11日目
今朝は嫌な夢を見た。中学生の俺が10年後の未来へといった時の夢。今頃、俺と入れ替わりに未来へといった中学生の頃の俺はあの絶望的な未来を見ているのだろうか。思い出すと胸が苦しくなり頭が痛くなってくる。
俺は・・・あの未来を変えなくては。十代目を助けるためにも変えなくてはならない。
朝食を食べた後もずっと夢に見た事を考えていた俺は洗濯物を干している時に足元に絡んできた白蘭の首に無意識に手を重ねた。

「ん・・・まま?」

きょとんと何をされるのか理解してるのかしてないのか。首を絞めようとする俺の手に自分の小さな手を重ねて白蘭は微笑む。どうしようもなくその掌の感触が・・・温もりが愛しい。
あぁ・・・やっぱり俺は・・・愚かなのだろうか。10年共に過ごしてきた十代目の命を助けたいと思うのに10日過ごしただけのこの子供の命が俺には奪えない。



ごめんなさい。



俺はその日一日、誰かに向かって謝り続けた。それは殺そうとした白蘭への謝罪だったのか十代目への言葉だったのか。ただ幼い白蘭は心配そうに謝る俺の手を握ってくれた。

(でもこの小さな手が未来で十代目を・・・)



12日目
一日謝り続け、俺は再び最初に立てた誓いを思い出した。未来は必ず変える。けど白蘭は殺させない。殺さない。俺が白蘭を十代目が殺さないような未来に繋がるように育てる、そうすれば良いだけの話なんだ。

「ママ、もう大丈夫?」

くるしくない?と朝から心配そうに俺を見上げる白蘭。その姿に未来のようなマフィアのボスの面影は無い。
大丈夫。今ならきっと・・・まだ間に合うはず。胸に引っかかる緊張と十代目への謝罪の気持ちはまだ消えないけれど、もう大丈夫だと俺が答えた後に浮かべた白蘭の笑顔に俺は希望を見た。
大丈夫。大丈夫。十代目もお前の未来もまとめて俺が守ってみせる。

(悪あがきといわれても俺は諦めない)



13日目
今日は白蘭と買い物へ。守ると決めた矢先だけどまだ気分が悪くてどうしても家にいると鬱々としたまま過ごしてしまう。だから極力表に出ようと考えて出かけたのだが買い物の途中の商店街、急に白蘭が立ち止まって何かに見入っていた。見ていたのは玩具屋の店頭に並んでいた青いゴムボール。特に口にはしないが物ほしそうに眺めているので思わず聞いてみたが白蘭は必死で笑顔を作って首を振る。

「僕はいいの。ママが元気になってくれればそれでいいの」

ぎゅっとそう言って握られた掌。どうしても俺はこの感触に弱いらしい。こんな小さな子供相手に心配をかけ続けている俺。守るといわれた矢先、先に白蘭に俺が守られた気がした。

(大人になってもいざって時は情けないな、俺)



14日目
ここ数日、ずっと白蘭に心配されている俺。どうも夢の影響か普段どおりに接し切れていないらしくいつも不安そうに俺を見上げてくる幼い目線が痛い。大丈夫というがそれでも心配らしく白蘭はずっと俺を気にかけてくれていた。そのお礼・・・というわけではないが俺はこっそり買ってきた先日、白蘭が眺めていたゴムボールを奴にプレゼントしてやった。最初は戸惑っていたみたいだがやっぱり嬉しいのだろう。満面の笑みを浮かべるとお礼をいって俺にボールを手渡す。不思議そうに俺が首をかしげていると白蘭は照れたように俺にこう言った。

「さいしょは大好きなママが遊んで」

その言葉に耐え切れなくて俺は白蘭を胸に抱き寄せた。本当に・・・情けない大人だ、俺。

(救おうとしてるのは俺なのに救われてるのも俺)



15日目
鬱蒼とした気分を払拭するためにも今日は白蘭と少し離れた公園に遊びに行った。昼食も公園で食べようと朝から弁当を用意していると白蘭もお出かけが嬉しいのか先日買ったばかりの青いボールをリュックに詰め始める。俺もそんな白蘭に少しでも喜んで欲しくて慣れない調理をしながら昔、テレビで見たキャラ弁とかいうのに挑戦してみた。けど・・・惨敗。お昼にあけたときには中がグチャグチャになってしまい何が何だか分からない状況だったが白蘭は俺の手作りというのが嬉しいらしく文句を言わずに食べつくした。

「おべんと、ママありがとーね」

お弁当を食べ終わって笑いながらそう言った白蘭に思わず俺は頬を染める。なんでだろう、昨日まであんなに悩んでたのが嘘みたいに胸が温かい。
それからは夕方まで白蘭とボールで遊んで過ごした。ただ俺が思いっきりボールを投げてしまったせいでボールが公園の外に出てしまったりするアクシデントがあったが通りすがりの中学生に拾ってもらいことなきをえる。その後もいっぱい遊んで疲れ果てて眠ってしまった白蘭。小さな体を背負い家に帰るともう俺の中のウヤムヤしてたものは何処かに消えてしまっていた。
不思議と、こんな日が続いてくれればいいのにと願ってしまう。そんな一日だった。

(そういえばボールを拾ってくれた中学生をどこかで見た事があるような・・・?)