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@呪いと書いて「まじない」と読む。
「おい、コレを今日は付けていけ」
先ほどまで読んでた雑誌を乱暴に床に放り出し、朝の準備をしていた僕に詰め寄るりながら隼人が僕に渡してきたのは隼人が好みそうなゴテゴテのシルバーアクセサリー。凶器になりそうなくらい大きな髑髏の飾りがついたネックレスだった。。
うん、隼人がつけてたら似合うよね。普段からこういうの付けなれてるし、どこぞの南国フルーツの髪形をした霧の女守護者の名前を連想させて腹が立つけど髑髏系のファッション好きだし。けどそれを僕に薦めてくるのはどうなんだろう。僕は普段どおりのホワイトスペルの軍服。私服ならまだしもそれにこれは似合わない。
「いいから付けろ」
僕が断る前に首に腕を回してネックレスをつけてくる隼人。これがネクタイとかなら感動なんだけどあいにく隼人が持っているものはシルバーアクセで僕の服はネクタイ要らずの軍服だ。いや、隼人には言ったことないけど朝のこういう光景憧れてたよ。なんか新婚さんみたいでいいよね、とか思ってたよ。
けど現実は以外に残酷だ。あぁ、僕はけしてこんな状況は望んでいなかった。
「うん、これでよし♪」
しかしニコニコ笑って満足げな隼人を見てると僕の口からはお礼の言葉しか紡げない。もう笑うなら笑ってくれ。どうせ僕は隼人馬鹿だ。
「それからあと・・・これだな」
けれど次に隼人が出してきた物には流石に僕の笑顔が凍りついた。
凄いよ、流石隼人。ミルフィオーレの若きボスを務めてる僕だけどここまで身の危険を感じたのは生まれて初めてだよ。僕は活き活きとした表情の隼人に何も言えずにガタガタと体を震わせる。首に掛かった髑髏のネックレスがうるさいくらいにカチャカチャ音を立てた。
隼人がネックレスの次に僕に渡してきたのは犬耳カチューシャと犬耳尻尾付ベルト。・・・マニアックにも程があるよね。いや、隼人を愛してる僕は隼人の全てを受け入れる気があるよ。だってそれが愛だもん。隼人のこと愛してるもん。けど、あー・・・これは無理。
渡された犬耳カチューシャをじっとりと汗と共に握り締めながら僕は脳みそをフル動員させて隼人を傷つけずにこの事態を回避する方法を考える。こういう頭脳プレイは本当なら正ちゃんが得意なんだろうけど頼れる彼は今ここにはいない。孤立無援。自身の手で勝利を掴むしかないのだ。
「白蘭・・・つけてくれない?」
上目使いで僕におねだりする隼人。
あっさりその可愛い姿に陥落した僕はマッハの速さで首を縦に振るとカチューシャを頭につけた。白いフワフワした頭に上手く収まっているか分からないけど隼人が目を輝かせてる姿を見る限りこれでOKなのだろう。勿論、隼人に喜んで欲しくてベルトもつけた。隼人馬鹿と笑うが言い。ていうか天下のミルフィオーレのボスが軍服で犬耳コスプレをしてるなんて誰か想像つくだろう。
ポジティブに考えればいい変装になるよね。僕なら絶対に近づきたくないし。というか誰も近くによって来てくれないんじゃないかな。あははは・・・良いんだ。この姿でも隼人が隣にいてくれるというのなら。思わず乾いた笑いを浮かべる僕。
けど隼人の僕への攻撃はまだ続いていた。
「じゃあ最後にコレな」
ずっと隼人のターン。どこぞで聞いたフレーズを思い出しながら僕は隼人の手の上で輝く物体を見つめた。
パールピンクのグロス。数週間前に隼人がCMで見ておねだりした物だ。ブランド物の値も張るやつでキャッチフレーズは「キスが近づく唇」だったかな。けどそんなものはどうでも良い。隼人がつければ滅茶苦茶可愛いと思って贈ったものだから隼人がどうしようと勝手だ。それこそ気に入らないと捨てても人に譲っても構わないと思う。でも、それを僕に薦めるのは何て苛め?
「今朝は・・・隼人ずいぶん行動的だね」
遠まわしにそう言いながら僕は張り付いた笑みで隼人に問いかけた。愛しいハヤトだけど心の底からの笑みは今の僕には無理。
「いつもなら僕がお願いしても朝からこんなに構ってくれないよね」
低血圧の隼人は朝に絡めばいつでも拳を僕にお見舞いしてくれる。話しかければ睨み付けて来る。抱きつこうとすれば男の急所へ致命的な攻撃を加えてくるぐらい不機嫌なのだ。
なのに今朝の隼人はいつもと違って自ら動いて僕に絡んできた。嬉しいけどなんか逆に恐怖すら覚えてしまう(負け犬根性)。
「だって・・・」
「ん?」
「今日の占いに・・・書いてあったから」
隼人の言葉に僕は視線を床に動かした。先ほどまで隼人が読んでいた雑誌。乱暴に捨てられたのかと思えばページはしっかりと隼人が最後に読んでいた占いの特集で開かれている。
えっと、どれどれ・・・僕の今日の占いは・・・。
『・・・座のあなたの今月運勢は最悪★思いがけないハプニングに巻き込まれちゃうかも!ラッキーアイテムはドクロのアクセサリー・犬のアイテム・ピンクの口紅』
あぁ、なるほど。
「白蘭がなんか大変なことに巻き込まれたら・・・嫌だから」
隼人はそう言いながら不安げに僕を見つめていた。うん、そうだったね。何時命を落としてもおかしくない僕をいつも心配してくれてたのは君だもんね。不器用な君の愛の形。
そう思うと首から提げた髑髏のネックレスが重たかろうと、犬耳のカチューシャと犬尻尾ベルトで部下達から笑われようと我慢できる気がしてきたよ。僕は心からの笑みを浮かべると隼人を抱きしめる。
「ありがとう!隼人」
愛しい君にキスで答えて僕はピンクのグロスに手を伸ばした。わざわざ隼人がもって来てくれた手鏡を相手に笑顔で紅を塗る。腹立たしいほど輝く唇。
「今日は早く帰るからね♪」
ピンク色に光る唇でそう呟くと僕は元気に出勤した。
・・・・でも、考えてみれば十分僕はトラブルに巻き込まれてない?そしてこれから本部にいけばこの姿のせいで更なるトラブルに巻き込まれるように思うんだけど・・・。玄関を開けると僕を迎えに来た車の前で待っていた正ちゃんは僕の姿を目に写した瞬間腹を抱えてうずくまっていた。
・・・もう笑われる覚悟は出来てるよ。だって僕は隼人馬鹿。そして今日一日この姿で過ごすのが僕の愛の形。
でも良いんだ。僕のこの姿を見て隼人が安心してくれるなら、僕に後悔は無い。
「白蘭さん・・・お疲れなんですね。すみません、僕気がつかなくて。今日は仕事減らしますから早く帰って休んでください」
そう言いながら車に乗り込む正ちゃんの目が優しくて思わず涙が出そうになる。
A呪いと書いて「のろい」と読む。
日本語は上手いな、と隼人が生まれた国を思いながら僕は目を閉じた。
しかし僕は知らなかった。あの占いが『今月の占い』だったことを。
月が変わる頃には僕は鏡を見ずに口紅を上手く塗れるようになってて流石の僕もこれには泣いた。
たまには獄に振り回される白蘭が書きたかったんですが・・・なんか不憫ですね、リアルに。
でも初期案だと某魚座の聖闘士ばりに水色のリップとかにしようかと思いましたがそこまですると本気で可哀想なのでやめました。 |
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