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雲雀は『聖装』という衣装作りに数ヶ月前からハマっていた。雲雀いわく俺の知る正装と聖装は別物らしい。
「聖装は●●専用みたいに着る場所が本当の本当に限られるんだよ」
あ、ちなみに●●専用ってのもオタク用語らしい。興味は無いけれど。けど俺は衣装作りに夢中になる雲雀に少し感動もしてたんだ。だって言っている意味は分からないけど今、雲雀が作っている聖装はダンス用らしい。ダンスだぜ、ダンス。何て健康的なんだ。毎日薄暗い部屋の中でテレビに照らし出される雲雀の姿を見てはあまりの不健康さに俺は何度涙したことか。それに比べてダンスなんて・・・!
基本的に家での雲雀はアニメ鑑賞と原稿の製作に追われている。休日だってイベント以外では基本的に外出はしないのだ(買い物以外)。それらを総合すると雲雀が自主的に体を動かすことに時間を裂くなんて珍しい。別に運動音痴でも無いのだがそれのために時間を分けるという事をしないのだ。
コレをする暇があったら原稿を1Pでも仕上げられたかもしれないのに・・・。
まっすぐ帰ってればパソコンを立ち上げる時間も出来たのに・・・。
まったく・・・アニメを見る時間が無いなんて耐えられないよ!
と嘆く姿をみることはけして珍しいことは無い。雲雀は無駄な時間が嫌いだ嫌いだというけれど打ち明けてみれば内心でこんなことを考えているからだ。
そんな雲雀がダンス!しかも自主的にって事は無駄なこととは思っていないんだよな!
俺はこれからダンスの練習に行くという雲雀の為にスポーツドリンクを作りながら良い意味での涙を流した。
そして雲雀は聖装作りに満足したのか衣装を袋につめるといそいそと出かける準備を始めた。俺も付き合って良いか尋ねたが完成するまでは見せたくないらしい。
「骸とクロームは先に待っているみたいだから」
玄関でキスをして名残惜しそうな俺を見ながら雲雀は呟いた。どうやら骸とクロームもダンス仲間らしい。意外な名前に俺は驚いたがすぐに笑顔を作ると手を振り見送った。
骸もクロームも基本的に雲雀と同じ考え方だ。自分の為or自分の趣味のためではないと時間を作らない。そんな二人も雲雀と一緒にダンスに励むなんて・・・!良い傾向だ!毎日ここで見ているオタク談義をしている3人からは想像のつかない活動的な姿に俺は感動する。
あぁ・・・この調子なら脱オタクは近いかも!
引いては雲雀とコスプレHから抜け出す日も近いかもしれない!普通のカップルのような時間も会話も増えるかもしれない。そんな明るい未来を夢見た俺はこれから続くであろう雲雀達のためにレモン漬けでも作ってやろうとスーパーに向かった。
しかし、その夜帰ってきた雲雀の表情は浮かなかった。誘われて夕食を食べにきた骸とクロームの表情も良くない。練習疲れからだろうか?けれど体の弱いクロームならともかく雲雀達の体力を考えれば数時間のダンス位は余裕だろう、と俺は思う。どちらかというと雲雀達の疲れは精神的な面から。俺は雲雀達のために用意した夕食をテーブルに並べながらそっと問いかけた。
「どうしたんだ・・・?ダンスが上手くいかなかったのか?」
「いや、そうじゃないよ」
「にしては顔色が悪いけど」
「・・・それは・・・」
と言いかけて雲雀ははぁと溜息をつく。骸とクロームも同時に溜息をついた。
「ダンスの・・・メンバーが足りないんだ」
メンバー?それを聞いて首を傾げれば骸は丁寧に説明を始める。
「大会に出ようかと思っていましてね。でもその大会は4人一組のチームじゃないと出場できないんですよ」
雲雀と骸とクロームの3人。4人一組で出場というなら確かにあと一人が足りない。
「なら俺が出ようか?」
ポツリと俺が言うと次の瞬間、雲雀と骸に凄い勢いで詰め寄られた。
「だめだめだめ!絶対に駄目!!」
「君が参加したら狼の群れに子羊をほおり込むようなものです!!」
鬼気迫る二人の様子が怖い。思わず涙目で隣にいたクロームに視線を送る。するとクロームは俺の手を両手で包み込み悲痛な表情を浮かべた。
「いのち・・・だいじに・・・」
どっかで聞いたことあるフレーズだな。それ。
とりあえず参加を拒否された俺はあきらめきれず『自分が駄目なら』と知り合いに声をかけまくった。少しでも雲雀に協力がしたのだ。そんな思いを抱きながらダンスの内容はまだ聞いていない俺は声をかけた相手と共にレモン漬けを持って雲雀達の様子を見に行く。
「まさか雲雀さん達がダンスとはね」
苦笑気味に呟くのは十代目。十代目は俺が土下座して頼み込むと少し困った様子を見せながらも頷いてくださった。やっぱり器のデカイ方だ。優しい十代目に何度もお礼を言いながら俺は隣で腕を繋いで鼻歌を歌っている奴に問いかける。
「白蘭も悪かったな。急に呼び出して」
「ううん。気にしないで。僕はママと一緒にいられることがが嬉しいだもん」
幼子のように繋いだ手を振り回しながら相答える白蘭。毎度のように白蘭の保護者としてついてきていた正一も“お気になさらず”と首を振っている。
「最近は新作アニメ鑑賞ばかりでしたからね。逆に白蘭さんには体を動かしてもらう良い機会です」
「だってー。冬アニメの最終話に春アニメの先行がー」
「はいはい。その言い訳は耳にたこが出来るほど聞きました」
「ぶー」
頬を膨らませて俺の腕に擦り寄る白蘭。正一はその姿に溜息をつき・・・十代目は話がついていけず乾いた笑いを浮かべていた。
ていうか十代目と白蘭は面識ないんだもんな。俺と雲雀の共通の知り合いということで声をかけてみたけれど当人同士には繋がりは無いのだ。
「獄寺くん・・・ママなんだ」
「え・・・えぇ」
「・・・・・・随分懐かれてるんだね、その人に」
「・・・はい、まぁ色々とありまして」
話せば長いんですが。まったく白蘭達とのつながりをどこから説明すればいいか分からない俺は苦笑しながら適当に紹介する。人見知りの激しい白蘭は俺の背中越しにじっと十代目を見ていたが正一は基本どおりの自己紹介を自分から行い、名前をお互い知ったところで俺たちは雲雀達の練習場所に辿り着いた。
「ここ・・・か」
予想以上にしっかりした施設に俺は唖然とする。雲雀に緊急用としてわたされていた住所に書かれていたのは個人経営のスポーツジム。よくよく見れば入り口に書かれていたマークは骸の実家の会社のロゴだった。
「骸の家の系列か・・・」
「じゃないと中学生でジムの一室貸し切りはやりすぎだと思うよ」
十代目は呆れながら中に入り受付の人に練習場所を尋ねる。白蘭は骸の家の建物と分かると少し機嫌を悪くしていたが俺と正一になだめられ、何とか俺たち4人は雲雀達の練習場所へと辿り着いた。
♪〜 ♪〜
入り口の前。僅かにだがこぼれてくる音楽と掛け声に俺は耳を傾ける。
曲までは分からないが声は確かに雲雀達のものだ。あぁ、ここにいるのか。
俺は連れてきた3人以上にドキドキしながら思い切って部屋の扉を開けた。
(パパパンパン!パパパパン!パパパ!パパパパン!)
虹色見つけたトキメキの夜に
(う〜ん!と・き・め・き!)
貴方から誘って 秘密のパーティ
(ドキン☆どきん☆フー!)
気づいているの?この思い
(気づいて気づいて気づいてー!)
形に出来たら 伝わるかしら
(ねぇ!ねぇ!ねぇっ!!)
零れた涙は宝石
(キラ〜キラ〜)
紡いだ思いに彩られるから
(シャランラ!ランラ)
かわってく私を選んで欲しいの
(うーーーー・・・アルバラ☆チェンジ)
さぁ手を取って一緒に踊ろう
(お・ど・ろ・う)
ダンスフロアは二人の世界
(世界なのー)
七色に輝く瞳 貴方のせいかしら
(君のせい☆)
ねぇお願いだから
(お願いだ・か・ら)
この手を離さないでね?
(離さないYO)
夢に見てた王子様
(ドキ☆どきっ)
私に早く気づいて!
(こっち見てー)
(パパパンパン!パパパパン!パパパ!パパパパン!)
バタン。
無言で扉を閉じた俺に・・・罪は無いだろう。
あぁ、アレは何かの間違いだったんだ。うん。
お揃いのピンクの鉢巻を巻いて掛け声と共に踊る雲雀達も、隣で固まる十代目や正一も・・・うん間違い間違い。むしろ気のせい?俺の目から流れる涙も気のせいだよな。
「あれってハヤリーナの歌だ!」
一人、俺の手を取り嬉しそうなのは白蘭。
そっかぁー。ハヤリーナの歌かー。
思いのほか俺の心は清清しいほどにすみわたっている。
「帰ろう」
俺は薄く笑いながら一言呟いた。
十代目も笑顔だった。正一も笑顔だった。白蘭は・・・何か言いたそうだったが俺が帰ると言っていたので踵を返しても抵抗は無かった。
ただ、そんな俺たちを止めたのは会いたかったけれど聞きたくなかった人物の声。
「ハヤリン来てたの!ちょうど良かった。ダンスが完成したから電話しようかと・・・」
「うわぁああああああああ!!その格好で出るな来るな話しかけるなーーー!!!」
絶叫と共に雲雀の頬にめり込んだ右ストレート。
奇抜な雲雀達の服装(ピンクのハチマキ&ハヤリーナプリントTシャツ装備)なせいか、廊下で俺が叫んだせいか・・・スポーツジムにいた他の人々の視線が痛い。
「とりあえず・・・」
俺は雲雀達がダンスを練習していた部屋に連れてきた面々と雲雀を押し込むと扉を厳重に閉める。外から何事かと野次馬の面々が聞き耳を立ててたが今は無視した。普段の俺なら野次馬ごとき乱暴に当り散らすのだが今は悲しいかなそれをする気にもなれない。
「雲雀・・・より骸だな」
「はぁ。僕が何か?」
「状況説明頼む」
短く頼んで床に座り込んでいる骸を見つめる。ちなみに配置としては壁に並んだ椅子の一つに俺が座り左右の椅子に十代目と白蘭。白蘭の横には正一が立ち、フローリングの床には雲雀達が体育座りで俺たちを見上げているという構図だ。
「簡単に話せば僕たちが参加しようとしている大会はハヤリーナ関連のダンス大会なんですよ」
そう言えば曲を聴いた白蘭もハヤリーナの歌だとか言ってたな。俺には聞き覚えの無い曲だけれど。しかしハヤリーナってアニメだろ?それとダンスの大会がいまひとつ俺の頭では繋がらない。
「ハヤリーナのキャラソンが次のシーズンのEDに決定してまして、そのEDアニメでハヤリーナ達が歌にあわせて踊る予定なんですよ。それでその踊るダンスを一般公募しようということになりまして」
なるほど。骸の言葉を聞けば雲雀が急にダンスに燃えてた理由も、衣装作りに励んでいた理由も分かる。雲雀の大好きなハヤリーナだもんな・・・。
「結局・・・脱オタクは無理か・・・」
俺は頭を抱えながら椅子の上で体育座りをしてしまった。
いや、良いんだ。俺は雲雀が好きだし。オタクでも好きだし。何かに夢中になっている雲雀が好きだし。けど・・・勝手にとはいえ期待していただけに悲しみが募る。誰が悪いわけではないけれど、ただ今は自分の殻にこもりたい気分だった。
結局、紆余曲折してダンスのメンバーには白蘭が参加することとなった。流石にハヤリーナのダンスに一般人である十代目を巻き込むわけには行かない。
「ごめんね・・・獄寺くん」
ハヤリーナのキャラソンが流れる部屋から逃げるように帰って行った十代目の笑顔は泣きたくなるくらいに爽やかだった。あぁ・・・十代目。俺も帰りたいです。でも、それは隣で練習風景を眺めている正一も同じだろう。正一も白蘭がダンスに参加している以上、一人で帰る事はできない。
「いや・・・別に白蘭さん一人で帰れなくはないのでしょうが心配でして」
「・・・・そっか」
「一人で置いて帰ったら、家に帰ってから落ち着かないと思うんですよね。僕が」
やばい。目頭が熱くなってくる。
何処までも苦労症な彼に俺は同情せずにいられなかった。
こうして俺と正一に見守られながら大会の当日まで雲雀達の練習は続いた。最初はげんなりとした様子で見ていた俺たちだったが毎日のように練習に付き合う内に彼らのやる気に影響されてくる。
動機は何であれ、内容がなんであれ、骸もクロームも白蘭も・・・雲雀も本気でやっているのだ。
「応援してやらないと・・・な」
「そうですね」
完成に近づく4人のダンスを見るうちに俺と正一は心からそう思えるようになっていた。
軽やかに・・・時に激しく。
雲雀は軽やかな身のこなしを売りとし、骸は体全体での表現で魅せ付ける。
クロームは女性的な動きを取り入れ、白蘭は大胆な踊りで飽きさせない。
「完璧だ」
もうここまで来れば曲の内容も関係ない。ただ・・・純粋な芸術がそこにある。
それから何度かの予選を通過した後。無事に今日、俺たちは本大会に挑むことになった。
「あぁ・・・なんかドキドキしてきた」
一般観覧席に座りながら俺は隣の席にいる正一に話しかけた。
「そうですね。別に僕が出るわけじゃないのに緊張しますね」
コクコクと頷きながら俺は答える。
「それにしても・・・」
この熱気は何だろう。明らかに俺たちとは違う周りの温度。それはかつてオタクの聖地ナミバに行ったときのことを思い出した。
はやく始まらないでごじゃるかーv 今日のイベントには声優の●●ちゃんも来てるから期待大ナリー。 ていうか女人のいるチームもあるとか? うはwパンチラ希望! OTAKUサイコー! 瞳という名のフィルダーに焼き付けるしかないYO
あぁ・・・なんか頭が痛くなってきた。俺は被っていた帽子は深く被りなおしながらビクビクと体を震わせる。前回・・・ナミバに行ってオタクに囲まれたときのことは記憶に新しい。ここにいるオタクの数はあの時の比では無いのだ。ていうかアニメのイベントなのに外国人お姿もちらほら見える気もするし・・・。インターナショナルってやつ?いや、そんなことはどうでも良い。おれが心配なのは唯一つ。ナミバでの悪夢。あれがまたあったら・・・。そんな俺の恐怖心は巨大マスクと伊達眼鏡。そして髪形が崩れても構わないというくらいに深く被った帽子という盾でギリギリ死守されている。
そしてそれから数分後。会場内に入りきれないというくらい人が密集したところで会場に現れた司会と思わしき女性が声を上げる。
「はーい!みなさんお待たせ〜!“ハヤリーナのダンシング☆カルネヴァーレ”今からはじまるよ!」
わぁああああああーーーーー!!
沸きあがる歓声。一般観覧席も座れない人たちで埋まっていた通路も会場の外からも女性の声にあわせて声が響き渡る。
ていうか何なんだこの熱気は。しかも随分と司会の割りに砕けた言い方だな、と思っていたら隣にいた見知らぬ男達に睨まれた。何故か背後からも視線を感じる。いや、背後だけじゃ無い。四方八方から無言の圧力が俺たちに掛かっている。
「隼人さん・・・どうやら座ってるのは僕たちだけみたいですよ」
ここは周りに合わせて立ち上がったほうが良いかと。正一の耳打ちに頷くと俺たちは勢い良く立ち上がった。
まったく・・・えみりゅんが登場したのに立たないなんて風上にも置けないでごじゃるよー。 一般席に座る価値がなくね? むしろえみりゅん&会場に入れなかった表の奴らの為に切腹キボンヌw
あぁ・・・立ち上がったことで視線は柔らかくなったけれど周りの陰口に俺たちは針のむしろだった。しょうがないだろう・・・ていうか“えみりゅん”って誰?しかしそんな事を聞いた日には袋にされるのがオチなんだろうな。
・・・・・オタク怖い・・・・。ナミバ以来、俺の中で世の中の怖いものランキングが日々書き換えられていく感じがする。
「今日は特別審査員さんもいるんだよ!子役でゆーめいなマーモンちゃん!」
「どうも・・・」
司会の声にあわせて深いフードを被った子供がステージに現れる。マーモンと言えば俺も知っている有名な子役だ。まさかこんな大会で見れるとは。
「そして次は美術審査員としてルッスーリアさん!」
「どっもーv」
おぉ!こいつも知ってるぞ!お昼の番組でファッションチェックやってたな!へーこの大会はあういう芸能人も出るんだ・・・。ちょっと大会のでかさに見直した。
無駄に芸能人を見てドキドキする俺。ただまわりの奴らはあまり二人に興味を示さなかったみたいだが。周りの奴らが笑顔で迎えたり声援を送っていたのは俺の知らない声優アイドル(と正一が言っていた)やハヤリーナの監督(これは雲雀と見たときにスタッフロールで名前は覚えていた)などなど。けれど最後に現れた人物(?)に会場は静まり返る。
「最後にとうじょーは謎の超合金☆ゴーラ・モスカさんですー」
プシューと蒸気音を響かせて現れたのは会場全員が黙り込んでしまうくらい巨大なロボット。愛嬌の無いフォルムと威圧的に響かせる轟音に盛り上がっていた面々は口を閉じる。
・・・・・。
・・・・・・・・。
・・・・・・・なんだあれは・・・?
初めて会場にいるオタクと俺たちも心が一つになった瞬間だった。
まぁでも開会式はそんな感じだったけれど、大会が始まれば俺はそんなことを忘れてしまうくらいステージに見入っていた。予選のときから思っていたがやはり曲は何であれダンスは本格的だ。道具を使うもの。体だけで表現するもの。色んなやり方で観覧席にいる俺たちにアピールをする。
「流石に予選を勝ち抜いてきただけあって凄いな」
息を飲ませぬ演技。無駄の無い動きに誰しもが見入っていた。
そして雲雀達のグループまで後わずかとなったとき、司会が読み上げたチーム名に会場がざわめきたった。
「次の演技は“チーム・ヴァリアー”さんですー」
ヴァリアー・・・?何処かで聞いたことがあるような・・・。
俺がぼんやりとそう思っていると周りからもザワザワと声が上がる。
ヴァリアーって・・・あのヴァリアー?伝説のサークル登場でつか!?やべ!誰か永久保存!!
今までの盛り上がり方とは別の熱気が会場を包み込む。
そして周りが期待のまなざしでステージを見つめ始めた頃、スポットライトと共に仮面をつけた4人の男達がステージ上に現れた。
銀の長髪の男、金髪で頭に王冠を載せた男、ギザギザの髪にピアスだらけの男。そして3人の中心には一番でかい仮面で顔を覆った男が現れる。
「な、なんだあれ・・・」
「ちょっと・・・凄いですね」
ハヤリーナのキャラクターソングに合わせて踊るとは思えない男達の登場に俺と正一は小声で囁きあった。だって4人とも背丈は違えど体躯は良いのだ。スポーツや対術をやっていた人間特有の引き締まった肉体。そして仮面越しにも分かる厳つい顔。差別するつもりは無いが・・・場違いにも程がある。
しかし、そんな俺の考えは曲が始まったと同時にあっさりと払拭された。
軽やかな舞。激しい肉体を使った動き。時折入るコミカルな動きと振り付け。はっきり言って素人目にも無駄が無い。万人が認めるダンス。
会場の誰かがポツリと呟いた−
あれこそヴァリアークオリティだと・・・。
ダンスが終わったとき、会場で上がったのは素晴らしさをたたえる歓声。スクリーンに現れた大会至上最高得点だ表示されると同時に誰しもが彼らに拍手を送っていた。俺も例外ではない。勿論、正一も。
凄いものを見せてもらった。俺の心は感動で打ち震えていた。
けれど、ここで満足してはいけない。だって一番のメインイベントである雲雀達の番がまだ後に残っているのだから。
「このあと15分の休憩を挟んで3チームが終わってから白蘭さん達の出番ですね」
正一がパンフレットとチーム名を見比べながら呟く。そうか、あともう少しか。
「始まる前にさ、楽屋に応援に行こうぜ」
休憩時間を含めても30分以上ある。それだけ時間があるなら声を掛けてもまたここに帰ってこれるだろう。そう決めると俺は正一と共に観覧席を抜けた。
楽屋裏。事前に雲雀にメールをしていたお陰で俺達はあっさりと中に入ることが出来た。ガードマンやなんやに厳しく言われるかと思ったが意外にその辺は緩いらしい。
「本大会といってもまだエリア別の大会だからね」
本番になったらこうはいか無いよ。雲雀はそう言いながら俺たちを控え室に案内してくれた。
中では本番前という事で緊張した面持ちの骸とクロームが鏡の前で衣装を調え、白蘭は深刻そうな顔でマシュマロを咥えている。けれど3人は俺たちが室内に入ってきたのを見るとそれまでの顔が嘘のように笑顔を浮かべ駆け寄ってきてくれた。
最初に俺に抱きついてきたのは白蘭。
「ママー!!!」
俺の腰に両腕を回しタックルするように抱きついてきた白蘭。俺は勢いで押し倒れそうになるが骸に後ろから支えられギリギリで踏ん張る。
「白蘭さん。嬉しいのは分かりますが隼人さんが怪我しちゃいますよ」
「う・・うぅ・・・ごめんなさい」
「大丈夫だって。怒ってないから。けど次から気をつけろよ」
正一に怒られて落ち込む白蘭の頭を撫でながら慰めると、俺の体を支えながら様子を見ていた骸はクフフと笑っていた。
「まったく・・・隼人君は本当のお母さんになってしまったみたいですね」
「馬鹿を言わないで。隼人が産むのは僕の子供だけで良いんだよ」
骸の言葉に雲雀が向きになって絡む。ていうか子供って何だ。確かに白蘭は俺の子供みたいなポジションかもしれないが実際問題俺自身からは子供は産めないぞ。けれど二人は真顔だった。頼むから誰か突っ込んでくれ。
けれど・・・そんな願いを抱きながらも俺は考える。部屋に入ってきたときは心配していたが普段通りのこいつらの顔を見ていると無用のようだ。先ほどまで暗い顔をしてピリピリとした雰囲気があった室内が俺たちが来てから何時もと変わらない空気に変わろうとしている。
「さっきね・・・ヴァリアーの演技を見てから少し自信をなくしてたんだよ。けど君達が応援に来てくれて心に余裕が出来たみたい。ありがとう・・・ハヤリン」
雲雀に手を握られ、じっと見つめられ、俺は真っ赤になりながら笑顔で答えた。
「ヒバリンの役に立てるなら俺・・・」
ぎゅっと握られていた手を握り返し俺も見つめ返す。雲雀も笑顔だった。俺も笑顔だった。何も言わず見詰め合う俺たち。その空気を打ち破ったのは“クハハハ見てられませんねー”という骸の咳払いと、“ママー”とぐずり始めた白蘭の掠れた声、そしてそれを諌める正一の深いため息だった。
「あ、ごめん!!」
あわてて俺は手を離すとワタワタと誤魔化す。そして苦笑いを浮かべて皆の顔を見比べていると・・・一人、俯いたままのクロームに気づいた。そう言えばさっきから鏡台の前で座り込んだままクロームは俺たちの輪の中に入ろうとしない。知らない人たちならともかく骸や俺もいるのにどうしたんだろ・・・?
そう思い声をかけようとしたところでクロームはふらりと立ち上がるとおぼつかない足取りで俺の元に歩み寄ってきた。
「は・・・や・・と・・・」
何時も以上に弱弱しい声。流石におかしい。そう感じた俺が駆け寄ろうとしたとき、クロームの体がクラリと倒れた。
・・・バタン
室内に響くクロームが倒れた音。ちょうど近くにいた正一がその身体を支えてくれたお陰で怪我は無い様だったがクロームの顔は優れない。荒い息を吐き、血の気の無い顔でぐったりとするクローム。
「凪!大丈夫ですか!!」
最初に彼女に駆け寄ったのは兄である骸だった。彼は目を閉じたまま開かないクロームを正一から預かると額に手を当てて状態を伺う。
「凄い熱です・・・どうやら今まで無理をしていたみたいですね」
元々からだの弱い子です。悲しげに眉を潜めながら骸はクロームの体を椅子に横たわらせた。
「こんな状態では・・・踊れませんね」
「・・・・しょうがないよ。こんな状態の彼女に無理はさせられない」
雲雀はそういうが室内の空気は急に悪いものに変わる。だって・・・たしかこの大会は4人一組が原則なのだ。一人が欠けた時点で雲雀達のチームには参加資格はなくなるだろう。意識を失ったクロームの唇が謝罪の言葉で揺れたような気がした。
それからロビーに向かった骸は責任者と話をすると特別条件を与えられた帰ってきた。
まずチームの順番を一番最後にする。それまでにクロームが体調がよくなって踊れるようならそのまま参加。だめなら別のメンバーを追加すること。それでも時間内に4人踊れる状態の人員が集まらなかったら・・・。
「僕達は棄権するしかないようです」
骸の口は重たかった。最後に回してもらったとはいえ与えられた時間は少ない。これから新しい人物を探してダンスを教えるにも厳しい時間だった。
「こうなったら元々、ある程度僕たちのダンスを知ってる人に協力してもらうしかないね」
雲雀はそう言うとじっと室内を見渡して・・・・一人の人物に着眼した。
「君」
「え?」
雲雀に声をかけられたのは正一。彼は急に声をかけられて驚いたようだったが今までの流れに納得すると困ったような表情を浮かべ俯いてしまう。
「僕は今まで白蘭さんの練習に付き合ったのでダンスの流れも掛け声も暗記しています。大体の動きも分かりますが・・・でも・・・」
そこまで言って正一は首を振った。
「すみません。先ほど、クロームさんが倒れてきた時に足を変に捻ってしまったようでして」
残念そうに俯く正一。確認すると・・・正一の足はクロームを庇ったほうが赤く腫れ上がり酷い状態だった。
「正ちゃん・・・大丈夫?無理しないで」
「ごめんなさい、白蘭さん。できれば・・・力に成りたかったんですが」
「いいよ!気持ちだけで十分だから!」
そう言いながらも白蘭はどことなく残念そうだった。けれどそれでも正一が心配のほうが強いのだろう。期待しつつも無理をさせられないと必死で笑顔を作る。
けどこうなると残ったのは・・・。
「なら、俺が出る」
俺がそう言うとその場にいた全員から否定の声が出た。
「それは駄目!!!!!!!」
「絶対駄目!!!!!」
「ママは出ちゃ駄目ーーーー!!!」
「隼人さんが出るくらいなら僕がーーー!!」
あーーー、もうみんな無理するなと言いたい。それくらいの大音量だった。そもそも室内に病人がいるんだからとクロームに目をやればクロームも無意識に俺の参加を非難する言葉を呟いている。
「だめ・・・いのち・・・だいじに・・・」
まだ言うかクローム。けれどそこまで否定されると流石に無理を押してでも参加するわけには行かなかった。
しかし、こうなると残ったのは・・・・。
「ダンスを一通り見たことがあって、俺たちを知ってる人」
口に出してみて、その人物が限られているのは分かっている。
本当なら頼みたくない。いや、頼んではいけない。けど・・・俺は雲雀達の夢を叶えてやりたいんだ!
俺は懐から携帯電話を取り出すと目当ての人物をアドレス帳から探す。そして通話ボタンをゆっくり押すと数回のコールの後、現れた相手の声に縋るような声を上げた。
「お願いします十代目!」
十代目が会場に着いたのは雲雀達のチームが舞台に上がるわずか15分前のことだった。自宅で休日を楽しまれていたにもかかわらず嫌な顔一つせず急なお願いをOKしてくれた十代目。けれど残された時間は少なすぎて・・・十代目に衣装を着替えてもらう時間を考えればぶっつけ本番で挑むしか俺たちには許されていなかった。
「メインのダンスは僕たち三人に任せて。出来る限り気味の動きをカバーできるようにしたから」
「最低限度で良いんです。覚えているだけ動きを合わせてくれるように努力してくださったら」
雲雀と骸は十代目が来るまでにまとめていたダンスの流れが書かれた紙を見せると口頭のみで打ち合わせをする。最後の確認がこんな形になるなんて誰しもが不安だろう。急遽、十代目をフォローするためにパートを変えた白蘭も追加された動きを正一と合わせながらチラチラと俺たちの様子を伺う。
「大丈夫・・・だよね、ママ」
心配そうに俺に問いかける白蘭。俺はそんな白蘭に言い聞かせるように・・・いや、この場にいる全員に言い聞かせるように笑顔を浮かべた。
「何だって良い。お前達が楽しめたら良いんだ。胸を張って踊って来い」
俺は精一杯応援してるから。そう言って笑うと白蘭は泣きそうな顔で俺に抱きついてきた。
「そうですね。貴方の応援が勇気です」
骸はそう言って俺の手を取る。
「世界中が敵に回っても君が僕を応援してくれるなら・・・僕は絶対に負けないよ」
雲雀はそう言いながら俺を背後から抱きしめる。そしてそのまま三人は“君さえいればどんな勝負も勝ち続ける〜♪”と歌いだした。いや、正確には四人か。ソファに体を預けたまま冷えピタを額に貼り付けたクロームも気がつけば歌に混ざっている。四人による熱唱。部屋の空気は最高潮に盛り上がっていた。
「で・・・俺は・・・どうしたらいいの」
打ち合わせの途中でほおって置かれた十代目を除いて。
それから数分して雲雀たちは係員のやつに呼ばれて舞台へと向かった。俺と正一は参加できないまでも見守りたいというクロームの為に係員に頼み込んで舞台袖で雲雀たちを見守らせてもらう。
「頑張れよ・・・雲雀!」
横から覗き込む会場。しかし雲雀達が舞台に立った時、会場の奴等の反応は予想以上に冷たいものだった。
ヤローしかいないでごじゃるかー。 ブーブー女人キボンヌ! ヤローだけのチームに見る価値無いなりw うはw男臭@ゲンナリ クロローム殿無しで挑む気?必死杉でワロタ
激しいブーイング。物を投げつける奴はいないまでも雲雀たちへ向ける言葉の暴力は激しい。
「・・・私が出るのもこのチーム売りだったから・・・そのせいで兄様たちが・・・ごめんなさい・・・」
「クロームが気にすることじゃないだろ!別にクロームは悪くない」
「そうですよ。悪いのはマナーがなってないあの人たちです」
「でも・・・」
「正一の言うとおりだ・・・言いたい奴には言わせておけばいいんだ」
落ち込み元々悪かった顔色をさらに悪くしたクロームに胸を痛めながら俺は舞台に立っている雲雀に熱い視線を送った。
言いたい奴に言わせておけば言い。見るものは人じゃなくってダンスなんだ。そしてそのダンスの為に雲雀達がどれだけ頑張ってきたかも俺は知っている。
「負けるな・・・」
未だにブーイングにさらされる舞台上を見つめ暗い顔をするクロームの手を握りながら俺は強く願う。
けど・・・願いは空しくブーイングは強くなる一方だった。それは司会の人間がとめても止むことは無く、むしろ止める人間がいる事で火に油が注がれる始末。係りの人たちも何とか始めようとするのだがブーイングに阻まれて曲を流すタイミングが掴めないでいる。
最悪だ。俺は悔しくて唇をかみ締めた。正一も、クロームも同じ気持ちだろう。舞台袖の俺達は何も出来ずにただ耐えるだけだ。そしてそれは雲雀たちも同じこと。いや、俺たち以上に舞台に立っている雲雀たちは真っ向からこの声に耐えているのだ。
悔しい・・・悔しい。雲雀たちがどれほど頑張ってきたかも知らないくせに。どんな思いで今舞台に立っているのかも知らないくせに!!
俺は涙でにじみそうになる視界で必死に壇上の雲雀の顔を見た。
・・・・・・雲雀はただ黙って見つめていた。
舞台から会場にいる人たちをただ黙って見つめ・・・言葉の暴力に耐えていた。
お前、こんなキャラじゃないだろうに。気にくわないことがあれば直ぐにトンファーで殴りつけるくせに。骸だってそうだよ。なんで笑っていられるんだよ。お前だってこんな奴ら目じゃないだろ。白蘭だってそうだ。何時もなら駄々こねて投げ出すくせに。
なんで黙って・・・耐えることが出来るんだよ。
そして一番後ろに立つ十代目。貴方もなんで我慢できるんですか。急に頼まれて巻き込まれて・・・訳が分からない奴等にいわれの無い侮辱の言葉を投げられているというのに。
ぎゅっと握り締めた手。それに気づいた正一がぽつりと言った。
「きっと皆さん・・・僕たちのために耐えてくれてるんですね」
「え・・・?」
「ここで暴力に走るのは簡単です。彼らならきっと会場の人たちを敵に回したって勝てるでしょう。けどそれでどうなりますか。大会は滅茶苦茶になり、きっとダンスどころじゃないでしょう。それどころか踊る資格自体も剥奪されるでしょうね。白蘭さん達はそれを望んでいないんですよ。見守っている僕達のためにも・・・応援して勇気をくれた隼人さんのためにも皆さん何を言われてもここでダンスを踊りたいんですよ」
そう全てはここで踊るために。
そしてそのダンスは誰でもない・・・正一やクロームや・・・俺の為に。俺たちに見せるために4人は耐えているんだ。
ぐっと俺は拳で涙を拭うと一人出かけだしていた。正一の止める声が聞こえる。クロームが戸惑いの視線を送る。雲雀が・・・驚いた顔で俺を見つめる。
けど関係ない。それでも俺は舞台に立ち叫びたかった。
「てめーらいい加減にしろ!これ以上、雲雀たちを悪く言うなら俺が相手になるぞ!!」
俺の声は想像以上に会場中に響き渡った。静まり返る会場。雲雀が焦ったように俺に声をかける。
「は・・・ハヤリン。その顔・・・」
「・・・・え?」
背後に立つ雲雀に振り返りながら俺は言われるがまま顔に手を当てた。
・・・雲雀達の控え室に入ったときに熱かった俺は帽子を外していた。
・・・・さっき涙を拭うときに目元を覆っていた伊達眼鏡は外した。
・・・・・・叫び声がこもらないように口を隠していたマスクも外してしまっていた。
つまり、今の俺は素顔なのだ。
ハ
・・・・ハ
・・・・・・・・・・・・・・・・ハヤリーーーーーーーナ!!!!!!
会場が色めきだったのが一瞬で分かった。ナミバの悪夢再び。俺は恐る恐る会場に視線を送る・・・が一瞬で恐怖に駆られ顔を覆う。舞台袖から正一が駆け出してマフラーで俺の顔を隠してくれた。係員も気づき上着などでで俺を会場から隠す。
「おおおおおおおおおオタク怖い!!!」
パニックになる俺。正一や係員も必死で会場を宥めながら俺を舞台上から遠ざけようとした。
しかし隠せば隠すほど奴等の勢いは止まらない。司会のえみりゅん(とか言う奴)も必死でマイク越しに何かを叫んでいる。けどその声もオタクたちの声にかき消されてしまっていた。
クロローム殿の変わりにハヤリーナのパンチラきぼん! リアルハヤリーナ@光臨キター! 萌えっ子どうぶつ食べたいなりーー! OH!HAYARI-NA!!
耳に入る声。全てが恐怖だった。いや、軽率な行動を取った俺が悪いのだが・・・どうしてもナミバでの恐怖を思い出し体が強張る。あぁ・・・俺って校内でも恐れられている不良なんだけどなぁ・・・。そもそもマフィアの俺がここまで恐怖心を煽られるなんて。
さっきとは別の意味で涙がにじんできた。ていうか気がつくと係員の制止を無視して会場のオタクの数名かが舞台に近づこうとしている。彼らは必死だった。必死で俺に近づこうとしていた。警備員も来て取り押さえようとしていたが暴徒とかした彼らの力を抑えることはできない。
その時、一人のオタクが俺に手を伸ばした。
あと少し、で俺の手を掴める位置まで来ている。
雲雀は愛用の仕込みトンファーを構えようとしていた。骸も白蘭も近づく奴らに掴みかかろうとしていた。
あぁ、でも俺はぼんやりと状況を眺めながら考える。暴力沙汰だけは駄目だと。ここで事件を起こしたらそれこそ・・・踊れなくなってしまう。雲雀たちの努力が報われなくなってしまう。
我が身の危機は俺のせいなのだ。自業自得。だから・・・俺のことはほおって置け。
そんな事を考えながら腕をつかまれそうになったとき、あの人の声が全ての時を止めた。
「汚い手で触れるな・・・蛆虫が」
冷たく低く響き渡る声。その声に一同が顔を上げる。
「自分の立場わきまえてないの?息吸う位しか活動できない●●が。その子は××如きが触れて言い存在じゃないんだよ。身の程をわきまえろ(ぴー)野郎」
えっと・・・十代目ですよね?俺、禁止用語が満載でどういう顔をすればいいのか分かりません。
「笑えば良いと思うよ」
俺の心を読んだ雲雀が真顔でそう返してきた。けど笑えるか。十代目が・・・十代目がなんかオーラが黒くなってるんだぞ!ていうか何時もの俺の知っている十代目じゃないですーーー!!!
「悲しいけどこれ、現実なのよね」
骸もなに口調変えて俺の心の声に答えてるんだよ。というか俺さっきから声出してないよな。なんで普通に会話が進行してるんだ。
「大丈夫。怖くない」
怖いよ白蘭。しかもなんで舞台袖のクロームは雲雀たちの一連の会話を聞いて満足そうに微笑み頷いてるんだ。
でも今はこいつらに突っ込みを入れている場合じゃない。もっと突っ込みを入れるべきは、何故か俺の手を引き腰に手を回しながら雄大な笑みを浮かべていらっしゃる十代目に・・・なんだろうな。
「これ以上、汚ねぇ口を開くな。耳が腐るだろ。そもそもこの姿を目に写せただけでも感謝しろ。今まで生きて来れたこと以上にな。それだけ身分不相応なことをお前はやろうとしてたんだ。そもそも俺がじきじきに忠告してやってるだけでもありがたく思え。でも・・・それでも忠告に耳をかさずにこれ以上の愚かな行動に走るというならここにいる奴らは全員・・・・・・・
ミナゴロシィィィィィィイイイイイィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
あ・・・十代目が壊れた。十代目の声があたり一面に響き渡ると同時に俺はそう感じた。
むしろ、えぇ。ボンゴレ十代目の貫禄を感じれて男らしいです。素敵です、十代目。ポジティブに考えよう俺。そうだよ、これこそボスの貫禄。わぉ、最高だね・・・って思わず雲雀の口真似が出ちまったよ。
しかし俺が十代目のお顔を見つめながらそんなことを考えているとき、会場はまた新たな動きをはじめていた。それは今までの暴動が嘘のような静けさの中で行われていた変化。会場にいたオタク達はただ黙って俺を守るようにたたずむ十代目の顔を皆眺めながら祈るように手を組む。
「厄神・・・だ」
俺の手を掴もうとしていたオタクがそう呟くとぺたりと尻餅をついて俺たちを見上げた。
その言葉に反応するようにそれまで黙っていた会場の奴らもザワザワと口を開く。ポツリポツリと聞こえてくる単語。
ネ申だ。 厄ネ申@光臨! 真のラスボスキターーーーーーー! 最凶☆最悪☆イベント発生 ていうか巫女様は何処だ? oh!MY GOD!! 怒りをお静めくださいませ厄神様ーーー!!!
へ?へ?へ????
囁きは呟きに変わり、呟きは叫びに変わり、最後には何故か祈りの言葉に代わっていた。気がつくと舞台に上がろうと警備員に取り押さえられていたオタク達も暴れていたのが嘘のように立ち止まり力なく床に座り込む。
「これこそ厄ネ申クオリティ」
雲雀も祈りのポーズを取り十代目を見つめていた。骸も・・・何時しか白蘭もクロームも同じポーズをとり熱い視線を送る。
・・・・・・・・多分、この会場で取り残されているのは俺と正一くらいなんだろうな。けど怖いから声を出せず流されるままに成り行きを見守る。
誰しもが見入っていた。そして耳を傾けていた。十代目の言葉に。それくらいこの会場は今、十代目を中心に何かが行われているのだ。
「愚民どもが・・・これに懲りたら少しは大人しくしてるんだな」
十代目が呟く。小さいがはっきりした声、それに会場中の誰しもが頷いた。そしてそれを確認すると十代目は何時もの笑みを浮かべて俺の手を紳士的にとり舞台袖まで誘導する。
「怖がらせてごめんね。けど君を守るためなら俺・・・手加減できなくなるから」
微笑を浮かべて物騒なことを呟く十代目。俺はその言葉にプルプルと首を振るとお礼の言葉を口にする。どういう流れか今ひとつ俺にもわからないがこの場を収めてくださったのは十代目のお言葉なのだ。やっぱり十代目は凄い。
「本番前にはいえませんでしたけど・・・十代目、どうか頑張ってくださいね」
そして本当にありがとうございます。もう一度お礼を言うと十代目の掌を一度両手で握り締め、それから背中を押して見送った。十代目が舞台に現れると同時に曲のイントロが流れ始める。もうブーイングをあげる奴も、妨害する奴もいない。
最高の舞台だ。俺は舞台袖で最後まで彼らの演技を見つめ続けた。
その後、優勝までは行かなかったが特別賞をもらった雲雀たち。ダンスを通して友情が深まった雲雀と骸とクロームと白蘭はダンスの練習が必要なくなった今でも毎日、俺の家などに来てはオタク談義を繰り広げている。まぁ俺としては雲雀たちがオタク談義を広げている間、白蘭についてきた正一がいるお陰で退屈せずにはいられるのだが。
けどあの日以来、雲雀たちには困った癖がついてしまった。それは・・・。
「獄寺君いるかな?母さんに頼まれておかずの少し持って来たんだけど・・・」
十代目が我が家を訪ねる日常。けれど今までなら当たり前だったその光景に余計な叫びが入るようになってしまった。
「厄ネ申様キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
キラキラと期待する瞳を浮かべるオタク4人に強張った笑みを浮かべる十代目。それが今では当たり前の光景。
結局、ダンスによって脱オタクを願った俺だったが・・・・・逆にオタク色は強くなってしまったようだ。
いや、良いんだ。それでも俺はオタクなこいつらが大好きだから。うん、何も後悔は無い。俺はオタクのこいつらを愛してる。
だから・・・きっと流れる涙は今日も気のせいなんだ・・・・・・うん。
ハヤリーナ的厄ネ申さま設定。
@いわずもがなラスボス
A最強で最凶。強運と凶運は紙一重なキャラ。
Bミナゴロシィィィィィィィは彼を代表する台詞。
C巫女様とよばれるキャラとの縁は深い。
Dハヤリーナサイトでの登場は何時の日かw
そんな感じで。
あとオタヒバ達のダンスは映画キサラギのEDなイメージでお送りしております。
あぁ・・・しかしこの話。うっかりUPし忘れてて書いてから2ヶ月近く経ってるのは自分でもorz
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