黒いランドセルが二つと、赤いランドセルが一つ。
仲良く並べられた真新しいランドセルを見て俺はべそべそと泣いていた。

ずっと一緒だって言ったのに・・・。

嘘つき、嘘つきと泣き喚いていると困ったようにランドセルの持ち主達が近づいて俺の頭を撫でる。
俺より少し大きい体。まだ幼い俺にとっては一年の差というのは大きい。
体の成長もそうだし、幼稚園と小学校という壁もそうだ。


「オレも一緒にいく・・・」


目を擦りながらそういうと、それは無理だよと申し訳なさそうに返された。

僕達3人と隼人は年も学年も違うんだから。

それは残酷な現実。俺たちの力ではどうしようもない事実。
ずっと4人でいられると思ったのに。なんで俺だけ置いていくの?
いかないで、いかないで。そんな俺の我侭を聞いて3人は顔を見合わせると涙をぬぐって笑顔をうかべた。


「おいていかないよ、まってるから」
「一年だけまって。そしたらまた一緒だから」
「隼人を絶対に一人にはしないから」


大丈夫、ずっと一緒だよ。
3人はそう言うと俺と順番に指切りをしてくれた。

それから3人は俺が小学校に上がるまで毎日のように一番に帰ってきては俺と遊んでくれた。一緒にいてくれた。昼間あえない分を補うように側にいてくれた。
そして一年後、俺がはれて赤いランドセルをしょうようになるまでそれを続けてくれたのだ。


「おにいちゃん、おねえちゃん大好き!」


約束を守ってくれた3人に俺は恥ずかしげもなくそう叫んだ。
優しくて、頼りになって何よりも自慢のおにいちゃんとおねえちゃん。

幼い俺にとって3人は宝物であり、大事な人だった。
そして3人から大事にされ守られている自分が当たり前だとずっと思ってた。





けど中学にあがってまでその関係のままって言うのはちょっとかしくないか?




「隼人、中学校入学おめでとうございます」
「またこれで僕と一緒に登校できるね」
「私と骸は学校が別だけど、授業が終わったら一緒だからね」


にこにこにこにこ・・・・と満面の笑みで真新しい制服を着た俺を見つめる3人。
最初に祝いの言葉をかけてきた六道骸は俺の手から当たり前のように荷物をとると教科書の入った重たいバッグを運ぶ。


「こんな重たい荷物、隼人に持たせたら可哀想ですからね」


骸はそういうけど俺以外の入学生はみんな普通に抱えて帰ってるぞ。けど骸は俺の言葉を聞かず『隼人は良いんです』とだけ笑顔で返す。


「はい隼人、これ」


次に声をかけてきたのは俺が着ているのと対になる男子の制服を着た雲雀恭弥。雲雀は何処から持ってきたのか分からない豪華な花束を俺に持たせると満足そうに微笑んだ。


「ほら隼人。写真取るから私のほう見て」


最後にそう言われて俺は振り返り際にフラッシュを向けられる。カメラを片手に笑みを作るのは骸の双子の妹の六道凪。ただし本人は親がつけたこの名前が気に入らずクロームとまわりに呼ばせている。


「クローム・・・眩しい」
「・・・折角の可愛い顔が台無し。眩しがってる隼人も可愛いけど」
「・・・・・」
「隼人もう一枚」


ファインダーを覗き込むとクロームは当たり前のように俺に催促する。怒りを通り越して呆れてしまうがここはクロームの願いをかなえないと写真攻撃から開放してくれないだろう。


「クローム。隼人だけ撮り終えたら今度は僕と二人の写真をお願いします」
「・・・骸より先に僕と隼人のツーショットを撮ってよね」
「いや。それより私と隼人を撮って」


3人はあーだこーだと言い合いながら誰が一緒に撮るやら、どの構図が一番俺が可愛く取れるやらで喧嘩を始める。校門の前で誰の目もはばからずに叫びあうその光景は嫌でも人目を集め、そして気がつけば回りには人の輪が出来ていた。勿論中心は俺たち。


「獄寺くん・・・相変わらずだね・・・」


くすくすと人ごみの中から現れたのは俺と小学校の頃からずっと同じクラスの沢田綱吉さん。俺は彼に見られた恥ずかしさに頬を染めるが、彼もこの事態に慣れきっているため3人の喧嘩を楽しそうに見ていた。


「愛されてるよねー」
「・・・あんまり・・・嬉しくない愛ですが・・・」


昔は嬉しく感じた3人の愛も、今の俺にとっては迷惑に近い。
ずっと一緒が言いと泣いていた自分が嘘みたいだ。今の俺は少しでも3人から離れた時間が愛しくってたまらない。
無意識に溜め息が出る。はぁ・・・と俺の口から小さくこぼれた瞬間、今まで喧嘩をしていた3人が動きを止めた。そしていっせいに俺のほうを向く。


「隼人?入学式で疲れてしまったんですか??」
「大丈夫?バイク持ってくるから早く帰って休もう」
「ごめんね、隼人が疲れてるのに気付かないで!」


骸は俺の額に手を伸ばし、クロームは俺の体を後ろから支えるように抱きしめ、雲雀は側にいた生徒の一人に自分のバイクを準備させるように指示する。アホらしいにも程がある。隣でその光景を見ていた沢田さんの笑い声が聞こえてきて俺は恥ずかしさのあまり気がつけば大声で叫んでいた。


「キョウにぃ、ムクにぃ、クロねぇの馬鹿ー!!!いい加減にしろーーー」


俺の魂の叫びが校内に響き渡る。


獄寺隼人13歳。反抗期真っ只中。
目標は・・・過保護な兄&姉代わりたちからの独立です。



また始めちゃった新ネタ。このあとさらに続く予定であります。