とことこと前を歩けば、ちょこちょこと後からついてくる小さな影。
気配を感じて振り向けば、慌てて隠れる銀の髪。

けれど昔の人はよく言ったもので、“頭隠して尻隠さず”とはこういうことを言うのかと電信柱から少しだけ飛び出ているフリルのスカートはまさに彼女にお尻だった。


時刻は7時40分。最近は毎朝のようになりつつあるこの行為にツナは色んな感情を通り越してあきらめの極地まできつつある。


「あのね、何度も言うんだけど学校に君を連れて行けないんだよ」


諭すようにツナが言えば、フリルのスカートはビクっと振るえ電信柱の影から少女の頭がひょこっとコッチを伺うように現れた。


「じゅーだいめー・・・」
「だから、その呼び方もやめてよね。あと、毎朝毎朝おんなじことを俺にさせないでよ」


やれやれと溜息をつくとツナは未だに電信柱の影から様子を伺っている少女に近づき溜息混じりに頭をなでる。

時刻は現在7時45分。ここで彼女を説得できなければ自分は今日も遅刻だ。


彼女・・・ハヤトちゃんがこうして朝、俺のところに来るのは今日が初めてではない。あの彼女を救出した翌日くらいから彼女は何かというと俺の前に現れては俺にチョコチョコと付きまとうようになった。まだ日本語が片言だった彼女の言葉曰く俺に“おんがえし”がしたいというのだ。


まぁ子供のいうことだからと適当に流していたのは数週間前。
朝現れては俺と学校に行くと騒いでいるのはここ数日。
そしてその数日は俺の遅刻の連続記録をたたき出している。


「俺は君を連れて学校には行けないし、このままじゃ俺は遅刻しちゃうの。それは分かる?」
「スィー(はい)。わかります・・」
「なら君はこのままオウチに帰ってね」


ニッコリと笑って彼女に語りかけるがまだ彼女は不満げに俺を見上げている。


「トゥッタンヴィーア(だけど)・・・じゅーだいめといっしょに行きたいんです・・・」


ウルウルと大きな目を潤ませ、俺の脚にぎゅっとしがみついて離さないハヤトちゃん。こうなるともう剥がす事は不可能に近い。


「うぅ・・・今日も遅刻か・・・・」


時刻は7時55分。

もう回りに中学生の姿も見えなくなる中でツナはボソリとつぶやくのだった。