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『いきなりだけど雲雀なんか嫌い。別れる。』
たった一行だけのメールが送られてきたのは12月26日の朝のこと。
差出人は僕の可愛い恋人。のはずなんだけど送られてきた内容は可愛くない。
・・・まったく珍しくメールしてきたと思ったらコレなの?
メールの受信音に起こされた僕はまだ仲良くしたげなまぶたを無理やり引き離して携帯電話のキーを叩く。
『急に何』
可愛くないメールにそっけない返信。
すると返事は一分も待たずに届けられた。
『疲れたんだよ色々。別れるって言ったら別れる。もう決めた』
『だから、なんで』
『しゃべりたくない』
『言わなきゃ分からないよ』
『よく考えてみろ』
『考えたけど心当たりがない』
『鈍いやつだな』
会話にしたらたった数秒で終わりそうな会話をあえてメールにすることで倍以上かかってしまった。けどそれが分かっていても僕もは電話にしようとする気にはなれない。きっと隼人も同じ考えなのだろう。
向こうが電話をかけてきてくれないと嫌だ。
可愛くない意地の張り合い。でも僕はその意地を譲る気にはなれないから面倒くさく思いつつも再び文字を打ち込んでいく。
『理由が浮かばないんだけど』
送信ボタンを押して数秒。
『言わないと分からないのか・・・?昨日一緒にいてくれなかったじゃないか』
帰ってきた隼人のメールに目を丸くしながら僕は壁にかかったカレンダーをみた。
今日は12月26日。隼人の指す昨日は12月25日。カレンダーには丁寧に祝日でもないのに赤字で「クリスマス」と書かれていた。
『昨日は年末だから委員会で書類をまとめるのに忙しいって言ったでしょ』
『確かにそれは前に聞いてたけど・・・。なら一昨日は?一昨日も一緒にいてくれなかった』
『日曜日も委員会』
『委員会って、もう学校は冬休みだろ』
『休みなら休みでやる事があるんだよ』
日曜日でも学校に行く事があるのは前からでしょ。別に今月に限ったことじゃない。
それが分かっていて食い下がってくる隼人に少し腹を立てながらも僕は送信ボタンに手を伸ばす。そのタイミングで送られてきた新たなメール。
『さすがに普通は恋人なら、クリスマスくらい一緒に過ごすものだろ・・・』
その一言に僕は送りかけたメールを消して新規で文章を打つ。
『クリスマスを一緒に過ごさないと恋人じゃないの?』
たかがイベントに振り回されるなんて馬鹿みたいだ。
『それに君は言ったじゃないか
“神 様 は 信 じ な い ”って』
そんな君が神の子の誕生日を祝うの?
ちょっとした皮肉を込めて送信。流石に返事がくるまでには悩みこんだのか5分もかかった。
『身も蓋もない言い方だな。雲雀は意地悪だ』
『矛盾を言っただけだよ』
『性悪。神様は信じなくってもクリスマスを楽しみたいんだよ』
なに、その日本人的発想。イタリア育ちの癖に随分、日本の草食動物たちに毒されたものだ。
呆れながらメールの返信ボタンを押す。と再びこのタイミングで送られてくる隼人からのメール。
『いいかげん気付け』
そしてすぐに届くもう一通。
『よく見てみろ』
よく見るって何処を?さすがにこんなやり取りに疲れた僕はあきらめて通話ボタンを使う。数回のコール。少しいらつき気味の隼人の声。
“もしもし?”
「最後のメールはどういう意味」
“気付いてないのか・・・鈍感”
「この僕が譲歩してるんだよ。その態度はないんじゃない」
“はぁ・・・一度しか言わないからよく聞け”
“今まで俺が送ったメールを立てに読め”
それだけ言うと隼人は携帯を切った。ご丁寧に直ぐに電源を切ったのかそれ以降は留守番電話のサービスに繋がってしまう。
「立てに読め・・・って」
携帯を操作してメールの受信ボックスを順番に開いていく。
・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・あぁ、なるほど。
可愛くないメールかと思ったけど・・・本当は随分と可愛いらしいメールだったんだね。
メールボックスをとじるともう一度通話ボタン。留守番電話に繋がるのは分かっているから僕は一言だけ呟いて電話を切る。
「今から会いに行くよ」
それだけ言うと携帯を胸ポケットにしまって僕は出かける準備をした。
まっていてね、僕の可愛い人。
君の願いが叶うのはあと数分後の出来事だから。
クリスマスということで甘め。といってもUPはクリスマス過ぎてますが;
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