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『メリークリスマス、隼人』
三人の声が綺麗にはもるとクラッカーの音がいっせいに鳴り響いた。
大きなケーキ。綺麗に飾り付けされたクリスマスツリー。豪華なご馳走が並ぶテーブル。もちろんテーブルの上座にいるのは俺。右の席には雲雀。左の席には骸。正面に座るのはクローム。毎年変わらない光景。思わずその姿に俺は溜め息をついた。
例えばクリスマスケーキ。ウェハースで作られた家も、チョコで作ったトナカイも、砂糖で固められたサンタクロースも毎年変わることなくケーキの上を陣取っている。3層で作られたケーキは白いクリームで塗りたくられ見るからに甘そうな感じ。うっかり幼い頃俺が「ハヤトねーおおきくなったらおおきなけーきひとりでたべるのー」なんて子供の願望全快の夢を雲雀に語ったあの日から出されるケーキは姿を一ミリも変えることは無い。材料も姿も変えることは無く、毎年毎年きっかり同じ味で出てくるのだからその手間と労力はたやすいものではないだろう。きっと雲雀は俺が一人でこれを食べ終わるまでまた来年も同じケーキを出すんだ。残念ながら大人となった今でもその夢を叶えることが出来きそうにないのでまた来年も同じものを用意するんだろうけど。しかし雲雀。お前の愛は間違っていると思う。
次にクリスマスツリー。本物のモミの樹に色とりどりの硝子の飾り。綿とリボンで綺麗に飾り付けられたその姿もこれまた毎年代わることは無い。そしてその中でちょこんと乗っけられた立派なモミの樹には似合わない古ぼけた折り紙の星。「骸のおうちのクリスマスツリーはきれいだねー。ねぇ、ハヤトのお星さまもなかまにいれていい?」と小学生の俺が骸に願った日から骸の家に置かれるクリスマスツリーは毎年同じ飾り付けだ。毎年毎年律儀に配置を変えることの無い飾りつけはある意味異様。唯一、毎年変わっているはずのモミの樹もほぼ同じ大きさと同じ茂りの物を取り寄せると言うのだから金を持っている奴のやることは分からない。きっと骸は俺の作った折り紙の星が崩れて塵になるまで毎年同じように飾るのだろう。・・・・うん、骸、お前の愛も歪んでると思う。
最後にテーブルに並んだご馳走。テーブルの上に並んでいるオカズやお菓子は全て一流コックではなくクロームが作ったものだ。何十種類にも及ぶ内容は全て俺の好物ばかり。それこそ俺が「美味しいなこれ!え、クロームが作ったの?すげーじゃん!」と中学のときにクロームが作った料理を弁当を褒めちぎった日から始まる。その日からクロームはマメに俺が好きだと言ったものは逐一メモに残しておき俺が食べてみたいと言うものは全身全霊を駆けて作り出してくれた。冗談で満願全席が食べてみたいと言った日には三日三晩かけて用意してくれたっけ。まぁそんな俺に付き合っていた成果何時しかクロームの腕前は一流レストランにひけをとらないほどだったし俺が好き勝手に言うその時の“好物”を毎年並べていくおかげでクリスマスのディナーの量は半端ではない。毎年毎年クロームは俺が好きだと言っていたものを作ってくれるが前に好きだったものを減らすと言う事をしてくれないのだ。・・・こういっちゃ悪いけどクローム。いくら好物だって毎日のように持ってこられたら逆に見るのも嫌になるんだよ。・・・・・・クロームも例に漏れず変な愛の形だと思う。
でも一番おかしいのはこんないびつな愛で彩られたクリスマスパーティに毎年変わらず出席する俺なんだろう。俺も溜め息をつきながらも毎年クリスマスケーキには挑むし、クリスマスツリーの星を見ては和むし、クリスマスのディナーに喜んで舌鼓を打つのだ。人の事を攻めてはいけない、いや攻められる立場ではないだろう。
ちょっと壊れててひたむきな愛を俺に向けてくれている三人。そして俺もこんなおかしな奴らを愛してやまないのもまた事実。
「メリークリスマス、みんな」
苦笑気味にそういうと俺はグラスに注がれたシャンパンを一気に飲み干した。
端から見れば変にしか見えない聖なる夜の過ごし方。まぁ・・・でも、愛は此処にある。
珍しく季節のイベントにのっかってみたりw |
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