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僕の名前は雲雀恭弥。
獄寺隼人、の義理の兄だ。
現在時刻は9時。中学生という立場としては一般的には授業中といえる時間だが、僕はそんな事をお構い無しに堂々とサボっている。しかもこの学校では校長室の次に豪華であると噂の応接室で。
応接室に用意されている重厚な机と、それに会わせた黒い皮の椅子はいつだって僕の特等席。僕の許可なくしてこの部屋に入ってくる愚かな輩はこの学園では皆無だし、さらにこの部屋の主の物と存在を主張しているこの椅子に腰掛ける命知らずは並盛中の生徒にはいない。
自分で言うのもなんだが僕は悪名高い。最強の不良とか、教師も逆らえないとか・・・否定する気にもなれないくらい自分でも色々やってるのである意味、人の噂と言うのは馬鹿に出来ないものだろう。多少、脚色されたとしてもそれを利用しない手はない。
実際その噂のおかげで僕はこの部屋と、この特等席を守れているわけだから。
椅子を窓のほうに傾けて、少し視線を下ろせば見える僕の可愛い義妹の授業風景。
窓際の・・・一番見やすい席にさせたのも僕の権力の力だ。隼人に気付かれることのないように色々手を回して、教師の方にも脅しをかけて今の席を手に入れた。
あの席が彼女のための特等席。この椅子が僕の特等席。僕からは良く見えるけど、あちらからは見えない最高のポジション。なんて素晴らしいんだろう。授業をサボったかいもある。
知らぬうちに口元に浮かぶ笑み。歪んでる、といえばそれまでだろう。隼人自身は僕の保護を受けるのも嫌がっているし、僕からの監視も逃れたいと思っている。だからこうして日々こっそりと。
最強の不良とか、並盛の秩序といわれていたって結局はこの程度の男なんだよ、僕は。
でもその事はあの子だけが知ってればいい。けれど同時に一番僕が恐れているのはあの子に嫌われることだから・・・矛盾してるけど秘密のままこのポジションが守れればいい。
授業に飽きて少し眠たそうな隼人の顔を見ながらこっそりと微笑んだ一時間目の話。
僕の名前は六道骸。
獄寺隼人の隣の家に住む幼なじみです。
現在時刻は10時半をこえた辺り。職業:学生の僕は今日も隼人から離れて隣町の黒耀中学で勉学に励んでいます。と、いうのは勿論形だけ。先ほどから目の前で教科書を読んでいる教師の声など耳に入っていません。
僕が聞いているのはこっそり仕込ませておいたイヤホンから聞こえる音声。雑音混じりに聞こえてくる隼人の寝息。・・・どうやら前の時間から我慢していたのが限界を超えてしまったみたいですね。2時間目のチャイムの音が聞こえてから数分でペンを走らせる音は聞こえなくなってしまいました。
はぁ・・・今頃、隼人はどのように過ごしているのでしょうか?教科書を盾に机に突っ伏しているのでしょうか?寒い思いをしてたらどうしましょう。確か隼人の席は窓際。隙間風で体を冷やしてはいないでしょうか。声が聞こえても様子が見えないのがもどしかくてたまりません。
悶々と思いをめぐらせていると教壇に立った教師が上の空の僕に気付いて名前を大声で呼びました。迷惑な話ですが黒板の問題を解く権利を僕に与えてくださるそうです。僕としてはそんなことより隼人の方が重要なんですがね・・・。
まぁでも腐っても学生。逆らうわけにもいかないので黙って前に出るとチョークを取って黒板に書かれた問題の回答を書き出しました。
作業は数分で終わりました。僕はチョークで汚れた手を払うと自分の席に戻ります。教師が黙っているところを見ると僕の書いた解答に間違いはなかったようです。これで僕はもう一度、イヤホンから入ってくる音声に耳を傾ける事が出来ます。
僕がこうして隼人の様子は日々盗聴してることは内緒です。勿論本人に知られたら一ヶ月は口を聞いてもらえなくなることは百も承知。けれどいつも一緒にいられないから、せめてコレくらいは許してください。
心の中で両手を合わせると、僕は窓側に目を向けました。隼人のいる並盛の方角に顔を向け耳から入る音に集中します。
くしゅん
幻聴ではない可愛らしいくしゃみが聞こえてきました。無意識に鼓動が早くなるのが分かります。
あぁ、どうしましょう。僕の可愛い隼人が凍えてるんです。くしゃみがでたと言うことは先ほど心配したとおり風邪のひき始めでしょうか。熱は?頭痛は?あぁ、もう本当にどうしましょう???
授業が終わるまで後10分。飛び出したい気持ちを抑え僕は時計の針が早く進む事を祈りました。
鞄から取り出した自転車の鍵を握り締めた二時間目のお話。
私はクローム・髑髏。
骸お兄様の双子の妹でハヤトの幼なじみ。
骸お兄様と名前が違うって?・・・本名なんてただの飾りだからいいの。
今時刻は11時前。少しからだのダルかった私は2時間目の授業を受けたあと、体調不良を理由に保健室のベッドで横になっていた。熱はないけれど、体が重い。どうせ次は見学の体育だし、と割り切ってベッドの中でこっそりポケットに入れておいた携帯を取り出す。
受信メールは十数件。相手は顔を思い出せないけど・・・ハヤトのクラスメートの男子数名からだった。
一時間目の様子。二時間目の様子。いろいろな角度からハヤトの授業風景がメールで送られてくる。真面目に受けてる場面もあったり、飽きて外を眺めてたり、落書きしていたり。二時間目にはいる頃には我慢できなくてとうとう机に座ったまま眠りについてしまったらしい。
私はその様子を想像して声を出さないようにしながらクスクス笑った。まったくハヤトと同じ教室で授業を受けられないのは残念だが、こうして簡単にその様子を知る事が出来るのだから便利になったものだ。秘密裏に自分の手足となりそうなハヤトのクラスメートを作るのはちょっと厄介だったけど、その苦労はおつりがくるくらい報われている。
本当は自分が側にいてずっと守ってあげたいけど、今はそういうわけには行かないから。でもいつか遠くない未来にはずっとずっと一緒にいてあげる。それまではハヤトに気付かれないように間接的な情報で我慢するしかない。
とりあえず、メールをくれた数名にお礼のメールを送ると入れ違うようにメールが受信される。送信者は・・・お兄様?
・・・何が原因か分からないけれどお兄様は今、並盛にいるらしい。
その直後、大量に送られてきた私の手足たちからのメール。突然の来訪者とその暴走に戸惑いながらも必死に伝えようとしている姿が文面からにじみ出ている。
なんていうか・・・その場にいるわけじゃないのに身内の恥というのは何で恥ずかしいのだろう。幾つかのメールを見た後、溜め息をついた私はこれ以上、気分を害する前に携帯を閉じた。願わくは並盛の風紀委員長が早く兄を追い出してくれるのを祈るばかりだ。
なんとなくさっきより体調が悪くなった気がする三時間目の話。
俺の名前は沢田綱吉。
獄寺くんとは小学校から今までずっと同じクラスの大親友。
今の時間はお腹も空き始めた12時すぎ。なんとなく授業にも身が入らなくて、だらけた雰囲気が漂う教室で隣の席の獄寺君はぐったりと机に広げたノートに頭を乗せていた。朝のうちは眠たそうに机に突っ伏してたけど、今突っ伏しているのは精神的な疲れからだろう。
原因は前の時間に急に現れた彼女の幼なじみ・・・という名の過保護な保護者。そしてそれを回収しに来た彼女の義理の兄・・・という名の過保護な保護者2号のせいだ。二人とも獄寺君のためなら授業妨害もいとわない。その精神構造たるや『獄寺隼人を中心に世界は回っている』と言っても過言ではないだろう。
けどそれは別に彼らが勝手に行っているのであって、隣で疲れ果ててる獄寺君自身は望んでいることではない。愛ゆえの暴走。それが分かっているから彼女も無下には出来ないのが悲しいところだと思う。
大丈夫?と声をかければ大丈夫。と力なく声が返ってくる。本当は大丈夫じゃないくせに無理しちゃって。けど俺はこういう彼女の性格は嫌いじゃない。
むしろ彼女は俺好みのパーツで構成されている。顔も体も性格も。そして俺を毎日飽きさせることのない彼女を守るナイト達も。
あの無敵と呼ばれるナイト達をくぐりぬけて横からこのお姫様を掻っ攫ったらどんなに楽しいだろう。考えただけでもワクワクする。
でも今は彼女を中心に起こるイベントも面白いから手を出すのはもっと先にしよう。獄寺君を守るために張り巡らされた網も壁も破るのはいつだってできるんだから。
今はまだ、獄寺君の隣の席の人の良いクラスメートを演じ続けよう。そして彼女の周りで起こるドタバタ劇を見守る観客の一人を演じ続けよう。
俺があの舞台に上がるのはもうすぐ。だって俺がいるポジションは彼らじゃ作ることは出来ないんだから。
いつか来る舞台に胸を躍らせた四時間目の話。
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