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俺は犬。
名前は隼人。
今から5年ぐらい前にご主人様に拾われた。
ご主人様の名前は、沢田綱吉。
ボンゴレというマフィアのファミリーを率いる十代目のボスだ。
俺はまだ幼いころに、まだ十代目になる前のこの人に命を助けられた。その日から俺の命はこの人のもの。俺の忠誠もこの人のもの。
俺は優しくって格好よくって偉大な十代目が大好きだ。
朝。俺は十代目の眠るベッドの下で目を覚ます。十代目はまだお休み中だ。
俺は許可なく十代目のベッドに乗ると怒られるので、ベッドの下で起きるまで座って待っていた。なんか俺がベッドに乗ると汚すからダメなんだそうだ。
俺としては十代目と一緒にいたいけど十代目を困らせたくないので言われるようにしている。
しばらくすると俺の気配に気がついたのか十代目のまぶたが動いた。ゴソゴソと布団の中で寝返りを打つと、下にいる俺と目が合う。
『おはようございます、十代目』
そんな言葉をこめて俺はワンと鳴いた。十代目も俺の言ってることがわかるのか「おはよう」と返してくれる。今日は笑顔も向けてくれた。機嫌がいいらしい。十代目は体を起こすと、ベッドからクローゼットの前まで歩いていった。そしていつものスーツに着替えると、食堂に向かう。あわてて俺もその後をついていく。
食堂に行くと、テーブルの上に十代目の食事が用意されていた。十代目は席に着くと、その料理を少しずつ分けながら足元に用意されている俺の餌皿に入れていく。こうして食事のたびに十代目は俺に自分の食事を分けてくださるんだ。
優しい優しい十代目。
前に十代目の部下の山本って奴が止めさせようとしていたが、俺が牙を立てて威嚇するとそれっきり黙ってしまった。犬に人間の食べ物を食べさえないほうがいいのは知ってる。でも十代目の優しいお心使いを無碍にするほうが俺としては良くない。
俺が頂いたお食事を食べ始めるのを見ると十代目は嬉しそうに自分の分の食事を取り始めた。
こんなに十代目が喜んでくださってるんだからそれで良いじゃないか。
食事が済むと十代目は俺をつれて仕事場に向かう。俺はいつもの場所からリードを咥えて持ってくる。
首輪にリードをつないで、準備を済ませると十代目と俺は外に出た。今日は曇っているのかちょっと寒い。けど仕事場までは来るまでの移動なので楽チンだ。
十代目は部下の運転する車に乗り込むと俺を足元に座らせる。本当は暴れる心配があるからケージに入れたほうが良いんだけど十代目は優しいから俺を外に出したままで車に乗せてくれる。俺も十代目のお心遣いが分かってるから、運転中はじっと座っておとなしくしている。
優しい優しい十代目。
俺がそんなことを考えていると車は仕事場に着いた。
十代目の仕事場は、ボンゴレ本部の一番奥にあるところだ。
一番奥の、一番大きくて、一番豪華なお部屋。
ここに入るたびに十代目の偉大さがわかって俺は誇らしくなる。
何よりこの部屋に着くまでの廊下にいる十代目の部下たちの畏怖と好奇の目。俺のご主人様はこんなにすごい方なのだ。俺は隣を歩きながら鼻が高かった。
十代目はいつものように机に座ると書類に目を通し時折サインをする。やはり偉くなると仕事がいっぱいあって大変らしい。十代目の到着と同時にたくさんの部下が出たり入ったり。書類が減ったり増えたり。終わることがない。俺は仕事の邪魔になるといけないので部屋の隅に行くとそこで丸くなって仕事がひと段落つくのを待った。すると入ってきた部下の一人が俺に気づいて側にやって来る。
「元気にしてた、隼人?」
男はそう言うと俺の頭をなでた。
男の名前は雲雀。ボンゴレの中でも幹部クラスの奴だ。
俺はこいつが十代目の役に立っていることを知っているので伸ばされた手に噛み付くこともなく、大人しくしてる。
雲雀は十代目の部屋にやってきては俺をよく構う。
『動物が好きなのか?』
ワンと吼えると、雲雀は眉をひそめた。十代目と違ってこいつは俺の言葉が分からないから困る。俺が呆れてそっぽを向くと、雲雀は黙って部屋を出て行った。
十代目は相変わらず仕事で忙しそうだ。俺もお手伝いしたいが犬ではそうも行かない。それを残念に思いながら大きく欠伸をする。どうやら雨が近いらしい。体がだるい。
俺は床に顔をつけるとそのまま目を閉じた。
誰かが近づく気配で目を覚ました。
あ、十代目だ。
どうやら仕事が一息ついたらしい。
十代目はリードを持ってくると俺を散歩に誘ってくれた。俺は大喜びで、十代目に擦り寄る。そして首輪にリードをつないでもらうと十代目と一緒に外に出た。
外は雨だった。
十代目は片手に傘を、片手に俺のリードを持ちながらアジトの中にある庭園を歩き始める。地面はコンクリートで舗装されていたがやはり雨だと水溜りやらなんやらで歩きにくい。でもこんな天気でも俺を散歩に連れ出してくれるのだから十代目はお優しい。
優しい優しい十代目。
俺と十代目はいつもの散歩コースをぐるりと回ると雨がひどくなる前に中に入った。中に入ると玄関で待っていた十代目の部下の山本が俺の体をタオルで拭いてくれる。建物の中を汚すと悪いからな。俺は体を震わすと毛についた水気を飛ばした。十代目も傘をたたむと、山本に投げわたされたタオルで顔を拭く。
「こんな日に外に出るなんて何を考えてるんだ」
山本が十代目を攻めるように言う。俺はそれが腹に立って拭かれていたタオルを剥ぎ取って山本に向かって爪を立てながら威嚇した。低く唸ると、山本はそれ以上何も言わず去っていく。
ふん、十代目に意見するなんて百年早いんだよ。
俺は大きく背中に向かって吼えると十代目の側に駆け寄った。
俺は散歩を追え十代目と仕事場に戻ると、机の上にあった書類はほとんどなくなっていた。山のようにあったのに今は数枚しかない。俺が驚いて部屋の中を見渡すと机の前に黒スーツの少年が立っていた。
この少年の名前はリボーンさん。
十代目が最も信頼する殺し屋だ。
俺も彼の仕事ぶりは尊敬している。
リボーンさんは十代目と俺が帰ってきたのに気づくと、手に持っていた書類を机の上に置いた。
「ほとんど終わらせといたから今日はとっとと帰れ」
どうやらこのリボーンさんが散歩の間にここにあった書類を済ませておいてくれたらしい。しかも忙しい十代目を思ってのこの言葉。俺は嬉しくってリボーンさんに駆け寄り擦り寄った。
あれ・・・でもなんかリボーンさんの顔が歪んでいる。
そうか、俺は散歩から帰ってきたばかりだから体が濡れてたんだ。
リボーンさんのスーツを濡らしてしまった事に落ち込んでいると、リボーンさんは俺の顔を見ないまま頭を撫でてくれた。
気にするなということだろう。リボーンさんは懐がでかい。
リボーンさんは俺から離れると机に座り、再び書類にサインをし始める。
十代目はその様子を見てお礼を言うと俺を連れていつもよりの早目の帰路に着いた。
今日は暗くなる前に帰ってこれた。
家に着くと十代目と簡単な食事を取る。
今夜は子羊のソテーと野菜のスープ。テーブルには十代目の好きなワインも用意されている。前菜から細かく分けながら十代目は今夜も俺に食事を分けてくれた。餌皿には十代目がこっそり入れたワインも入っていて今夜の餌はちょっぴり豪華だ。
十代目は食事を終えると、シャワーを浴びてベッドに入った。しばらくは体を起こして本を読んでいたけれど、俺がジーっと眺めているとベッドの上に誘って一緒に遊んでくれる。
優しい優しい十代目。
俺は深夜まで遊んでもらうと疲れ果ててベッドの下で眠りについた。
今夜は何故だか体がゾクゾクする。やはり雨の中に散歩に出たのがいけなかったのだろうか。俺は良いけど十代目に風邪を引かせては大変だ。今度から雨の日の散歩は少し遠慮することにしよう。
そんなことを考えながら俺はウトウト夢の世界に入っていく。
今日も十代目はとても優しくって偉大で格好よかった。
今日も明日もこれからも俺はこのご主人様が大好きだ。
犬な獄の一日。イメージはシェリティーとかコリーとか。
でも話を深読みすると・・・。 |
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