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彼女が消えてから二十年たった。あっという間の二十年。長かった二十年。
その時の中で僕は別の女性と婚約を交わしていた。
あの頃の僕から考えれば信じられないかもしれない。
絶望と寂しさと恐怖と空しさと、考えられる全ての闇に包まれたような気分だったから。ずっとこのまま一人で死ぬまで過ごすんだと思ってた。君の代わりなんて考えられなかった。
自殺しなかったのは君の幼稚な言葉を信じていたかったからだろう。
「自分で自分の命を奪う奴は天国にいけないんだってさ・・・」
神様を信じない僕と、妙なところで信心深い君。マフィアなんて商売の人間が天国を語るなんて笑い話にしか過ぎないが、君は本気で信じているような口ぶりだった。だから君のために僕は自ら命を絶たない。もう一度君に会いたいから。
マフィアを辞めなかったのも君のため。君を死に追いやったマフィアを壊滅させればちょっとは君への弔いになると信じていたから。神様なんかよりそんな事を僕は信じたい。そして何より、こんな死と隣り合わせの仕事のほうが忙しさで君を忘れることも出来たし、君に早く会えるチャンスが一般人より多いのも魅力だった。
不純な動機と自己中心的な考え方。それでもファミリーの役には立っていたようで君の敬愛していた十代目は何も言わずに僕を使ってくれていた。
そして皮肉なのか運命なのか僕の婚約者の親こそ、その十代目だというのだから君も驚くだろう。僕でさえ彼が結婚していたこと自体、婚約者の口から聞くまで知らなかったのだから無理はない。十代目の娘は一般人として育てられていたため本人の安全のためにファミリー内でも隠されていたようだ。
そう言えば初めて彼女と会ったとき君の生まれ変わりだと思ったといったら君は笑うかな?君と違う黒い髪と黒い目の少女なのに、なぜか君ととても雰囲気が似ていたんだ。さりげない仕草とか表情とか。
本当に、君が僕のところに帰ってきてくれたと思って僕は懐かしさを感じずに入られなかった。
年齢もちょうど君が消えた翌年に生まれてきたというのだから、輪廻転生ってあるんだろうと流石の僕でも思ったんだよ。
そんな彼女に僕がひかれていくのに時間はかからなくって、君がいなくなってから初めて側にいたい女性を僕は長い年月をかけて見つけ出せたんだ。君の代わり、というわけではないけれど始めて君以外に愛せた人間。
一番の問題は親と代わらない年の差と思ったけれど、彼女も僕の回りも意外とすんなり受け入れてくれた。唯一反対したのは君も良く知る黒髪の人物。あの人だけは最後の最後まで反対し続けたがそれ以外の人達は大喜びだった。君の姉さんなんか、君が死んでから廃人のようになってくれた僕を一番心配していたから泣いて喜んでくれたよ。
「大事なのは愛よ」
君と付き合っているときにも何度も諭された言葉だけど、この日の彼女の言葉にはあの日以上の深みを感じた。本当はこの人には反対されるかと思っていたんだ。君を誰よりも愛していた義姉だから、きっと君を裏切る行為を許してくれないと。
けれど彼女は僕の罪を許してくれた。それが一番君が望むことだと泣いて諭してくれた。喜んでくれた。
面白いものだね。君がいなくなって見えたものがたくさんあったよ。
僕はこんなにも周りから思われていたんだね。
新しい婚約者も僕の過去を知っても責めたりせず、無理に忘れさせようともしなかった。むしろ受け入れて、癒してくれた。
世界はこんなに優しいものだったのだと、知ることが出来た。
ごめんね、君のいない優しい世界で君以外の人と幸せになるよ。
僕は空に向かって謝りながら薬指の指輪を数年ぶりにはずす。今日からは新しい約束の証がここにはめられるのだ。
僕はあの日のように素早く用意をすると式場へと向かう。新しい旅立ちへと歩き出す。
「いってきます」
今度呟く「おかえり」が寂しいものになりませんように。
猫は鳥を愛してる。
猫は鳥に会いたいと鳴く。
それはきっと犬次第。
王様は小鳥を可愛がる。
猫が小鳥を生めたのに驚いたから。
これは面白いと可愛がる。
それが犬の知る答え。
猫は何も知らずに鳥を愛する。
(続きます) |
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