彼ら曰く

『白は祝福の子の証』
『銀は災いの子の証』

ということらしい。

ささやかでほんの僅かな色の違いは僕と彼女の人生を大きく分けた。

白い髪で生まれたから神様の生まれ変わりとして育てられた僕と、銀の髪で生まれたから悪魔の化身として囚われた君。幼い頃から何不自由なく大切に育てられた僕と、生まれてから一度も外の世界に出ることを許されなかった不自由な君。
対照的な人生。極端な分かれ道。ただ色が違うというだけなのに。
何世紀もわたって栄えてきた巨大な国家にしては笑えるくらいに滑稽な迷信は僕達を引き裂き、そして引き合わせるのには充分すぎるほど大きな力だった。



銀の髪の娘は隼人と言った。初めて僕が彼女と会ったのはまだ僕が4つで彼女が9つの頃。僕より数年早く生まれてきたわりに、僕と変わらないくらいの体躯の彼女は恐ろしいほど青白い肌と見たことの無い綺麗な緑色の瞳を持った可愛らしい女の子だった。

「白蘭様、これが例の邪神です」

そういって僕を地下牢に連れてきた神官は極力隼人を見ないようにしながら僕にそう説明する。

話してはいけない。その声を聞けば言霊に縛り付けられるから。
見てはいけない。瞳に写せば魔性に取り付かれるから。
触れてはいけない。触れば厄をうつされるから。

邪神について勉強したときに大人達は僕にそう教えた。
災いの元凶は認めてはいけない。けれど殺すことも出来ない。下手に殺せば邪神の血が大地に染み込み国を侵すであろう、という聖書の一文をこの国の大人達は信じてる。だから隼人は生まれて直ぐにこの地下牢に囚われた。

(あぁ、くだらないなぁ)

つまらない本に書かれた文章に動かされ怯えている大人達を見て幼い僕は心の中であざ笑う。自分より力もあるくせにこんなに小さな少女に怯え、僕らより長く生きているくせにくだらない事を信じてる。

くだらないなぁ。馬鹿みたいだな。

知らぬうちに口元に浮かぶ笑み。それを見ていたのか冷やりとした地下室に少女の声が響いた。

「お前が・・・神の御子か?」

鈴のなるような声。俺の背後に立っていた神官はその声に驚き耳をあわてて紡ぐ。あぁ本当に馬鹿みたい。こんなに綺麗なものを自分から排除しようとするなんて。

「そうだよ、隼人」

僕はそう言ってにっこり隼人に微笑みかけた。
そうすると今度は隼人が驚きじっと俺を見つめる。綺麗な緑色の瞳。幼い僕でも理解できる美しい造詣の顔。神官は焦りながらも僕の名前を呼んで引き離そうとしたが僕はそれに答えず牢の檻越しに手を伸ばして隼人の頬に触れた。

「僕が君と対をなす人間。僕が君の災いを終わらせられる唯一の存在。僕が君の全てだ」

「・・・・・・」

じっと僕を見つめて耳を傾ける隼人。不思議そうな悲しそうな懐かしそうな・・・そして嬉しそうな顔を浮かべて伸ばされた僕の掌に自分の手を重ねた。

「あったかい」

此処に閉じ込められてから彼女は誰とも触れ合った事がないと言う。
物心ついたときから彼女と言葉を交わした人間は僅かだと言う。
そしてこうして自分を見つめ、微笑んでくれた人間は生まれて初めてなのだという。

彼女はそう言うと涙を流して僕の小さな掌を握り締めた。

「お前に殺されるなら・・・後悔は無いよ」

ポツリと呟いた言葉。

聖書の一文、邪神は聖なる神によって焼かれ灰に帰される。災いを呼ぶ存在は神の御子のみが殺す事が出来る。それをこの国と隼人は信じてる。


くだらない、くだらない、くだらない。
あぁ、なんてくだらない。


僕に彼女を殺せと言うのか、この国は。
幼い自分に定められた運命と、呪われた身の上を受け入れている隼人。馬鹿馬鹿しいにも程がある、のにこの国の力は大きくてこの時の僕はまだ幼すぎた。

神官は僕の手を強引に引っ張ると「悪魔め」と憎々しく叫んで地上への階段を駆け上っていく。聖水、と呼ばれる水で流され神官達の読み上げる聖書で『清められて』いく僕。けど僕は思った。悪魔とはお前たちのことじゃないか、と。

あんなに清らかで可愛い隼人を閉じ込め罵倒するなんて信じられない。
あんなに美しくって純粋な隼人を愚弄し排除しようとするなんて狂ってる。

この国もこの大人たちも宗教も、みんなみんな可笑しいじゃないか。

君を受け入れない世界なら僕はいらない。君を認めない世界なんてなくなってしまえば良い。君の居場所がない世界なんて壊れてしまえ。


僕が神の御子だと言うのなら、どうか神よ、僕に彼女を救う力をください。


隼人・・・君の居場所は僕が作ってあげる。クスクスと笑みを浮かべる僕にいぶかしげな大人達。そうさ君たちだって僕が殺してあげる。これが君達の信じる神の意思なんだよ。聖なる裁きなんだよ。


(邪神が災いを起こすんじゃなくって、邪神から災いが生まれるんだね)


でも君のための聖戦を起こすには僕も君も幼すぎる。だから待ってて僕の神よ。僕が信じるのは見えない神様でも、神の言葉を記した聖書でも、生まれ変わりと言われる僕自身でもない。君にとって僕が全てになったように、隼人・・・君だけが僕の全てなんだ。





一目惚れってあるんだよ。



君が外に出たなら最初にそう伝えよう。
その時世界が君にとって優しいものになっていますように・・・。


白蘭のキャラがまだ今ひとつ分からないのでパラレルに逃げました。出番増えて早く使う武器くらい判明して欲しいですw