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クルクルと巻かれていく包帯が好き。
丁寧に貼られた絆創膏が好き。
傷口をふさぐ真っ白なガーゼが好き。
包み込む消毒液の匂いが好き。
けど自分を治療してくれる彼はもっともっと好き。
「また顔を狙われたのか」
呆れたように呟くと黒いスーツに身を包んだ少年は目の前に座る人物の左目から眼帯を外した。銀色の前髪に隠れるようにしていた眼帯を外す
と現れるのは痛々しいほど紫に染まった瞼。白い肌に目立つその痣に手にしていた薬を塗りこむと少年は真新しいガーゼをあてがう。
「次に左目をやられたら失明する可能性がある・・・俺はそう言ったよな、獄寺。俺はお前がもうちょっと賢い奴だと思っていたぞ」
「あははは・・・先日そう忠告されたばかりでしたね、リボーンさん。けどやられちゃったものはしょうがないじゃないですか」
困ったように微笑みながら獄寺隼人は痣で腫れた瞼の向こうから緑色の瞳をリボーンに向けた。その瞳には光は無い。多分、無意識に動かした
だけで何も映し出していないことをリボーンは分かっている。だけど、それでもまっすぐと自分を見つめてくる視線を感じたリボーンは大きくため息をつ
いた。
「ほら、右足を出せ。そっちも怪我してるんだろ」
「あ、はい!お手数・・・おかけします」
「たく、生傷が耐えない奴だな」
「・・・すみません」
「別にお前は悪くない、だろ」
区切るように呟くと手馴れた手つきで傷口を消毒する。足も大きな痣ができていたが骨には異常は無いらしい。打ち付けたような跡のため傷口は
小さいが腫れあがった足は見ていて痛々しいものだった。
「こっちは湿布で良いな。はぁ・・・これだけ大きな痣だと跡が残るかもな」
「そうですね」
何でもない様に言うが右足にはこれ以外の傷跡がいくつもある。いや、正しくは右足だけではない。大きいものから小さなもの。目立つものから殆ど
傷の塞がったもの。そんな傷跡が顔から手足、はては衣服で隠れる部分。爪の先から天辺まで体全体に広がっているのだ。
傷だらけの獄寺隼人。
それはボンゴレにいる人物なら知らない者がいないくらい有名な話。
「どうしてこんな風になったんだろうな」
リボーンの小さな呟きに獄寺は答えない。ただ笑みを浮かべるだけだ。傷だらけの顔で聖母のような笑みを浮かべリボーンの治療に身を任せている
。
10年前はこんな奴ではなかった。少なくとも獄寺が敬愛するボンゴレ十代目に命の尊さを諭された日からこいつはこんな傷だらけで無茶をする奴
ではなかったはずだ。目的のために命を捨てるとか、死んでも任務を遂行するとか。そんな考えは卒業したはずだ。
けど今の獄寺はどうだろう。傷だらけで笑みを浮かべ、まるで勲章のように痣を見せ付ける。
原因は分かっている。だからリボーンはただ無心で治療に専念した。
「雲雀の奴には俺から注意しとく。顔は狙うなって」
「リボーンさんにそう言っていただけるとありがたいです。・・・でも」
「俺たちの問題だから、だろ」
そう言ったあとに零れたため息は何度目だろう。
確かに雲雀と獄寺は世間的には“恋人同士”だ。“他人”であるリボーンが口出しする問題ではないだろう。獄寺に傷を負わせたのは“恋人”の雲雀
。雲雀が暴力を振るった理由を獄寺が語ることは無いがこの手のトラブルは当事者同士の問題と切り分けるのが世間的なやり方だ。けれどリボー
ンには目をそらすことは出来ない。
「けど俺は“いい加減にしろ”と言いたいんだ」
口調を強めに言うとリボーンは微笑む獄寺を睨む。獄寺の笑みは止むことはない。ただ一言、「ありがとうございます」とだけ言って頭を下げると右
足を引きずりながら部屋を後にした。
『これは必要なこと』
リボーンしかいなくなった部屋の中にテープレコーダーの音声が響く。無機質に回転するテープから聞こえた声はリボーンの愛する人物の声。
『あの人はこうしないと俺を見てくれないから』
はっきりとした口調でもう一人いる男にすがりつく様に愛する人は語る。
『だが雲雀はもうすぐ壊れるぞ』
『そうだな雲雀は4年目。長持ちしたほうか』
『・・・骸は2年か』
『あー・・・そうだったな』
すがりつくような態度は一変し、くすくすと笑いながら愛する人は言葉を続けた。
『骸は使えない奴だったな。あいつは顔とか目立つところは狙わないんだよ。俺の顔が好きだからって。骨は折ってくれたけど綺麗に折るから治るま
で早かったし。精神的に壊すのは向いてるけど肉体的には攻撃が綺麗過ぎる』
『ベルの野郎は1年だったか?あいつの攻撃は悪くないんだけどこっちがされるがままだと“面白くない”って止めちまうんだよ。それに周りの奴も以外に
常識人であいつが俺を攻撃してる姿を見ては止めに入るしな。少し扱いにくかったな』
『雲雀は最近泣くんだよ。俺を殴りながら泣くの。攻撃してくれるあたりは律儀だけど近頃は荒れてやけくそっぽいよな、やり方が。で血まみれになっ
た俺を見て最後は謝るんだよ。あの雲雀が謝るんだぜ?“もう許して”って。笑っちゃうよな』
思い出して笑う声は無邪気そのものだった。その声に対比するように男の苦渋気味な声がスピーカーから漏れる。
『まだ続けるのか?』
『まぁな。雲雀はそろそろ使えなさそうだから次を探さないとだけど。・・・どこかに良い奴はいないかな・・・』
『俺を見るなよ。他をあたれ』
『まだ何も言ってないだろ。自意識過剰すぎるぜ、おっさん』
穏やかな口調。けれど次の男の言葉で愛する人は様子を変える。
『ならリボーンに言えば良いだろ。“俺の新しい恋人になってください”って』
ガタン、と音が響いた。
『駄目、無理、それだけは言えない。恋人になんてなれない、なりたくない』
『だけどお前が本当に好きなのはあの小さなヒットマンだろ』
『好きだよ、愛してる。いつだってあの人を一番思ってるのは俺なんだ。俺はあの人が好き。憧れてるし尊敬もしている。大好きだよ、愛してる・・・
愛してる愛してる』
『なら告白しろよ。他のやつとは恋人になれてなんでリボーンとは駄目なんだ』
『やだ、告白はしたくない。今のままで良いんだ、今のままがいいんだ。理想的な関係じゃないか。俺とリボーンさんはこの距離が良いんだよ。恋人
でもない、ただの仲間。ファミリー。家族。良い関係じゃないか!!』
声を荒げる。テープレコーダーが壊れるんじゃないかと思うほどの声量で叫び続ける。
『恋人になんてなりたくない。恋人になって捨てられたらどうする。置いてかれたらどうする。飽きられたら?振られたら?他の人を選ばれたら?愛
人でも良いなんて嘘だ。やだ、怖い怖い怖い怖い・・・断られるのが怖い。拒否されるのが怖い。自分を見つめてもらえなくなるのが怖い。まだ失恋
するほうが良い。俺は恋人になんてなりたくない。失う日を考えたくないから。考えなくて良いから』
『落ち着け、隼人!』
『今の俺なら見つめてもらえるんだ!心配してもらえるんだ!考えてもらえるんだ!恋人に虐待される可哀相な仔!知ってるか?どれだけ優しい
顔でおれを心配してくれるか。知ってるか?どれだけ丁寧に俺を治療してくれるか?不安げに俺を思ってくれるか!悲しげに傷をまみれの俺を見つ
めてくれるか!あれだけで十分。それだけで十分。むしろあの時間のリボーンさんは俺だけのもの。リボーンさんに心配してもらえる時間は俺だけで
一杯だから・・・ぁあ・・なんて素敵なんだろう』
うっとりと呟く声。愛する人は落ち着きを取り戻したのか深呼吸を何度か繰り返し男に自慢げに話し始めた。
『そういえば絆創膏アルバムがもう少しで10冊目に入るんだ』
楽しそうな声。男は答えない。
『ガーゼのアルバムが一番集まりが良いな。先日巻いてもらった包帯と一緒に14冊目にもう入るよ』
『眼帯はまだまだこれからだな。三角巾とかレアなんだぜ』
『ギプスのコレクションは最近は逆に集まりが悪いんだ、雲雀は骨を狙わなくなったからな』
男は無言だった。愛する人はただ楽しげに言葉を紡ぎ続けた。
『今度は何処に怪我させてもらおうかな』
愛する人のその言葉を最後にリボーンはレコーダーを切る。遠くから自分の部屋に近づいてくる気配に気づいたからだ。リボーンは素早くテープを抜
き取ると本の間に挟み戸棚に閉まった。テープレコーダーに記された日付はまだ数日前のものだった。
「すみません、リボーンさん!また包帯巻いていただけませんか!!」
リボーンの自室に近づいてきた気配の正体。
扉を開けたのは先ほど治療を終えて出て行った獄寺だった。リボーンがテープを聴いている間に何があったのだろう。
右腕はありえない方向に曲がり、左足まで引きずるように扱われ、頬からは抉り取るような傷と共に血が流れている。
「お前は・・・」
「はい?」
「いや、何でもない」
だまって治療用の道具を取りに行く。リボーンは考えた。
― ここで自分が告白しても誰も喜ばないのだろうと。
そして心の中で付け足す。
― 臆病な恋をしているのは自分もなのだろうと。
そして今日もリボーンは包帯を巻く。愛する人の白い肌に同じ色の包帯を。
扉の向こうでは獄寺の“恋人”が有り得ない悲鳴を上げながら涙を流していた。
(あとがきと言う名の言い訳)
熊侍様に捧げます!すれ違いリボ獄と片思いリボ獄に萌える・・・と言うことでしたが・・・ど、どうでしょうか?一応宣言どおりヤンデレ要素も入れました。リボーンが好きすぎて告白できない獄と獄を壊したくなくて告白できないリボーンの恋物語。不健全(笑)なヤンデレ獄です!こんなもの捧げる作品かはわかりませんがよろしければ受け取ってやってください。それだけが私の願いですw |
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