おはよう。獄寺隼人だ。
並盛中学に通う平凡な中学生。
それ以上でもそれ以下でもない。


・・・・それが俺のはずなんだけど。


現在時刻は8時10分過ぎ。現在地点は自宅玄関。
家から学校の校門までは走っていっても20分はかかる。
朝の点呼はいつも通りなら8時半。完全に遅刻。
平凡な学生には似つかわしくない朝の迎え方。本当だったら8時前には教室に入って沢田さんとお話しながら朝のHRまでをゆったり過ごすのに・・・。


「キョウ兄のせいだ・・・」
「だから責任取るっていってるでしょ」


後ろでバイクの鍵を指に絡めて遊ぶ義兄・雲雀恭弥を俺は睨みつける。
朝起きてすぐでてれば十分間に合ったんだ。それを『朝ごはんを食べないで登校なんて僕が許さないよ』って脅されて渋々朝食についたらこの有様。


「キョウ兄・・・じゃなかった。雲雀の脅しなんかに負けなきゃよかった」
「と前にそう言って飛び出して、3時限目の体育で空腹で倒れたのは誰さ」
「それはそれ!これはこれ!」
「わぉ、逆ギレだね」


大げさに肩をすくめると雲雀は玄関においていたヘルメットを俺に渡す。
コンビニにはつけたまんまで絶対入れないような頑丈で可愛くないやつ。俺は黙ってそれを受け取ると苛立ち気味に玄関を開けた。


ガチャ


「おはようございます、ハヤト」


玄関を開けて目の前にあったのは青々としたたわわ。いやパイナップル。
正式名称はお隣に住む幼なじみの六道骸。


「・・・・おはよう、骸」
「おや、今朝は“ムク兄”じゃあないんですね」
「あれは中学上がったから卒業したの!何回も説明しただろ」
「そうですが・・・可愛らしい呼び方だったのに残念ですね」
「それには同意だよ」


雲雀は玄関で立ち止まったままの俺の肩越しに顔を出しながら骸の言葉に頷いた。
この二人はわざとらしい位、同じやり取りを毎朝繰り返す。そんなに残念か。呼び方変わったのが。俺としては子供っぽいと思って止めたのだがこの二人・・・とここにいない一人には残念なことらしい。
一体何がどう残念なのか原稿用紙2枚くらいにまとめて出して欲しいところだが、そんな事を言ったら本当に出されそうなので俺は溜め息をつくだけにしといた。


「はぁ・・・・」
「どうしたのハヤト?ハヤト」
「おやおや・・・疲れてるんですかね?それでしたらハヤト、今日は僕の自転車で行きませんか?」


にっこりと微笑んで玄関先に止めてある骸愛用の自転車『輪廻号』を指差す。たいそうな名前がついているが何処からどう見てもママチャリ。だが、コレ一台で家が買える位するセレブ御用達の自転車らしい。
腐っても骸は六道グループのお坊ちゃま。着てる制服だって俺たちが着てるのとは違うお金持ちのご子息が通う中学校『黒耀』の有名デザイナーの手による制服で値段は・・・まぁ、いいや。


「残念だね、骸。ハヤトは今日は僕と登校するから。君はとっとと黒耀中にいったら?」
「クフフ・・・バイクなんて危険な乗り物で登校させるなんて君の気が知れませんね。ハヤトの柔肌に傷でも作ってからでは遅いんですよ。だから今日はハヤトは僕と登校するんです」
「ふん。負け犬の遠吠えだね。僕はそんなへましないからいいんだよ」
「自意識過剰ですね。見ていて哀れになりますよ」


ふふふふ・・・・。
クフフフフ・・・・。

二人は独特な笑い声を発しながら同時に俺に視線を送る。


「こうなったらハヤトが決めて(ください)」


あぁ・・・またこのパターンか。進歩しないなお前達。そしてこのパターンならそろそろ・・・。


ブーン・・・キキッ


「・・・・・・・おはようハヤト」


3人目の選択肢登場。黒塗りのリムジンで俺の家の前に横付けしたのは骸と同じ学校の制服を着た彼の双子の妹・六道凪ことクローム・髑髏だった。


「おはよう・・・クローム」
「ふふ・・・お兄様たちが要るってことは、いつも通りみたいだね」
「あぁ・・・まぁな」


悲しいくらいにワンパターンな朝の光景。俺は毎朝見てうんざりしてるが、クロームはそれでも飽きないのか車内から兄と雲雀のやり取りを楽しげに見ていた。


「進歩しないね」
「うん・・・」
「けど私にはありがたいかな・・・」


その言葉の意味を知聞く前にクロームはリムジンの扉を開ける。そして自分の座る横をポンポンと叩くと俺を誘った。


「ハヤト行こう」
「え・・・でも・・・」
「車の中は暖かいよ」


ハヤトは寒いの嫌いだもんね?クロームに微笑まれると同時にタイミングよくピューと冷たい風が横切る。
思えば二人のやり取りに付き合って外に立ってたから体が冷えたんだよなぁ・・・。スカートでバイクに乗ると寒いし、自転車でも風は直撃だし・・・。


「・・・クローム・・・」
「ん?」
「乗っけてって」
「喜んで」


俺が乗り込むとリムジンの扉が閉まる。窓越しに見えるのは雲雀と骸のあっけに取られたような表情。そして俺を呼ぶ声。
俺は窓を開けると二人へ両手を合わせて謝罪の笑みを浮かべた。


「ゴメンな二人とも」
「今日で私の12連勝だね」


じゃあね、とクロームが言うと走り出しすリムジン。後ろを見るとそれを必死に追いかける二人の影が見える。あぁ、本当にゴメンな二人とも。
けどこの調子だときっと明日も同じパターンを繰り返しそうだなと思う。
そしてクロームは連勝記録を樹立していくのだろう、と心のどこかでぼんやりと思った。


そんなこんなで不本意だけど朝から俺は愛されてるみたいです