった原因は自分なのか?自問自答しても答えは出ない。
でももう、あの日々には戻れないのだ。3人で楽しく笑っていたあの日々に。

自分を執拗に狙うストーカー山本武。
今、自分の隣にいる恋人の沢田綱吉。
そして自分、獄寺隼人。

確かに自分達は親友だった。いつも一緒にいた仲間だった。馬鹿騒ぎもした。喧嘩もした。けれどまっさらな青春の中でそれは輝かしい思い出となるはずだった。
今では思い出したくない汚れた思い出。でも獄寺はそれを忘れたくないがばかりに自らの首を絞めた。

「・・・・ごめんなさい・・・十代目」

隣にいる恋人に呟く言葉。彼は聞こえているだろうか?聞いていてくれているだろうか?それを確認するだけの勇気が出ない。
獄寺がいま見れる物は無力な掌と・・・そこに握られた薄い紙切れ。可愛らしい表紙には今の自分の心とは不釣合いなほど可愛らしい絵が描かれている。微笑む女性の腕に抱かれた赤ん坊。その上にははっきりと・・・「母子手帳」と書かれていた。
父親のところには名前は無い。本当なら恋人である沢田綱吉の名前を記入するところなのだが、その権利は自分には無いのだ。

だって自分は子供の本当の父親を知っているから。

恋人の彼は自分を傷つけないためか婚姻交渉には及ぼうとはしなかった。無理強いもしなかった、だから体の関係は未だにもったことはない。
だから子供の父親は彼であるはずがないのだ。どこかの聖母のように処女受胎というわけでも無いから。



中学3年の卒業式、自分は山本武に犯された。親友だと思っていた彼に別れの挨拶を告げに言った時のことだった。高校が別になるから、と。二人っきりで挨拶がしたいと。だから彼の家に呼び出されたとき何の疑問も浮かばなかった。
それがあんなことになるなんて・・・。
何度も何度も体を犯され、拒否の言葉を呟けば首を絞められ、暴れれば拘束され、殴られ犯され蹴られ汚され舐められ汚され縛られ汚され犯され犯され汚され汚され・・・。
気がついたら目の前には十代目がいた。自分は保健室のベッドの上だった。山本はいなかった。十代目は何度も俺に心配をかけないように微笑んでくれた。笑ってくれた。
そしてここにいるということは全てを知っているであろうに、俺に告白してくれた。

「ずっと好きだったんだ。何があっても傍にいるから俺と付き合って」

獄寺は泣いて頷いた。あんな事があった後だからだろう。優しさが痛くてうれしくて切なかった。
山本武はそれから俺達の前には姿を現さなかった。だが間接的にだが、俺に対してのアプローチは何度もあった。手紙に郵便物、不法侵入に待ち伏せ。姿を現すことは無かったが確実に俺の傍に迫っていた。
それに気がつくたびに俺は吐いて気を失うまで叫んで泣き続けた。傍に彼がいる事が怖くて。そのたびに恋人の彼は俺を慰めてくれた。

「大丈夫。俺が守ってあげるから」

あの人が傍にいれば安らげた。逆に言えば彼がいなければ恐怖に負け続けた。怖かった。忘れたかった。
けど・・・こうして奴の影はまた俺に大きく忍び寄ってくる。子宮の中に芽生えた新しい生命として。

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」

何がいけなかったんだろう。勿論今だって答えは出ない。
でもそんな自分に恋人は優しく微笑んでくれた。また救いのある笑顔を浮かべ俺を抱きしめてくれた。

「そんなに自分を責めないで・・・君とお腹の子供は俺が守るから」

優しい言葉。救いの笑み。俺は笑顔でそれに答える事が出来ただろうか?

優しく、気高く、全てを受け入れてくれた十代目。彼の傍なら、俺は自分のトラウマも乗り越えられる気がした。




「君、お腹の子供が自分の子だって話してないんだって・・・」
「そうだよ。だから彼女すごい半狂乱になってる。もうさ見るからに精神不安定って感じ?」
「なんで教えてあげないの」
「だってその方が俺には都合がいいし」
「・・・・・」
「罪悪感から俺を傷つけないし、自虐心から有り得ないくらい俺を美化してくれてる。恐怖心から俺から離れられないし、追い詰められすぎてて狭い世界でしか生きられなくなってる。俺にとってはすごく都合が良い限りだよ」
「君は・・・彼女が好きなのに彼女の幸せを願えないの」
「幸せを願ってるよ。だから救いを与えて優しくて最高の恋人である俺が傍にいる事が彼女の幸せなんだからそれでいいじゃないか」


そう、追い詰められて逃げ続けて・・・それこそ何も見えなくなれば良い。そして俺以外信用できなくって怖くって傍に寄せ付けられないくらいになればいいよ。


「ストーカーなんて・・・あの日にもう死んでるのにね」

君を助けに行った日、彼は助けにきた俺の姿に驚いて無心で逃げ出し道路に飛び出して無様な姿で死んだのだ。
だけどそれは君の耳に入ることの無い真実。


でも・・・一生教えてあげない。
ずっと苦しんで怖がって怯え続ければいいさ。優しい優しい俺の腕の中で・・・。



ってわけで鈴木さんにささげさせていただきます。普段いただいている小説の御礼になりましたでしょうか?
生温いツナ獄です。そしてモブ(もっさん)の死因は鈴木さんのリクエストどおりにさせていただきました。
鈴木さんの大好物の猟奇と切断と・・エロ・・は次回に持越しってことで;

それではこんなのですが受け取ってください★