ある日の休日。平和な日常を楽しんでいたツナは玄関先で倒れている物体を見つけた。
今日は先日からの約束でハヤトちゃんが遊びに来る予定だった。けれど時間になっても現れず、気分転換に外の空気でも吸おうかと窓から身を乗り出したツナの目に映ったもの。それは巨大なヌイグルミを背負って倒れているツナもよく知る子供の姿。


「は、ハヤトちゃん!?」


二階の窓からでも分かる銀の髪に気がついたツナは慌てて階段を駆け下り玄関へと向かう。
一体、彼女に何があったのだろうか?急病か?怪我か?とりあえず何にしろ心配なのには変わりない。
自分を慕ってくれている子供の倒れている姿に胸騒ぎを抑えきれないツナは玄関の扉を乱暴に開けると同時に裸足のまま倒れているハヤトちゃんに駆け寄ろうとした。
しかしツナが手を差し伸べようとした瞬間に走った衝撃。ツナがその衝撃に伸ばした手を引っ込めると掌には鋭い傷跡がついていた。


「な・・・いたっ!」


フーーーーー!!


ツナの手についた傷跡は爪による引っかき傷。そして威嚇するような声にツナが視線を送ると・・・“それ”は倒れているハヤトちゃんの背中で威勢よく毛を逆立てツナを睨みつけていた。

な、なにこれ・・・。

冷や汗をたらしながらその物体をまじまじと見つめるツナ。
ヌイグルミと最初思っていたがどうやら生きているらしい。猫・・・?にしては耳に炎のようなものが見える。
見れば見るほど・・・正体不明だ。


「なにこれ・・・」


もう一度浮かんだ疑問。しかし今度は心の中ではなくツナの口から零れた。
そしてその声に答えたのは倒れたまま目を覚ましたハヤトちゃんのくぐもった声。


「うぅ・・・瓜・・・ダメです〜・・・」


そう言いながらもぞもぞと動くハヤトちゃん。ただ背中に乗っている生物のせいで起き上がることが出来ないのか首だけあげるとツナに申し訳なさそうな顔をする。


「スクザーレ(ごめんなさい)!瓜がじゅーだいめにおケガをさせてしまって・・・」

「瓜?瓜っていうの、これ?」


ハヤトちゃんの言葉に傷を負った掌を押さえながら瓜を見つめるツナ。瓜と呼ばれた猫(と思われる)はハヤトちゃんの背中に乗ったままニャーと自慢げに鳴いている。


「この・・・瓜はハヤトちゃんのペットなの?」

「瓜は瓜です。ハヤトの瓜なのです。小さい頃からハヤトとずっと一緒だったんです」


あぁ、そう言えば隼人瓜ってあったっけ。
あまりのネーミングセンスに肩を落とすツナ。というかハヤトちゃんの言葉の意味は分からない。ペットというより友達・・・?名前から行く相棒に近いのだろうか。小さい頃から一緒といっているし。しかし結局、ツナの質問の答えにはなっていないが。
まぁそれはともかく、その相棒と思われる瓜は相変わらずハヤトちゃんの背中に乗ったまま動かず目を覚ましたハヤトちゃんを見つめてもう一度鳴いた。


「うぅ・・・瓜・・・」

ニャ?

「ハヤト・・・そろそろアルツアーレ(起きたい)です」

ニャー・・・・。

「瓜ーー」


縋るような視線を送るハヤトちゃんと困ったように鳴く瓜。瓜は暫く考え込むような動作をすると渋々という形でハヤトちゃんの背中から降りた。


「はぁ・・・アッファティカルス(疲れ)ました・・・・」


起き上がるハヤトちゃん。すると瓜は起き上がったハヤトちゃんに近づきピョンと腕によじ登る。


「わ!」

「ハヤトちゃん!?」


その途端にバランスを崩して倒れるハヤトちゃん。ツナは慌てて駆け寄るとその体を支えた。


「スクザーレ・・・たびたび申し訳ありません」

「ていうかもしかしてさっき倒れてた理由もコレ?」

「え・・・えぇ。来るときは匣の中で大人しくしてたのですが急にここまで着たら飛び出て背中に飛びついてきたんです」

「匣?」


また聞きなれない単語が現れ眉をひそめるツナ。一体、今日だけでなんで疑問を抱いたことか。
内心でぼやきながらもツナはハヤトちゃんが瓜を抱えながらも必死で差し出した薄汚れた箱を見つめた。


「昨日、イタリアのパパンが瓜がハヤトと離れてトゥリステ(寂し)がってるからって・・・この中に入れて送ってくれたんです」


ハヤトちゃんの小さな手では余る大きさの四角い箱。ハヤトちゃんが匣(ボックス)と呼ぶその箱は一面が開いておりハヤトちゃんは瓜がそこに入っていたのだという。


「これが、入ってたの?」


どう考えても瓜が入る大きさの箱ではない。が、ハヤトちゃんが落ち込みながら頷く様子は嘘をついているようには思えない。


「瓜ー・・・匣にもどりましょー」

ニャー!

「ブロンチョ(しかめっ面)しないで、瓜ー」

うにょん・・・・。

「う・・・そんな顔されると・・・」


最初は不機嫌そうに、次に眉をひそめ訴えかけるように。ハヤトちゃんの内心に囁きかけるような瓜の表情にツナは苦笑を禁じえない。
なんというか・・・やっぱりペットというより友達や相棒のような存在のようだ。最初は威嚇されたために可愛げが無いように見えた瓜だったが、こうして落ち着いてハヤトちゃんとのやり取りを見ているとなんだか和まずにはいられない。


「じゅ・・じゅーだいめ」

うにょん・・・。


ツナに支えられたまま見上げてくるハヤトちゃん。その腕の中で同様に見上げてくる瓜。
この二人の様子を見ていると次に出てくる言葉は大体想像つく。


「瓜・・・今日、いっしょでも良いですか?」


うるうると見つめる4つの瞳。コレに抗える人間がいるだろうか。いや、いない(反語)。


「・・・いいよ。ほら中に入ろう」


そう言って家の中へ案内するツナにパァっと表情を明るくするハヤトちゃん。その腕の中では瓜がしてやったりという顔でニャ!と短く鳴く。

もしかしたら・・・自分達はこの謎の生き物に良いようにされているのだろうか?

そう思いながらも結局はハヤトちゃんを悲しませたくないツナは気づかないふりをしながらこの日はハヤトちゃんと瓜と共に過ごすことになったのだった。