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空にはぷかぷか浮かぶ白い雲。太陽はまぶしいくらい輝いていて、青空とのコントラストが美しい。風が少し肌寒いのが難点だけど、校舎の屋上の開放感はなんとも言えず気持ちが良いものだ。
ぐっと両手を空に向けて体ごと伸ばした昼休み。
俺の名前は獄寺隼人。しつこい様だけど並盛中学校に通う普通の中学一年生。
ただ普通じゃないのは俺の周り。俺は関係ない。そう信じてグルッと屋上を見渡した。
「隼人、早く座ってご飯食べたら」
そういいながら自分の横を叩くのは俺の義兄の雲雀恭弥。彼は自分がいつも肩にかけている学ランを床にひき俺が座るように促す。
「そうですよ。昼休みは長い様であっという間ですからね」
にこやかにそう言うのは3時間目から並盛中学校に居座り続けた六道骸。他校の生徒のくせに隠れることもなく堂々と彼は自分の昼食を広げると自分の横に座布団をおき俺を招いた。
「ほら、ハヤト。せっかくのお茶も冷めちゃうよ」
最後に控えめにティーカップを差し出したのは骸の妹のクローム。彼女はシートの上に日傘とティーセットを用意するとじっと視線で俺を座るように訴えた。
三者三様。それぞれがそれぞれの思うがままに自分の世界を広げている。というかそれぞれが別世界?同じ屋上にいながら一歩入り込むと別の国に連れて行かれそうな異様な空気があった。
「お弁当は持ってきてるんだろ?早くこっち来て食べなよ」
「もう10分も過ぎてしまいましたからね。余裕を持って食べたほうが良いですよ」
「ハヤトの好きなお菓子も持ってきたの。一緒に食べよう?」
3人は極上の笑顔を俺に向かって浮かべる。美形の部類に入る3人の笑顔はそれはそれは見入ってしまうほど。けれど、その笑顔の裏に込められたメッセージは恐ろしいほど・・・馬鹿らしいものだった。
ようは『他の二人はほっといて、一緒にご飯食べよう』という笑顔と遠くはなれた意地の張り合い。それを肯定するように微妙に3人の位置は三角形を描くように座りそれぞれの位置から距離を広げている。
こんなことなら教室で沢田さんとゆっくり食べてればよかった・・・とIfの世界に思いをはせたが、そんな事をした日には3人に教室から拉致されるか、3人が俺が来るまで屋上で待ち続けてるかのどちらかだったので俺は溜め息と一緒に考えを振り払う。なんというか・・・前者も後者もしゃれにならなくて切なすぎる。
俺はじっと周りを見渡す。
隣に来て当たり前という態度で偉そうに座る雲雀。
朗らかな態度で・・・けど確かな信念の元に俺を待つ骸。
そして子犬のような瞳で訴えかけてくるクローム。
なんて濃い面子なのだろう。やっぱり俺は普通であって可笑しいのは周りなんだ。一種の確信を感じると俺は一歩踏み出し腰を下ろす。
俺が座った場所は・・・3人の座ってる位置からちょうど真ん中。何もないコンクリートの床に腰を下ろすと持ってきた弁当を広げた。
瞬間、別々の方向から自分の弁当を持って駆け寄ってくる3人。気がつけばクロームの持ってきたシートの上に骸の持ってきた座布団が置かれ、その上に雲雀の学ランがひかれた・・・微妙な席に座らされていた。
「じゃあ、食べようか」
「隼人、僕のおかずと交換しませんか?」
「はい。お茶も飲み頃になったよ」
今までの攻防戦が嘘のように和やかな昼食風景。まぁ俺に対するかいがいしい姿勢は変わらないんだけど・・・。
空には雲と太陽。広がる青い空。
というか最初から3人で食べれば良いじゃん。毎日のように行われる意味を成さないバトルに苦笑しながら俺はお昼ご飯のおにぎりにに手をつけた。
いつもより塩がきいているような気がしたお昼ご飯のお話。 |
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