16日目
白蘭が熱を出した。昨日はしゃぎ過ぎたのか此所数日は子供ながらも俺のことで気を使わせすぎたせいか・・・。朝起きてから微熱がなかなか下がらない。
もしかしたらずっと体調悪かったのを俺に気を使って言い出せなかったかもとか、熱くなってきたとはいえ薄着で寝かせたのは失敗だったかもとか原因を考えてたら寝ていた白蘭がうっすら眼を開けて俺に微笑んだ。
思えばコイツははじめてあった日から一度も泣いてないな。困った顔や怖がった顔をしても口元は必死に笑みを描いてたし涙を流すという真似は絶対にしない。それこそ熱で苦しいだろうに子供がこんな時にも泣かずに笑うとは何を考えてるのだろう。そんな事を考えながら微笑む白蘭を見下ろしてたら掠れた声で俺の名前を呼んだ。

「ママ・・・苦しいの?」

そう声をかけられて俺は息を飲む。あぁ・・・そうか。コイツは俺に笑ってほしくて笑ってたのか。
ずっと思い詰めた表情ばかりしていた自分を恥じて俺は苦笑を浮かべて白蘭の手を握ると空いてる手で髪を撫でてやった。

「ダメなママでごめんな」

気がつくと白蘭は笑みを作ったまま穏やかな寝息を立てていた。

(目を覚ましたときは笑った顔で向えてやりたい)


17日目
朝になると白蘭の熱は落ち着いていた。長引くような熱じゃなくで一安心。ただ表に出て遊びたいという白蘭をなだめまだ今日は一日家で過ごすことにする。
一応、明日か明後日に熱が無かったらまた公園に連れていくことを約束。ちょっと残念そうだったが約束したことで渋々は納得してくれた。そのかわりというわけで今日は寝飽きている白蘭に絵本を沢山読んでやり穏やかに過ごすことにした。

「いつかは僕がママに読んであげるね」

まだ平仮名が全て読めない白蘭は俺と絵本を見比べてそう宣言してくる。・・・なんか自信満々に宣言してくれた白蘭に悪い気はしなかった。

(でもその「いつか」はいつだろうな)




18日目
朝起きて熱を測ると何時もどおりの体温に戻っていた。顔色も良く体調も悪くないようなので白蘭に強請られるまま公園に今日は向かうことにする。まだ体は心配なのであったかい時間になってから短い時間だけ、と白蘭と約束。普段より少し着込ませてから二人で家を出た。
公園に着くと先日までの病状が嘘のように白蘭は一人ではしゃぎまわる。ブランコに乗ったり滑り台で遊んだり・・・たまに俺に手を振って名前も呼んでいた。

「ママ見ててー」

ジャングルジムの天辺まで上った白蘭はそう言いながら両手をばたばたさせている。一緒に遊んでいる子はいないが独りでも楽しそうだ・・・と思っていると急に後ろから声をかけられた。最初は誰だろうと思っていたが話を聞いてみると先日、この公園に来たときに白蘭のボールを届けたくれた中学生らしい。入江正一・・・と名乗った少年は俺たちの姿を見てわざわざ声をかけてくれたようだ。そして一人で遊ぶ白蘭にも声をかけ、迷惑でなければ遊び相手にもなってくれると言う。最初は白蘭の人見知りを心配していたが白蘭は俺が“正ちゃん”と少年を紹介すると予想以上に懐いてくれた。帰るときには散々渋る始末。また遊んでくれるという約束をしてやっと正ちゃんの手を離してくれたがそれでも名残惜しそうに帰路をついた。

(白蘭に友達が出来た・・・けど名前がどっか引っかかるような・・・)


19日目
今日はおうちでお勉強。早く平仮名を覚えたいという白蘭のためにノートを用意して一つずつ丁寧に教えていく。どうやら俺に絵本を読んであげるという話をまだ引きずっているようで白蘭は幼いながらも必死で書き方や読み方を覚えようとしていた。

「これが僕のなまえ?」

ある程度書き方を教えてから俺は最後に白蘭の名前の書き方を教えてやった。すると奴は頬っぺたを赤く染めながら暫く自分の名前を眺めた後、笑顔を浮かべ何度もその横に同じ字を書いていく。そして何度も書いて満足したあとノートを閉じて表紙のところにデカイ字で“びゃくらん”と書き込むと満足そうに何度も頷いていた。しかし・・・俺はその光景を見てなんだか笑ってしまう。そういえば俺も始めて自分の名前の書き方覚えたときは凄く嬉しかったもんな。きっと白蘭も同じ気持ちなのだろう。そう思うと懐かしさで笑いが止まらなかった。

(白蘭は今度は俺の名前を書きたいとはりきっていた)



20日目
今日は朝から強請られて白蘭とまた公園に向かった。つい数日前に言ったばかりなのだが白蘭は正ちゃんという友達が出来て嬉しくてたまらないらしい。今日もいるか分からないと白蘭をがっかりさせないために諭したが中々こいつも頑固なところがあるようで一度行くと言って聞かなかった。しかし最初は遠慮したり俺の様子を伺ったりしていたがここ数日は自分の意思を俺に見せるようになった気がする。それだけ俺に懐いてくれたのだろうか?小さな背中を見つめ歩きながら俺はそんな事を考えていた。
公園に着くと俺たちを待ち構えていたように正一の姿がそこにあった。そして彼も俺の姿を見つけると嬉しそうに手を振り駆け寄ってくる。白蘭も彼の姿を見つけて嬉しそうだ。二三言交わし簡単な挨拶を終えると正一は白蘭につれられて遊び始めた。やっぱり一人より二人が良いんだろうな。兄弟のようにも見える姿に心が和む。

「あのねー僕ママも大好きだけどしょうちゃんもすきー」

沢山遊んでもらった白蘭は夜寝る前に俺にそう伝えてくれた。そうだな。俺も二人とも好きだよ。そう伝えると白蘭はうれしそうに笑って眠りについた。

(正ちゃんがずっと白蘭と仲良くしてくれたら良いな)