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『お前がこの手紙を読む頃、俺はお前の側にはいないかもしれない。でも、心配しないでくれ。俺はいつでも一番近くでお前のことを見守っているから』
まるで遺書のような手紙を読み終え隼人は唖然としていた。
差出人は自分の同級生でもある、山本武。
今日の午前中、突然届けられた荷物に入っていた手紙は内容だけ読むと別れを告げるもののようにも感じる。けど読みようによってはストーカー宣言のようにも受け取れる。乱暴かもしれないが隼人にとっての山本の存在感はそんなものだった。
それはさておき、手紙が入っていた荷物である。
手紙はオマケで荷物がメインだ。
そう思いながら隼人は自分ひとりが余裕で入りそうなダンボールを解体し始めた。ダンボールは大きさもそうだが、重さも人間一人分である。コレを自分の住むマンションの6階まで運んだ、運送業者の職人魂には感服しきれない。まぁ、彼らはそれが仕事なのだろうが。
そんなことを考えながらダンボールを外すと、中から出てきたのは立派な革張りの椅子だった。これまた大きさ共に人間一人が入れそうである。重さも不自然なほどに重い。それも人間一人分くらいに。
「あー・・・・」
巨大な椅子の出現に頬をポリポリとかくと、隼人はポケットにしまっていた携帯電話に手をのばした。この状況で頼れる人は少ない。アドレス帳をいじくり目当ての人物の名を探す。
そして数回のコール音と共に呼び出すと短く用件を伝え電話を切った。目当ての人はこれから30分もすれば来てくれるだろう。それまでに自分にはしておく事がある。隼人は家からありったけの板を集めると、かなり不自然な形で椅子に付いている扉を外から打ち付け始めた。なんか作業中に椅子の中から「あぶね!」とか声が聞こえた気がするが隼人はあえて無視する。なんとなく中から生物の息使いも感じたがこれもあえて無視することにした。
そして作業開始から約30分後。
チャイムの音と共に目当ての人物がやってきた。
「獄寺くん、いったいどうしたの?」
切羽つまった隼人の声色に心配してくれた十代目ことツナと、
「まぁ大体想像できるけどな」
何故か楽しそうなノリのリボーンである。
「じゅうだいめ・・・・・」
頼れる人物の登場に隼人は貯めていた恐怖心を崩壊したダムのように吐き出した。涙を流すまではいかないが、電波った人間の奇行は死者よりも恐怖心を煽るものである。
とりあえず状況説明に困った隼人は届いた手紙を手渡し、椅子を指差す。山本本人直筆の手紙と、不自然な大きさの椅子。
それらを見て、ツナは山本が珍しく図書室で読みふけていた一冊の本を思い出した。タイトルはまんま「人間椅子」。内容は女流作家のところに椅子職人から手紙が届いて、その椅子職人は女性の家の椅子の中に住み着いているというメッセージが書かれていた・・・という内容だった。ただ、アレはオチがあったから良いとして。この状況は本の中よりも奇怪な光景である。
実際、椅子の中に人間が入ってるのだから。
「いい加減にしときなよ、山本」
呆れたようにツナが言い放つ。一瞬、椅子がカタンと動いた。
一応外の声は聞こえるらしい。ツナは怯えている隼人を椅子から離すと中の人物に向かってひたすら話しかけた。
「一生、そのままでいるつもり」
「学校どうするのさ」
「っていうか今のままじゃ一生、表に出れないよ」
「いい加減・・・警察呼ぶ前に出てきて」
最後のほうになるとツナの言い方もドスの利いたものになってきた。けれど中からの返答は一切無し。完璧に無視を決め込むつもりらしい。それに気づいたツナは笑顔を浮かべると隼人に断りを入れてキッチンへと向かった。そして暫らくして出てきた彼の手にあったのは大量の刃物。
「ぎゃー!十代目それだけは!!」
「なんで?椅子相手なんだからなにも問題ないでしょ?」
「笑顔で怖い事言わないでください!!」
隼人はツナを羽交い絞めにすると必死で刃物を奪い取る。様子を見ていたりボーンは「ボスなら殺しくらい軽くしないとな」とか「部下のケジメはボスがつけるもんだ」とか格好いい事を言っているが、隼人は自宅が殺人現場になる事は避けたかった。
マフィアなんだから殺しの一つや二つ増えてもいい気がするが、信心深いところもある隼人には自宅が殺人現場になったらそれはそれで嫌だし、殺された相手も相手だけに化けて出そうで嫌なのである。さらに付け加えれば相手は山本武。死んでも付きまとわれそうでそれも嫌だった。
「とりあえず!平和的な!解決方法を!!」
隼人はツナをどうにか落ち着かせると心の底から叫んだ。
「マフィアが平和的解決方法とは・・・笑えるな」
「言わないでください、リボーンさん」
言ってる自分もなんか違う気がするんです。心の中で付け足すと隼人は溜息をついた。
現役のマフィアをここまで追い詰めたのだ。
山本武。恐ろしい男である。
「とりあえず、どうする?ゴミ置き場ににでも置いてくる?」
「このマンションの町内会長が怖いんでそれはできません」
「じゃあ海にでも沈める?」
「そんな事したら、俺は明日から魚食えませんよ」
「あきらめて、このまま放置・・・」
「それは一番怖いので嫌です」
そこまで案を出すとツナと隼人は同時に溜息をついた。
その時・・・。
ドンドンドンドン
ベランダの窓を外から叩く音が聞こえた。先に断っておくがここはマンション6階。家主の隼人は室内にいる。
『だ、誰だ;;;;;』
焦る隼人だったが、リボーンは気にせぬ様子でカーテンを開けるとベランダの鍵を開けた。
「赤ん坊に呼ばれたからきたよ」
「おぉ、待ったたぞ」
ベランダから颯爽と現れたのは並盛中学校風紀委員、雲雀その人だった。再び断っておくがここはマンション6階である。
「お前は普通に登場できんのかーーー!!」
「うるさいな。窓ガラス割らなかっただけ良かったと思ってよ」
そもそも玄関から普通に入ってくればする必要のない行動である。だが、恩着せがましい態度で威圧する雲雀に何故か納得してしまった隼人は「ちっ」とだけ言うと黙り込んだ。
「で、これ?」
土足のままズカズカ入り込むと雲雀は例の椅子をまじまじと見る。そして面白そうに頷くとリボーンに向かって何時ものノリで話しかけた。
「うん、いいよ。風紀委員会で処分してあげる」
「おう、頼んだぞ」
「じゃ、後で委員の奴をよこすから」
そう言うと雲雀は再び、ベランダから去っていった。しつこいようだが此処はマンション6階である。だが、もうツッコム気力は誰にもなかった。
「と、とりあえず・・・」
「風紀委員会でもみ消してくれるって事ですか・・・」
やっとのことで声を上げるとリボーンは「そうだぞ」と返す。また椅子がカタンと揺れた気がしたが3人はコレも無視した。
それから数分後、予告どおり風紀委員が部屋に訪れた。彼らは3人がかりで椅子を運び出すと『玄関』から立ち去っていく。部下まで窓からやってきたらどうしようと考えていたツナ達だったがそれは心労に終わった。
翌日、山本を学校で見ることはなかった。心配する女生徒達を尻目にツナと獄寺は普段どおりに授業を受ける。そしてその日の放課後・・・。
カタン
下駄箱を開けた獄寺は中に入っていた手紙を見て固まった。
差出人は「山本武」。
恐怖はどうやら、まだ終わっていないようである・・・。B級ホラー映画のようなオチに獄寺は涙を止める事が出来なかった。
キもっさん使用例。でも、山本の台詞は皆無ですね。
ウチの山本こんなのです。 |
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