|
 |
 |
小さい頃の話。
俺は神様と闇の中を覗き込みながら小さな秘密を交わした。
「大切なものはここに隠さないとね」
にっこりと笑いながら少年の声で俺にそう諭す神様。俺はその言葉にコクリと頷く。
「心配ないよ。ここに隠せば永遠だから」
朽ちる事も失う事もない。永遠だけがここにある。
神様の言葉は幼い俺にはまだ難しくって意味が分からなかったけれど、とても深い意味と理由がそこに含まれていると思って俺は何も考えずまた頷いた。
「いい子だね、君は」
嬉しそうな神様の声。喜んでもらえたみたいで良かった。
俺はほっと胸をなでおろすと神様への忠誠の証として自分の一番大切なものを差し出した。
「さぁ、ここに入れて」
言われるままに俺は持ってきたものを入れる。
そして言われるまま蓋をして、言われるまま・・・。
これで永遠だ、と神様は後から俺を抱きしめた。
これが永遠のなのですか、と俺は小さく問いかけた。
そうだ、と答える神様。
そうですか、と俯く俺。
それが何故か悲しくて俺の頬は涙で冷たく濡れた。
本当は永遠なんて欲しくなかったのかも知れない。
欲しかったものは神様の笑顔。
ただ貴方に笑ってもらえれば俺は幸せだったんです。
けれどそんな幸せほど不安定な物はない。無理やり作った幸せは一度壊れれば崩壊は早く、朽ちていくのもまた早かった。
だから神様は嘆いたのだろう。だから俺は願ったのだろう。
「永遠の幸せ」を。
そしてそれを望んだあの日から俺は一人、深い深い闇の中。落ちていく−落ちていく。
手を動かしても冷たい感触だけ。暖かさなど何処にもない。広がるのは暗闇ばかり。響くのは自分の悲鳴ばかり。
助けて、助けて、助けて。
身体はどんどん重たくなる。あぁ、嫌だ。助けて。
ここはとても狭くて冷たくて何もない。幸せなんて何処にもない。
けれど神様が言うのだから信じよう。これが“幸せ”を“永遠”にする方法なのだから。
「獄寺くん・・・・だーいすき」
神様の嬉しそうな声が聞こえる。これで良かったんですね。これで永遠なのですね。
俺の目に広がるものが闇だけでも、俺に自由がなくても、息が出来なくて苦しくてもこれが永遠なんですね。
貴方のその一言で俺は救われます。
でも、なんでだろう。
あれほど幸せを願った貴方の顔が俺には分からないんです。
髪の色は何色でしたっけ?
瞳の色は?
鼻の位置は?
唇の大きさは?
身長は?体重は?
俺より小さい、大きい?
何も・・・分からない。
そうさ、なにも分からない。
そもそも
貴方は
誰でしたっけ?
でも嬉しそうな貴方の声を聞くと俺は歓喜に包まれる。
笑ってくれているであろう貴方を思うだけで俺は幸福をかみ締められる。
だから何も分からなくても貴方は神様だ。
それだけが絶対で唯一の貴方の名前。
それを胸に刻んで俺は貴方を思って瞳を閉じた。元々闇しかない空間だけど瞳を閉じれば闇はさらに深くなる。
「さようなら」
その言葉を呟いたのは俺が先か神様が先か。
そして次に目を覚ましたとき、俺は自分の教室で机に突っ伏して眠っていた。
夢・・・だったのだろうか?賑やかな教室。明るい部屋。ここには苦しみも闇も無縁だ。窓から入ってくる日光が温かい。夢の中とは大違いだ。
「大丈夫?随分とうなされていたみたいだけど」
まだ目覚めたばかりでぼんやりとしたままの俺の耳に優しい声が入ってくる。頭上から聞こえてくる声。ゆっくりと顔を上げるとそこには・・・
「か・・・み・・・・さま?」
「へ?」
「あ・・・いえ・・・ごめんなさい!十代目!!」
俺を心配そうに見下ろす十代目のお顔。それを見て俺は慌てて口元で手を振りながら誤魔化す。
うっかり彼を呼んでしまうところだった。あの夢の中の名前を。けれど、俺は確証する。夢の中でであった神様。あれは彼に違いないと。
顔も知らない。名前も知らない。
そもそも夢の中での話しだ。現実とは関係ない。
そう思いつつも俺の中には今までにはない忠誠心以上の感情が芽生えていく。
それは神様への信仰心。
十代目という神様への絶対の誓い。
そして俺は理解した。夢の中の言葉を。
−あぁ、貴方の言っていた永遠はここに繋がっていたのですね。
夢の世界から現実へ。これはなんという奇跡なのだろう。神様だからこそ起こせる奇跡か。
俺はそんな事を思いながら十代目の両手を掴むとぽろぽろと泣いていた。
−貴方にもう一度出会えて俺は幸せです。
「それがお前がアイツに懐いている理由か」
シャマルの声が保健室に響いた。授業中の保健室。休み時間と違い廊下からも人の声が聞こえないこの部屋ではシャマルの声が嫌というほど耳につく。
「そうだ、それが十代目に忠誠を誓った理由だ」
数ヶ月ほど前に見た夢。授業中、シャマルに保健室へと呼び出された俺は世間話がてらその内容を口にした。
不思議な夢の内容。夢の中で見た神様。
俺の言葉に大げさなくらい大きなため息をつくシャマル。急に呼び出しといてなんだその態度は。呼び出すだけ呼び出して何も話を切り出そうとしないお前のために俺はわざわざ気を使って世間話を始めたというのに。
確かにシャマルがため息をつく理由も分かる。夢の中の人物と重ねて現実の人物に忠誠を誓うなんて馬鹿げているだろう。けど俺は思ったんだ。十代目が自分を救ってくれる神様だと。
「十代目は神様だ」
はっきりそういった瞬間に目の前に差し出された珈琲。シャマルは作ったばかりのそれを俺に手渡すと面倒くさそうに書類を作り始める。腐っても保険医。一応、仕事があるのだと俺の相手を止め愚痴る。
「とりあえず、それを飲んだら戻れよ」
俺は忙しいんだから、と付け足すシャマルの背中を睨みながら俺は珈琲に口をつける。不味い。インスタントの物はすっぱい感じがして好きになれない。ミルクと砂糖を大量に混ぜ込み味をごまかすと俺は一気に流しこんだ。
「結局・・・呼び出しといて何の用だったんだよ」
「別に・・・最近お前とゆっくり話をしてねーなと思ってな」
「ただの暇潰しじゃないのか」
「そう思うなら次に来るときはもっと面白い話題をもってこいよ」
「そうかい、そうかい」
憎まれ口をお互いに叩きあい俺は飲み終わったカップを置くとひらひらと手を振りながら保健室を後にしようとした。シャマルは作成中の書類から顔を上げない。が、扉に手をかけ後一歩踏み出せば保健室を後にできるというところで背後から急に声をかけてくる。
「何か嫌なことがあったらまた来いよ。話しなら何時でも聞いてやるから」
随分とさっきと言ってる事が違うだろう。シャマルの気まぐれにため息を吐くと形だけのお礼を良い今度こそ俺は保健室を後にした。
−あぁ、早く神様に会いたい。
さて、勢いで保健室を出たはいいけれどこれから何処に行こうか。
休み時間まではまだ数十分残っている。授業中の教室に戻るのも良いがなんとなくわずかな時間だけ授業を受けるのも教師への説明も面倒くさく感じ、俺の脚は無意識に教室とは逆歩行へと歩いていた。何より今十代目が授業を受けているのにそれを中断させるなんてもってのほかだろう。
そう考えながら歩いていると足は人気の少ない方へ、方へ。すると何故か向かいの校舎の廊下に姉貴がたっていた。中庭を挟んで見えた姉貴の顔。姉貴は俺の存在に気がつくと足早に校舎をわたり近づいてくる。
「あら、隼人」
明るい声。だがその明るさとは対照的に俺は青い顔で口元を押さえ腹を抱えた。気持ち悪い。幼い頃のトラウマで姉の顔を見るだけでいつもこんな風になってしまう。はぁ・・・保健室から出てきてから体調を崩す何て笑い話だ。
「ねぇリボーン見なかった?」
姉は青い顔をする俺に気づいているのかいないのか。そんな事を聞きながら俺に近づいてくる。止めろ。これ以上近づくな。そう叫びたいが別のものが喉にこみ上げてくる。
・・・う、吐くかも。そう思った俺は姉貴の静止を聞かず反対方向へと走っていた。これ以上姉貴の姿は見たくない。何か後ろから言っている気がするけど俺は足を止めずにただ走っていた。
とりあえず、あても無く走り続けて走り続けて・・・俺は気がつくと屋上へと向かっていた。
新鮮な空気でも吸えば気持ちも良くなるだろうか。屋上に続く扉を開いた俺は青空を見上げて精一杯空気を吸い込む。
「はぁ・・・」
思わず零れるため息。随分と正直なもので俺の体は開放的な屋上に出ただけでだいぶ楽になった。
見渡す限りの青い空。高いところから見下ろす下界。全てが気持ち良い。
両手を広げて俺は体を伸ばす。そして暫くストレッチをすると静かな声が頭上から降り注いだ。
「授業中になにしてるの」
その声を聞いて俺は眉間に皺を寄せる。俺が今来ている形とは違った制服に身を包んだ少年。黒、という色だけで統一されたその姿を視界に入れた俺は憎憎しげに名前を呼んだ。
「・・・雲雀」
「サボり?なら噛み殺すよ」
「ちげぇよ。・・・体調崩して気持ちが悪くなったからここに来たんだ」
嘘が半分に本当が半分。でもそれ以外言い訳の言葉が浮かばなかった俺はそれだけ言って口を紡ぐ。雲雀も余計な詮索はせずに「ふーん」とだけ返すと貯水槽から飛び降りて俺の横に立った。
「まぁ良いけどね。今日は群れていないみたいだし」
群れているとは十代目と俺のことだろうか。けど俺は群れているつもりはない。十代目に・・・神様に仕えているだけだ。それをこいつに説明する気分に離れないけど。
「まぁそれに気になることがあるから君に構っている時間なんて無いし」
何も離さない俺を気にする様子もなく雲雀は珍しく話を続ける。何処までも上から見下ろすような言い方が腹立たしいが今はこいつと喧嘩をする気分にはなれない。多少楽になったとはいえまだ身体が本調子ではないことは不利だ。それに・・・。
「気になること?」
雲雀の一言が気になった俺は思わず問いかけていた。すると雲雀はスタスタと屋上を取り囲むフェンスまで歩いていき俺を招き寄せる。
「あれ」
雲雀がそう言ってフェンスから指差したのは校庭でふよふよと漂っている白い靄を指差した。それは大きさなら大人位のサイズだろうか。謎の白い靄は校庭のみならずここから見える教室や校舎周辺。雲雀の指に促されるまま視線を動かせば学校中の色んなところでフヨフヨと漂っている。
「なんだあれ」
「僕が聞きたいよ。まぁ一つ分かっていることは・・・僕のテリトリーに入ってきてるってことだね」
雲雀は好戦的な笑みを浮かべると自らの武器を構える。誰かがバトルマニアだとか言っていたがまさにその通りなのだろう。雲雀はあの謎の靄を噛み殺せることに喜びを覚えているようだ。
「敵なの・・・か?」
生徒達・・・いや、十代目が危険に曝される危険は?
俺が次の言葉を紡ぐよりも先に雲雀はフェンスを飛び越え何処かへと行ってしまった。
フェンスから地面を見下ろすがそこには雲雀の姿は無い。
「せめて会話を完結させてからいけよ」
呆れたように俺が誰もいない地面に呟くと同時にチャイムの音が響き渡った。やっと待ち焦がれていた休み時間だ。早く教室へ帰ろう。
教室に戻るとすぐに俺の席に十代目が駆け寄ってきた。
「大丈夫?もう用事は良いの?」
どうやら十代目は俺が保健室に呼び出されていた事を急用か何かと勘違いされていたようだ。確かに授業中に教師・・・シャマルから呼び出されたのだから、普通は気にしないほうがおかしい。
「大丈夫です。大した用ではありませんから」
十代目のお心を煩わせたシャマルを恨みながら笑顔を作り十代目に答える。まったく、十代目には余計な事で心配なんかおかけさせたくないのに・・・。
が、そんな事を考えていた次の瞬間、俺はぎょっとした。
「どうしたの?随分と顔色が悪いみたいだけど」
十代目が心配そうに俺の顔を覗き込んでいるが俺は答えることが出来ずにただ黙って指を指した。それに気づき十代目が俺の指が示すほうに顔を向ける。
「ん。どうかした?何かあそこにある?」
不思議そうに再び俺に顔を向ける十代目。そんな十代目の言葉を聞いて俺はさらに驚いた。
十代目には見えていないのだろうか?教室に入ってきたあの白い靄が。
雲雀が屋上で教えてくれた謎の靄。アレだけの大きさだ。指を差して気がつかない方が不自然だろう。ならやっぱり見えていない?
少なくとも白い靄が教室に現れた事で騒いでいる奴はいない。顔色を変えたのは多分・・・俺だけだ。
「落ち着け獄寺」
十代目の背後から聞こえた声で俺ははっと意識を十代目のほうへ向けた。
「その声は・・・」
「リボーン」
十代目の背後からひょっこりと姿を現した小さなヒットマン。十代目はバツが悪そうにその姿を他のクラスメートに見えないように隠しながら小声で話しかける。
「どうしたんだよ」
「どうしたもこうしたもねーぞ、ダメツナ」
「へ?」
「獄寺は・・・気づいているんだろ」
リボーンさんの言葉に俺は黙って頷く。するとリボーンさんは意味深な笑みを浮かべて言葉を続けた。
「なら良かったぞ。俺と雲雀だけじゃ手が足りねーからな」
「それって・・・」
「お前に頼みたいことがある。あの靄が見えてるなら俺たちと・・・」
「リボーン!!」
その時、リボーンさんの言葉をかき消すように教室に響いた声。ヒステリックなその声に十代目と俺は同時に顔色を変えた。
「こんな所に・・・探したのよ!」
「・・・ビアンキ」
「姉貴・・・」
「また貴方が連れていったのね。もういい加減にして」
睨みつける姉貴。一方的に自分勝手なことを言うと十代目からリボーンさんを奪い抱きしめる。
急にやって来てなんなんだ。十代目に失礼にも程がある。・・・が言い返したくても姉貴の登場で吐き気を覚えた俺には何も出来ない。
気持ち悪い。お腹が痛い。吐きそうだ。
口元を押さえる俺。やっぱり姉貴は嫌いだ。目の前がくらくらする。
「獄寺君!」
十代目の悲鳴のような声が聞こえた。
あぁ、俺のことで心配をおかけしてすみません。
神様のような貴方には何も気にせず心穏やかに過ごしていただきたいといつでも思っているのに。
ふがいない俺をお許しください。
ガクンと身体が座っていた椅子から滑り落ちる。
あぁ・・・やっぱり姉貴なんか嫌いだ。
そう思いながら俺は意識を手放した。
「あ、眼を覚ました」
気がつくと俺は公園のベンチで横になっていた。俺を見取るように地面に膝を突き俺の顔を覗き込んでいるのはクローム。なんで此処に?黒耀の制服に身を包む少女の姿を疑問に思いながら俺は現状の把握に頭を回す。
思い出そうとするが何故、自分がここにいるのか思い出せない。クロームがここにいる理由も。確か俺は・・・教室で姉貴に会って気持ち悪くなって意識を手放したはずでは?そんな疑問が顔に出ていたのだろうか。クロームは静かに唇を動かし説明をしてくれた。
「ボスが・・校内には隼人のお姉さんがいるから・・・隼人を此処まで連れ出してくれたの。倒れたとき顔色が悪かったし・・・これ以上悪化させたら可哀相だからって・・・私を呼んで・・・」
それを聞いて俺は納得した。確かにあれ以上姉貴と接触すると危険すぎる。十代目の判断には感謝だ。そしてそこまで俺を思って考えてくれるなんて。やっぱり十代目は神様だ。俺は胸が熱くなる思いを抱えながらずっと見守ってくれてたクロームにもお礼を言った。
「悪かったな。ずっと目を覚ますまで見ててくれたんだろ?迷惑かけたな」
「構わないよ・・・隼人のためだもん」
そう言ってクロームは首を振る。そして突然何処からかともなく魚の干物を取り出し俺に突きつけた。
「食べる?」
クロームの言葉に俺は答えることが出来ず固まった。
干物。魚の干物。コレが普通の家の食卓でさらに乗った形で言われたなら俺は頷けたかもしれない。しかし今は公園。しかも皿は無くクロームは素手で俺の目の前に差し出してきている。
「いや・・・いい。遠慮しとく」
「そう」
俺がそう言うとクロームは何の躊躇も無く魚の干物を加えた。そして視線で訴える。
『栄養をつけないとまた倒れるよ』と。不器用な彼女なりの配慮なのだろう。それに感じクロームが魚を食べている姿に俺は苦笑してしまった。
しかし、その途端・・・またも現れた白い靄。中学校だけじゃなかったのだろか?気がつくと公園の中に二・三の靄が集まってきていた。
「なんだ・・・よ、これ」
正体不明の謎の靄に俺は恐怖を覚える。本当に何なんだ一体。何処にでも現れるものなのだろうか。
「はや・・・と?」
魚を食べ終わったクロームが指先を舐めながら俺を見つめる。クロームは気づいていないのだろうか。そう言えば先ほど、十代目も気にしていなかったようだが。
「クロー・・・」
確認の為に名前を呼ぼうとする。しかしその瞬間、白い靄の一体が俺たちに突然向かってきた。その靄の行動に俺より先に反応したのはクローム。クロームには見えているのか、あの靄が。
「隼人・・・骸様の所へ」
クロームは小声でそう言うと白い靄の脇を抜け、そのまま公園を駆け出していった。その姿に白い靄は動きを止め、またふよふよとあても無く動き始める。不規則な上に行動の基準が分からない。本当にこの靄は何なのだろう。
「とりあえず・・・言われた所に言ってみるか」
クロームにはあの靄が見えていたようだった。そしてあの言葉。俺は迷うことなく骸のいる黒耀センターを目指し走り出していた。
黒耀センターにつくと入り口には柿本と犬が無言で立っていた。骸から何か言われているのだろうか。いつもなら食って掛かってくる二人がやって来た俺に何も言わず、そのまま中へと誘導する。
歓迎・・・というには友好的な言葉は無いが争う気もないと見て言いのだろう。二人は俺を骸ののいる部屋まで連れてくると一言も話さないまま元来た道を戻っていった。
人気が元々無い上に一人取り残された室内。真っ暗で闇だけが広がる部屋。独特の匂いと雰囲気があるそこはあまり居て言い気分がしない。
「クフフ・・・君は余りここが好きではないようですね」
俺が辺りを見渡しながらそんな事を考えていると突然、声が耳に入ってきた。
「骸!?」
声の主の顔を見ようと首を回すが姿は見えない。あるのはただ暗闇だけ。骸はその闇の中から姿も出さずに俺に話しかけてきた。
「向かい合ってゆっくりお話したいのですが今はそんな訳にもいかないものでしてね・・・。白い靄。アレが気になって貴方は此処に来たのでしょう」
「その言い方だと・・・お前はアレを知っているのか」
「詳しく、とまでは言えませんがね。少なくともあの靄が現れたせいで僕は君の前で姿を出せずに居る」
忌々しいものです。口ではそう言いながら骸の声色は嫌に楽しげだった。
「クハハハ!実に興味深いですね、一体アレが何なのか!!実に興味深い」
「・・・・お前」
「まぁでも・・・そう思っているのは僕だけではないようですが」
骸の声がそういうと同時に俺の背後からバサリと羽の音のようなものが響いた。
「あれは君が原因かい」
そう言いながら現れたのは屋上で別れた雲雀。雲雀は両手に愛用の武器を構えながら姿の無い骸に威嚇する。
「酷い誤解が生まれているみたいですね」
「君以外にあんな悪趣味な真似を僕の並盛にする奴がいるとは思えないな」
「そう言われても僕も被害者なのですがね」
クフフと笑う骸に苛立ちを覚えたのだろうか。雲雀は闇に向かってトンファーを振り落とした。勿論何かに当たるわけも無くトンファーは空を切るばかり。けれどそれも気に食わないようで雲雀はさらにトンファーをいたるところに向かって振り回す。
「・・・・君、何時まで見てるの」
雲雀の無意味な行動を黙ってみていた俺にまだ雲雀は苛立ちを向けてきた。
「とっとと帰りなよ。それとも君はまだこんな所に用があるわけ」
「用・・・っていうか・・・」
雲雀も俺も此処に来た目的は同じはずなのだが雲雀はすでに怒りで見失っているようだ。結局、この雲雀がここにいる限り俺は骸から落ち着いてあの靄について聞くことは出来ないだろう。それが分かってか骸は俺に向かって楽しげに呟く。
「また − 来てくださいね」
その言葉に頷き俺は雲雀を置いて黒耀センターを後にした。
が、出てすぐに意外な人物に俺は出会う。
「シャマル・・・・?」
「隼人か・・・」
なんで此処に。そんな疑問を抱く前に俺はシャマルの後ろに見えた白い靄に表情を変えた。
「また・・・あれか・・・」
唇をかみ締めてうなる俺に違和感を感じたのだろうか。シャマルは俺の顔を見つめると小声で囁く。
「何があったかは知らないが・・・むやみに此処には近づくな」
真剣な顔でそう呟くシャマル。しかしそれは直ぐに何時ものつかめない笑みに変わり、俺の頭にごっつい手を乗せるとぐちゃぐちゃと乱暴に撫で始めた。
「顔色悪いぞ。今日は帰って早めに休め」
「・・・・・・・」
「話しなら何時でも聴いてやるって言っただろ。明日になって落ち着いたら俺のところに来ればいいさ」
シャマルはそう言うと俺の手を掴み並盛に向かって歩き出した。気がつけばアレだけあった白い靄もどこかへ消えてしまっている。
というか・・・シャマルが現れた事で消えた?
「シャマル・・・?」
聞くべきか聞かざるべきか、それが俺にはわからない。とりあえずこの日は俺は言われるまま自宅に帰ると直ぐに眠りについた。
翌朝、何時もの時間に目を覚ます。そして何時ものように十代目の家へ。
頭の中は考えたい事で一杯だったが十代目が居る以上、学校を休むわけにはいかない。とりあえず教室まで十代目を送り届けたらそのあと直ぐにシャマルのところへ。
そんなことを考えながら十代目が来るのを待っていると扉が開く音が聞こえた。
「おはよう、待たせたね」
笑顔で挨拶してくる十代目。その笑顔を見ていると昨日までの出来事が嘘みたいに感じる。それどころか心の中に広がるのは平穏。あぁ・・・やっぱりこの安らぎを与えてくれる十代目は神様だ。
「おはようございます十代目」
にっこりと俺も笑顔で答えると“神様”は普段と変わらないように学校までの道を歩き始めた。
しかし穏やかな雰囲気の中でも目に付くのはあの白い靄。十代目との登校中の道でも靄は至る所に現れる。本当にアレは何なのだろうか。
けれど昨日同様、十代目は気にしている様子は無い。むしろそれが無いかのように普段と変わらぬ態度で俺に接してきているのだ。
「どうしたの?俺の顔に何かついてる?」
不思議に感じじっと見つめていた俺を不思議に思ったのか十代目はそんな事を尋ねてくる。俺はとっさに首を振った。
「な、なんでもないです」
そう?と首を捻りながらもそれ以上聞いてこない十代目。そう、それでいい。気づいていないのならそれでいい。俺は十代目の変わらぬ笑顔にそう思った。
知らないならそれで良い。余計なことに気を煩わせたくは無い。
何も知らないなら・・・何も知らないまま俺が終わらせれば良いだけだ。
そう思い俺は十代目の背中を見つめた。
あぁ、俺の神様。貴方が俺を悪夢から救ってくれたように俺が貴方を守って見せます。
そう誓った俺の口元には知らずに笑みが浮かんでいた。
教室まで十代目を送り、俺は早速シャマルのいる保健室へと向かっていた。が、その途中で昨日に引き続き姉貴の姿を廊下で見かけ足を止める。
姉貴の腕の中にはリボーンさんが居た。思えば昨日、リボーンさんは俺に白い靄の事で何かを言いかけていたような・・・。姉貴はリボーンさんと何かしら話をしているようだったが姉貴の顔が満足に見れない俺は近くによることも出来ないためにその会話が上手く聞き取れない。聞こえるのは一方的な姉貴の声のみ。
「・・・が・・・で・・・・」
けれどその姉貴の声も断片的で要領を得なかった。もしかしたらあの靄についての情報が入るかと思ったのだが・・・まぁ後で姉貴がリボーンさんから離れたのを見計らって聞けばよいだろう。
俺はそう決めると姉貴から逃げるように別の道から保健室に向かった。遠回りになるが姉貴の姿を見るよりマシだ。別の校舎へ足を向けると廊下の向こうからクロームが俺に駆け寄ってきた。何故か後ろには大量の白い靄を連れて。
「助けて・・・!」
クロームはそう叫びながら俺の横をすり抜けていった。そして窓を見つけるとそこから校舎を抜け出し追いかけてきた靄を巻く。
あれ・・・ここは並盛中学校だよな。何でクロームが?俺がそう思いながらクロームが逃げた窓から身を乗り出す。するとクロームは窓の下に茂っている植木の中で身を丸め姿を隠していた。
「クローム・・・・」
「助けて・・・・・・助けて・・・」
泣きながらそれだけを繰り返すクローム。彼女が頼る骸が姿を現せない以上、もしかしたら十代目を頼ってきたのだろうか・・・。憔悴しきったクロームの様子に胸を痛めた俺は当たりから知りもやが消えたのを確認すると泣き続けるクロームの手を引き一緒に保健室へと向かった。
「お・・・きたか隼人・・・ってそれはどうしたんだ?」
シャマルは俺が連れてきたクロームを指差しながら笑っていた。
「困ってるんだ・・・こいつを頼みたい」
「頼みたいって・・・おまえなぁ」
俺が縋るようにシャマルを見上げると奴はヤレヤレと肩をすくめながらクロームを預かる。
「お前は此処を何かと勘違いしてねーか」
「・・・・・・・」
「まぁいいさ。それで、お前さ・・・」
ガラ
シャマルが何か言いかけたところで保健室の扉が開かれた。
「あら・・・隼人、こんな所に居たの」
「姉・・貴!?」
扉の向こうから現れた姿に俺は口元を押さえると姉貴を突き飛ばして保健室を飛び出した。
「おい!隼人」
シャマルが俺を呼ぶ。が、腹痛と吐き気を抑える俺はその声に答えず一番近いトイレに飛び込むとそのまま便器を抱え込んだ。
うえ・・うえ・・・と嫌な味がこみ上げてくる。
あぁ・・・本当にもうなんなんだ。昨日から姉貴との遭遇率が高すぎる。そもそも此処は中学校なのに部外者の姉貴が居るのはおかしいだろう。
そんな愚痴と共に俺はこみ上げてくるものを吐き出した。
ジャー・・・っと水の流れる音が耳に入り、俺が吐き出したものが消えていく。ぬれた口元を乱暴に袖で拭い個室の扉を開けると、ふと俺は思い立ち顔を上げる。
さっき、保健室に来ていた姉貴は確か一人だった。だったら・・・今なら・・・。
「リボーンさん!」
俺は僅かな手がかりを求めてリボーンさんの姿を探した。
リボーンさんからなら情報がつかめるかもしれない。あの白い靄の謎が。そしてその情報を頼りに俺は十代目を助けるのだ。俺の力で俺の手で。
俺の神様を救うのだ。俺の力で俺の手で。
はぁはぁ・・・と息を切らせながら校舎中を探し回り、俺は教室でリボーンさんの姿を見つけた。
「あれ・・・獄寺くん?」
教室に送り届けてから姿を現さなかった俺が現れたことに十代目は驚いているようだったが、十代目の隣にいたリボーンさんは待っていたようだ。不敵な笑みを浮かべ俺を真っ黒な大きな目に映し出す。
「待ってたぞ」
「はい・・・・俺も探してました」
「じゃあ話が早いな。早速だが・・・」
「リボーンさん!」
俺は大きな声で言葉をさえぎる。急に大声を上げたせいで十代目はオロオロしながら俺とリボーンさんを交互に見つめていたが俺は短く謝るとリボーンさんを抱えて教室を後にした。
すみません、十代目。貴方には何も知らないままで居てほしいんです。
俺が貴方を守るから。神様はどうか何も知らずに心穏やかなままで居てください。
「リボーンさん、ここなら誰も居ません」
教室から校舎裏に連れてきてもリボーンさんは何も言わなかった。多分、俺の様子に事情を察してくれたのだろう。文句も言わずに一言「しょがねーな」とだけ言い先ほどの話の続きを語り始めた。
「お前が見てきた白い靄の正体だが、あれはボンゴレと対立しているマフィアが生み出した新しい兵器だぞ。どうやら・・・ツナの命を狙ってやってきたみたいだな」
「十代目の・・・命を」
リボーンさんの言葉を聞いて俺は拳を強く握った。
十代目が狙われている=神様が殺されようとしている。
その図が瞬時に俺の脳裏をよぎる。
「ただアレは普通の兵器じゃねー。ゴーラ・モスカ以上に厄介な兵器だ。人の精神を犯し、侵食する能力を持っている」
「骸もそのせいで・・・」
「そうだ。そしてその精神汚染は無意識に相手に“存在しないもの”として認識させるんだ。だからツナみたいな精神面の弱い奴はすぐにその存在が見えなくなっちまうんだな」
まったくダメツナは・・・。呆れながらリボーンさんはため息を吐いた。
「まぁけどお前や雲雀には見えてるみてーで安心したぞ。けど雲雀は俺の話を聞こうとしねーからいても居なくても変わらないけどな。クロームにも見えてたみたいだがアイツは骸がやられてパニック起こしたのか無茶しすぎたみたいだ。てわけで・・・今、頼りになるのはお前だけだ。獄寺」
「・・・・・・」
「あの兵器が厄介なのは精神汚染以上に普通の武器が通じねーことだ。雲雀はその話を聞かないせいで一人で突っ走ってるがな。てわけで・・・獄寺」
リボーンさんは俺の名前を呼ぶと俺の手に何かを握らせた。
「これでお前が倒すんだ」
俺の手に握られたのは赤黒く錆びた“キョウキ”。ゆっくりとその表面を撫で俺はポツリと呟く。
「俺の手で・・・守れるんですね」
十代目を守れる。十代目を俺の手で。俺の手で俺の手で・・・神様を守れるんですね。
あぁ、それはなんて甘美な響き。俺はうっとりとしながら渡されたそれを抱きしめた。
「ありがとうございます」
微笑んで答えると、俺たちの元に足音が近づいてくる。そして足音の主は俺とリボーンさんを見つけると穏やかな声を向けた。
「あぁ・・・リボーン、ここにいたの」
姉貴はそう言ってリボーンさんを胸に抱く。本当に姉貴との遭遇率が高い。
俺はなるべく姉貴の顔を見ないようにしながら視線を地面に落とした。
「ハヤトが連れてってたの?駄目よ、勝手に連れてっちゃ」
「あ・・・あぁ」
「今度から気をつけてね。さぁ行きましょう」
そういって姉貴が差し出してきた掌。けど俺はそれを払いのけると姉貴は戸惑ったように・・・それでいて困ったように俺にもう一度手を差し伸べた。
「さっき会ったときから変よ、隼人。なにか抱えていることがあるなら一緒にシャマルのところに戻りましょう」
姉貴の声が響く、が俺はそれに頷くことも首を振ることもしなかった。それどころか何も言わずにリボーンさんに渡された武器を姉貴に向ける。
「隼人・・・それ・・・」
姉貴はそれを見て息を呑んでいた。リボーンさんから聞いていたのだろか。
俺のが武器を持つ姿を見て何も言わずに道を開ける。
「・・・はや・・・と・・・」
姉貴は震えながら俺の名前を呼んでいた。リボーンさんは何も言わなかった。
誰にも俺を止められない。俺にはしなきゃいけないことがあるのだ。
さぁ、俺の手で神様を救おう。
俺はキョウキを握り締め走り出した。
走り出した俺は目に入った靄に武器をつきたてた。まず一体。崩れていく白い靄を見下ろしながら集まってきた他の靄たちに向かって武器を振り回す。
次から次に集まってくる靄。するとその内の何対かが校舎の中に向かって進入を始めた。
やばい。あっちには何も知らない生徒や神様がいるのだ。
「待て!」
俺は慌てて校舎に入っていく白い靄を追いかけた。そんな俺を追って白い靄が一つ二つと増えてくる。数に限りが無いのだろうか。無制限に増えていく靄に追われながら俺は教室を目指した。
神様神様神様・・・どうか無事でいてください。
祈るような気持ちを込めて俺は一体でも彼を傷つける物が減るようにキョウキを突き立てる。
そして気がつけば辿り着いた教室。俺が扉を開くとそこにはただ一人、十代目が立っていた。
「ごくでら・・・くん?」
窓辺にたたずみ穏やかな笑みを浮かべる十代目。何も知らない無邪気な笑顔に俺は泣きそうになりながら叫ぶ。
「ここから逃げましょう」
俺は神様に手を差し伸べた。何も知らない彼に突然こんなことを言っても戸惑うだけだろう。実際彼は差し出された掌を見て暫く考え込んでいた。
「獄寺くん?」
「俺の手を取ってください」
「獄寺くん」
「お願いします、時間が無いんです」
「ごくでら・・・くん?」
俺は思わず十代目の手を掴んでいた。そして未だに状況が飲めていない十代目の掴み教室を飛び出そうとする。
が、
時はすでに遅かった。
教室の出入り口は全て白い靄が覆っていた。そして数をなした靄は少しずつ俺と十代目に近寄り・・・十代目を包み込んでしまう。
「や、やめろ!!!」
俺は見えなくなる彼の姿に叫んだ。
助けるって誓ったのに!白い靄は俺をあざ笑うかのように俺たちを包み繋いでいた掌を無理やり引き離していく。
「神様神様神様!!!!!」
強い力で床に押さえ込まれた俺はただ叫んだ。靄は俺の視界を覆い、もうなにも見えない。彼の顔も、彼の声も・・・何も届かない。
「・・・やだ・・・・」
次の瞬間、目に映った光に俺は首を振った。
銀色に光るアレ。アレは・・・姉貴と一緒で俺は嫌いなんだ。
銀色に光るアレは俺の腕に徐々に近づいてくる。
いやだいやだいやだいやだ・・・嫌だ。
逃げたくても体が動かない。靄に覆われ、強い力に抑え込まれ俺にはなすすべも無く涙を流し悲鳴を上げた。
「こんなの・・・いやだ・・・・」
掠れた声で呟けば、神様の声が答える。
「分かった」
そして俺は世界に別れを告げる。
姉貴は静かに泣いていた。
持っていた携帯電話に付けられた黒い瞳の人形は揺れていた。
シャマルは困った顔をしていた。
腕の中に真っ黒な猫を抱えて戸惑っているようにも見えた。
一羽の鳥は自由に羽ばたいていた。
暫くして地面に降り立つと土を嘴で掘り起こし埋められていた屍骸を啄み糧とする。
最初に眼に入ってきたのは鉄格子がはまった小さな窓。血のような真っ赤な夕日。それが鉄格子によって何分割化されながら俺の眼に焼きついた。
次に見えたのは夕日に照らされた白い壁。真っ白な壁は俺を取り囲むように存在し、今は夕日に照らされて独特な色を提供してくれている。
最期に見えたのは覗き窓のついた扉。唯一この部屋と外を繋ぐであろうその扉には厳重に鍵が掛かっていて俺に自由が無いことを無言で伝えている。
あぁ、でも俺は自由だったのだろうか?そもそも俺はさっきから視線しか動かしていない。ベッドで横たわったまま起き上がれない俺。否、ベッドに拘束されている俺は起き上がることが出来ないのだ。
何故、自分がこんな状態でいるのか。何故、自分には自由が無いのか。そんなことを考えることは何時間か前に放棄した。泣いて叫んで暴れてもどうにもならず逆に拘束された自らの体に無意味に傷を増やすだけと悟ったからだ。
擦り傷きり傷。拘束されている手首が痛い。ずっと同じ姿勢だから背中も痛くなってきた。消してベッドが硬いわけではないのだけど何時間も身動きで傷に放置されれば柔らかさなど関係ない。
唇は乾いていた。喉から声を出すことも出来なかった。涙も枯れていた。
こうなってくると本当に自分が感じている時間が正しいかさえも疑わしい。
本当は数時間しか経ってないと自分が思い込んでいるだけで実際は何日も何ヶ月もここに拘束されているのではないのだろうか?自分と、窓と、扉と、白い壁しか存在しないこの部屋に。
もう、どうでも良い。あきらめに近い気分だった。だって泣いて叫んでもどうにもならないわけだし。暴れても痛いだけだし。あぁ・・・嫌だ嫌だ嫌だ。全部嫌になってきた。今までは姉と銀色に光るアレだけが嫌だと思っていたがそれ以上のものが出来てしまった。
嫌なことだらけで嫌になる。どうしようもない現実がさらに嫌だ。本当に何時まで自分はここでこうしてれば良いのだろう。一人でこの部屋で何時まですごせば良い?
そんなことを考えてたら扉の覗き窓から誰かの瞳が見えた。瞳はきょろきょろと忙しなく動いたかと思うと俺の姿を見つけてその動きを止める。誰の眼だろう。もしかしたら俺を助けに来てくれた人物?甘い期待と分かっていても助けを求めずにはいられない。
「こんなの・・・嫌だ」
ただ一言。それだけ言うと瞳の人物は少年の声で優しくささやいた。
「わかった」
その声をきっかけに、俺はこの世界に別れを告げる。
あぁ、あの瞳の少年は俺をこの世界から解放してくれたまさに神様なのだろうか。そうに違いない。だって俺の心はこんなに晴れやかで体は開放的で、全ての呪縛から介抱されたかのように心地良い。神様、神様。俺の神様。心の底からそう感じた。じっと俺を見つめる神様と視線を合わせて俺は感謝と共に目を閉じた。
そして俺はせかいに別れを告げる。
さぁ、せかいにさよならを−。
カルテNo.0015234
ゴクデラ ハヤト
現実逃避による幻覚・幻聴・妄言などが見られる。
主な症状は以下の通り。
1.療養施設を校舎と例え、入院生活を学生生活として認知している。
→この状態の時、本人は食堂を教室、私室を自宅、庭を公園、裏山を黒耀センター(この名前に意味があるかは不明)と発言しその場にふさわしい行動を行う。
2.人以外を人として見ている節がある。
→施設内に迷い込んでくる野良猫、または野鳥を同年代の少年少女として認識している。幻覚・幻聴が酷いときには会話も行っている。また何もない空間に向かって話しかけている姿も目撃されている(これは裏山でよく見られる行動。自らが生き埋めにした動物達や物と会話している?)。
3.2の症状とは逆に人を認知しない。
→主治医と姉以外を『白い靄』と例え恐れている。また患者Sを人として見ているが『神様』として例えている。これに関しては幼少期の事件が深くかかわっているらしい。
病の主な原因は幼少期に幼なじみの少年に生き埋めにされていた事が原因と思われる。
姉によると本人はその少年に深く心酔し、心を許していたらしい。ただその少年と行っていた遊びを危険視していた姉により少年との接触は著しく減った。ただそれにより本人達の感情が爆発し、最終的には今回の病の原因となる事件へと繋がる事となる。
1)本人と少年は幼い頃、裏山へ宝物を隠す遊びをしていた。提案者は少年だった。
2)宝物は子供の玩具から本、または生きた動物だったらしい。幼い本人達にとって宝物とは『自分たちの好きなもの』の総称だったようだ。
3)裏山へ隠すという行為は『裏山へ埋める』という行為の事だった。それに気付いた姉によって少年と本人は遊ぶ事を禁じられた。
4)裏山に隠すという行為は本人達にとって神聖な儀式だったらしい。埋めたことにより『宝物』は誰の目にも手にも触れる事のない物へと変わるからだ。
5)本人は最期に少年の宝物として生きたまま埋められた。土の中で数日どう過ごしていたか発見されてからずっと精神を患っている本人から聞くことは未だに叶っていない。
6)少年はこの事件の後、姿を消している。
成長するにつれて症状を悪化させた本人は当病院に入院する事となった。両親は本人に人として認知されなくなった日から見舞いに来ることはない。姉のみ元凶を作った責任を感じ本人をかいがいしく世話を焼いているが、本人は何故か姉に酷く怯えている節がある。それも幼少期の少年の記憶と繋がるからか、またはその少年との接触を強く禁じていたのがこの姉だからか。それについては調査中。
入院初期は大人しく、症状も落ち着いていたが患者Sが入院してきたのをきっかけに感情の起伏が激しくなる。何故か患者Sを『神様』と呼び慕うようになリ、幻聴・幻覚の症状も強く現れるようになった。これに関して姉は患者Sと本人を生き埋めにした少年の面影が似ているためではないかと発言している。
患者Sと接触を始めてから本人からの妄言も増えた。幻聴・幻覚による暴走行為も増え、最終的には『白い靄』と例えていた当病院の職員をナイフで刺すという事件をおこしてしまっている。現在は鎮静剤と厳重な監視、個室での対応。患者Sとの接触を望む言葉を何度も叫んでいるようだが患者Sと職員の安全のために−
某トラウマエロゲーのプレイ動画を見てやっちまいました。いや・・・あのEDは欝になるって。でもこうしてネタにしてるあたりは萌えた部分もあったということでww
ちなみにラストも分かりにくかったので下にまとめてみやした。
@雲雀さんは本物の鳥。カラス。屋上での会話はカラスを相手に獄の独り言。
Aクロームさんは野良猫。勿論、獄との会話は獄の独り言。
B骸さんは獄が生き埋めにした動物の死骸。柿ピー達も同様。もれなく会話は獄の・・・。雲雀さんが来たのは死骸を啄むため。喧嘩をしに来た訳ではなく食べにきてた。
C白い靄は獄のいる施設の職員。公園で白い靄がクロームさんに迫ったのは獄が猫を生き埋めにすると思ったから保護するため。逆に校舎内でクロームさんが追っかけられているのは施設に入ってきたから追い出すため。
Dリボーンはビアンキの携帯電話のストラップ。ビアンキとリボーンが会話してるのは正しくは携帯をビアンキが使っていただけの事。リボンと獄の会話は獄の独り言。
Eシャマルとビアンキとツナは実在の人物。
Fビアンキがリボーンを探しているのは携帯電話を無くしたから(持っていかれたから)。ツナから取り上げたのはツナが勝手に携帯電話を持っていってたから。獄に怒らないのは身内だから。
Gキョウキは狂気であり凶器。
こう・・・書かないと分かりにくい部分が多いね!一応、伏線は張ってたつもりです;文章が稚拙ですみません!無駄に長かったし!!
でもここまで読んでくださってありがとうございます!!
|
|
|
|