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俺の世界はこの部屋だけ。
誰も入らず、誰にも邪魔をされない俺だけの世界。
俺はこの世界の王様。小さな世界の支配者。臣下は誰もいないけれど俺はたった一人で幸せだった。光の届かない領土。石の壁と鉄の檻で守られたお城。何も無いから何でもある、そんな世界で俺は幸せ。
なのに外の世界の神様は言う。君ほど不幸な人は見たこと無い、と。
先日、俺はとうとう16の誕生日を迎えた。
「おめでとう隼人」
白蘭はそう言いながら俺にプレゼントをよこす。綺麗な紙で包まれた髪飾り。こんなもの無意味なのに。本当に俺が望んでいるものを知っているくせに白蘭はそれを毎年別のもので誤魔化すのだ。
「・・・・・・・・・・・おめでたくないよ」
皮肉交じりにそういうが白蘭は困ったような笑みを浮かべるだけ。だから俺は毎年同じ言葉を繰り返す。
「白蘭、何時になったら俺を殺してくれるんだ」
「そのうち・・・かな」
これも毎年のやり取り。
「いつもそればっかりだ」
俺は溜め息混じりにそういうと目を伏せた。もう何度目か分からない問答。掌に載せた髪飾りも毎年もらっているプレゼントも俺は心を動かされることは無い。いつか風化して俺の手を離れていくもの。そんなものより俺が望んでるのは・・・。
「早く、白蘭の手で殺してほしいな・・・」
始めて白蘭からもらった約束という名のプレゼント。それを思い出し俺はうっとりと笑みを作った。
俺を殺せる唯一の存在。それからわたされる甘美なる“死”。白蘭が生まれる前から待ち望んでいたそのプレゼントを俺はまだかまだかと待ち望んでいる。いや、俺だけじゃない。外の世界の人たちはみんな望んでいるのだ。
「けど、隼人が死んだら僕は悲しいな・・・」
そう呟く白蘭以外は。
何が悲しいのだろう。何が嫌なのだろう。俺には白蘭の気持ちが理解できない。
「白蘭は変なこと言うんだな」
俺がそう言うと白蘭は悲しげに目を伏せて俺に手を伸ばした。俺が歳を取るのと共に成長した大きな白蘭の掌は昔のように檻の中に入って凝れない。だから指先で俺の頬に触れる。
久しぶりに感じる暖かな手の感触。俺は頬を摺り寄せると無意識に言葉を零した。
「この手が俺を殺してくれるんだな」
笑う俺に今にも泣き出しそうな白蘭。
なんでそんな顔をするんだ?俺はお前に喜んで欲しいのに。俺が外の世界の人間にできるプレゼント。それが俺の死なのだから。
早く早くずっとまってる。
この外の世界から開放されるその日を。
冷たい壁も、小さな城を全て壊して俺という命が解放される日を。
だから俺は何度でも外の神様に言うだろう。俺は不幸じゃないと。
白蘭と獄は見事にすれ違いw |
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