その日の空はどこまでも青くって果てしなくって
少女の泣き声はただ溶けていく事しかできなかった。


「う・・・・うぇ・・・ん・・・・」


そこは深い深い井戸の中。
水の枯れたその底で少女はしゃっくりと共に大きな涙をポロポロとこぼしていた。


見上げれば頭上には広がる青空。そして出口に繋がる井戸の淵。
けれどそこは余りにも遠すぎて少女の身長では届く高さには無かった。

少女は真っ赤になった鼻をすすると、上を見上げて手をのばす。
ジャンプして、背伸びしてそれでももう少しで届かなくって・・・。

最後には恐怖と孤独から涙をこぼして泣き続けるのだ。


いつからこうしていたのかは分からない。


ただお昼ご飯を食べて、暇つぶしに近所にある空き地に入ったら、たまたまそこにあった古井戸の蓋が開いていて好奇心で覗き込んだらそのままコロンと中に入ってしまったのだ。運が良かったのは水が枯れてから大分経つのか、底がそんなに深くなかった事。そして底に張っていた草がクッションの代わりになって大きな怪我が無かった事。

おかげで少女は命を失う事は無かったが・・・、そのまま出ることもできず井戸の住人となってしまったのだ。


「うぅ・・・ねえさまぁ・・・・おかあさまぁ・・・・」


ぐしゅぐしゅになった顔を手で拭いながら少女は力なく底に座り込んだ。

本当なら今頃は家で母親がオヤツのホットケーキを焼いていてくれてるころだ。
姉が手伝っていたならトンデモナイ代物になっているかもしれないが、今はそんなものさえ懐かしい気分になってしまった。

だって、このまま発見されなかったら自分は二度と食べる事ができないのだから。

普段は立ち入り禁止といわれている空き地に自分が来る事は誰にも言ってなかった。さらにこの土地に来たばかりの自分にはこの辺りに友達もいない。一人で遊んでいた自分の居場所を突き止めることなど不可能に近いだろう。
なんだか少女は絶望的な気分になってきた。


「うぅぅぅ・・・え〜〜〜ん・・・・」


一人はイヤだし、お腹は空いたし、体は寒い。

帰りたい帰りたい。少女は最後の力で泣き叫んだ。
誰にも聴こえないかもしれない。こんな辺鄙なところだから。
でももしも・・・もしも誰かが気づいてくれたなら・・・。


「え〜〜〜ん・・・・!!」


誰か見つけて。

そう願った、その時。


「誰か・・・そこにいるの?」


頭上から突然降ってきた声。
その声に導かれるように顔を上げると、そこには制服を着た少年が自分を見下ろしていた。

少し気の弱そうな顔に、大人よりも小さな・・・けれど自分よりも大きな体。
ツンツンと癖のある金の髪は夕日に反射していて、少女はその光がまるで天使の後光のようだと感じた。


「もしかして、落っこちちゃったの?大丈夫?怪我してない」


そう言いながら差し伸べられた掌。涙に濡れた手をその掌に重ねたとき少女は思った。



『一生をかけてこの人に恩返しをしよう』と。



沢田 綱吉13歳。
獄寺 隼人 3歳。




この物語はそんな二人が出会ったこの時から始まります・・・。