朝起きて最初に見たもの。真っ赤な苺と前髪から流れ落ちる白いクリーム。
朝起きて最初に聞いたこと。「恭ちゃんの馬鹿!」という可愛い人の可愛くない発言。
ベッドで眠っていた僕に投げつけられたショートケーキ。
最初に断っておくけれど僕は甘いものが得意じゃない。どちらかというと甘いものが好きなのはこのケーキを投げつけてきた張本人・・・獄寺隼人。だからこれは嫌がらせ、だと思う。寝起きに顔面に投げつけられたショートケーキ。いったい、何のコントだと言うのだろう。
(はっきり言ってケーキを投げつけられてくるなんてテレビか漫画の中の話だと思っていたよ・・・)
しみじみとそんな事を考えながらべったりと生クリームで汚れた顔をシーツでふき取る。どうせこのシーツも飛び散ったスポンジやら生クリームやらで酷い状態なのは分かっているのだ。洗濯するのならさらに汚してもいいだろう。
あぁ、でも考えてみればこのシーツは洗濯するのは僕だ。今日は朝から両親が用事でいないと前もって知らされていた。だから今夜愛用の布団とシーツで眠りたいのなら自分の手で始末をつけるしかない。
(けど考えてみれば汚した本人がやるのが筋なんだろうけどね)
といって素直にやる君じゃないのは分かっている。というかケーキを投げつけられた僕が何か言う前に隼人は僕の部屋から飛び出した後だし。さらに付け足せば勢いよく閉まった玄関のドアの音が先ほど耳に入ってきたし。もうすでに家にいない君に後始末を任せるのは無理だろう。
はぁ・・・と一人溜め息をつくと諦めて掛け布団を抱える。シーツを剥がして洗濯機の中へ。布団本体はベランダから干して、ベッドは枠だけでも拭いておこう。てきぱきと一人考えながら行動に移す。無駄のない動きと作業は苦手じゃない。
そうして一通りを終わらせべたつく髪を洗うため風呂場に向かったのは14時半過ぎ。起きたのが14時前だったから時間的にはそれほどかかってないと自画自賛をしながら熱めのシャワーをあびる。
まったく・・・折角の休日になぜこんな目覚め方をしなければならないのだろう。昨日は翌日が休みだからとほぼ徹夜で風紀委員の仕事をやっていただけに寝起きに悪さに少しイライラする。けれど怒りが“少し”なのはきっと相手があの子だからだろう。
可愛い可愛い僕のあの子。素直じゃないし乱暴だし不器用だけど・・・根は悪い子じゃない。だからきっと今回の件だって原因があるはずだ。多分・・・きっと・・・絶対。自信はないけれど・・・。
それでも僕は鍵を集め始める。あの子の怒りの原因となるはずの鍵を。そして最初に見つけたカケラ。それは僕の机の上に置かれていた可愛い包み紙だった。
「たんじょうびおめでとう」とシールの張られた包み紙と、中から出てきた手作りと思わしきぬいぐるみ。犬・・・猫・・・馬・・・カエル?相変わらずあの子のセンスには脱帽する。というか本気で何、この生き物。青だかピンクだか緑だかよく分からない配色のせいで余計把握しきれない。でもそれよりも何よりも一つ突っ込ませて欲しい。
「僕の誕生日・・・だいぶ前に過ぎてるんだけど」
僕の誕生日である子供の日は随分昔に終わっている。しかも当日は僕の両親と一緒に隼人も食事にいって祝ったばっかりだ。だから今ここにこのプレゼントがおいてあるのはおかしい。わたすなら当日にわたすだろう。隼人は僕の誕生日に予定されていた食事会を数ヶ月前から知っていたし、いくら不器用な隼人でもこのぬいぐるみを一ヶ月以上かけて作るとは思えない。
それに・・・本人には隠してたけど僕は自分の誕生日の一週間前からこの包みが隼人の部屋にあったのを見ているのだ。その時点でプレゼントはあったのだから今ここでこれを出すのはおかしいだろう。僕宛のプレゼントと判明したならなおさらだ。
「いったい・・・何を考えているの」
数日遅れの誕生日プレゼントとにらめっこをしながら僕は頭を抱える。相変わらずあの子の考えていることはわからない。
と、そんな事を考えていると僕の携帯から並盛の校歌が流れた。相手は・・・・。
「沢田綱吉?」
意外な相手に僕は困惑しながら電話を取る。
「もしもし」
『あー雲雀さんですか?おはようございます』
「・・・・・・・もうお昼過ぎてるんだけど」
『知ってますよ。けど俺、雲雀さんが寝起きなのも知ってますから』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・切っていい?」
『あははは・・・まぁ怒らないでくださいよ。雲雀さんに悪いこと伝えるために電話してるんじゃないですから』
「でも、君の口からいい事が聞ける雰囲気でもないんだけど」
『あー・・・俺が怒ってるの電話口でもわかります?押さえてるつもりだったんだけどなぁ」
「電話越しでも殺気を感じるくらいだよ」
『んー、確かに間違ってないですね、それ。俺、今本気で貴方を殺したい気分ですから』
随分と物騒な事を言う男だ。けど電話越しとはいえ彼の本気は伝わってくる。
今日は本当にどういう日なのだろう。隼人には寝起きから嫌がらせをされ、電話で脅されるんだから。きっと厄日とはこんな事を言うのだろう。そう思っていたとき・・・電話越しに聞き覚えのある声が耳に入った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もしかして、隼人そこにいるの」
『相変わらず人間離れしてますね・・・雲雀さん』
「・・・・・・・その言葉は肯定と受け取るよ。なんで隼人そこにいるの」
『獄寺君が俺のところに来たから、ですね。嘘ついてませんよ、一応』
「で、今何処にいるの」
『・・・・・・・・・・教えたくないけど獄寺君のために今回は教えてあげます。並盛駅の南口に新しいケーキ屋さんが出来たの知ってますよね?そこの奥の席です』
あぁ、あの店なら覚えてる。隼人がいつか行こうとはしゃいでいたお店だ。
『こんなこと・・・今回だけですよ。次はないと思ってくださいね』
「貸しにしといてあげるよ」
『わぁ〜・・・言うなぁ・・・』
苦笑気味に言いながらそこで沢田が最後に一言伝えてくる。
『雲雀さん鈍いようなのでヒントをあげますね。俺の誕生日のとき獄寺君みんなの前で一番にプレゼントをくれたんですよ。俺の事を尊敬してるからみんなと祝ってあげたかったって言ってましたよ。・・・・雲雀さん相手ならどうしたかったんですかね、獄寺君』
もう答えをいってるようなものなのだから、あとは自分で考えてください。沢田はそう言うと断りもなく電話を切った。ツーツーと終了を伝える音を聞きながら僕は沢田の言葉を脳内で繰り返す。
雲雀さん相手なら・・・どうしたかったんでしょうかね、獄寺君。
僕ならきっと隼人の誕生日は二人っきりで祝ってあげたい。けど僕の誕生日は朝から両親と一緒で隼人と二人っきりになる時間はなかった。その後も学校やら委員会やらでゆっくりできる日はなかったし、家にはいつも僕の家族がいたし・・・。
あぁ、そうだ。子供の日から見て今日は隼人と朝から二人だけで過ごせた初めての日だったんだ。親もいないし、学校も休みだし、僕がお昼まで寝なければあの子と二人っきりでゆっくり過ごせた日。
僕にケーキを投げつけてきた時の彼女の姿を思い出して僕は自分の失態に気づく。彼女が普段は絶対着ないワンピースに嫌いだからといつもならしない化粧。涙でほとんど消えかけていたけど、あれが本当の最初の鍵だったんだ。
僕は慌てて飛び出す。右手にはバイクの鍵。目指すは彼女の待つケーキ屋。
ごめんね、まってて。迎えに行くから。
遅いけれど今から始めよう。僕の遅い・・・誕生日を。
かなり遅い雲雀さんのハピバ小説。多分、世界で一番遅い誕生日記念小説ではないかと自負してます(自慢にならない)
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