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この世界に神様なんていない。
それは僕の知る世界の真実。
でもそれを言えば殴られるから僕は言わない。
これは僕が生きるための嘘。
けど信じるものにとって神は実在する。
あれは僕にとっての・・・・。
空は晴天。広場では少年達の無邪気に遊ぶ声。平和な日常の一幕。
僕はその日、同年齢の少年達が球技で楽しむ中一人離れて木陰で本を読んでいた。教師や同級生達からは不健康だ本の虫だと馬鹿にされているが僕はそれでもかまわない。広場でボールを追いかけ回すより僕は白い紙の上の字を追いかけるほうが性に合っている。
「正チャンは勉強熱心だね」
そんな僕にからかう様な声。また馬鹿なガキ大将が僕を苛めに来たのだろうか。本を読んでばかりで人付き合いをしない僕はたまにこうして絡まれる事がある。どうでもいい理由をつけては多人数で一人を痛めつける愚か者達。
(だから僕は余計に人が嫌いになるし友達を作る気になれないんだよ)
心の中で毒づいて、やれやれと半分あきれ気味に本から顔を上げればそこにはフードで顔を隠した少年が一人。こんな奴、学校にいただろうか?顔は深くまで被ったフードで見えないが声はどこかで聞いた事がある感じがする。・・・ただそれを何処で聞いたか思い出せないけど。
「貴方は・・・誰ですか?」
貴方は僕を知っているんでしょうね。名前を・・・不本意とはいえあだ名で呼ぶくらいだし。けど僕は貴方を知らない。顔を隠した自分と多分変わらないくらいであろう年頃の少年。クスクスと笑うばかりで自分の素性を語ろうとしない彼に苛立ちを覚えた僕はさっきより強い口調でもう一度尋ねた。
「聞こえなかったんならもう一度聞きます。貴方は誰ですか?」
これで答えてくれないのなら無視してこの場を去ろう。そう心に誓って彼を睨みつけるが相手の口から出た言葉は人を馬鹿にしてるとしか思えない言葉。
「神様」
たった一言。しかし数秒後に僕は知る。彼のこの言葉が嘘じゃない事を。
強く吹いた風。捲れるフードから覗いた真っ白な髪。
「僕は君の友達になりに来たんだ」
にっこりと微笑む彼に唖然としながら僕は読んでいた本を落とした。そりゃあ聞いた事があるはずだ。僕は生まれてから何千何百と彼の“声”を聞いている。
『白は祝福のこの証』
こんな僕だって知っている言葉。
足元でパラパラと落とした本のページが捲れ表紙が閉じられた。何度も親に捨てられたためにボロボロになった表紙のに書かれた文字は【この世界に神はいない】。宗教国家の中では禁書とされた哲学書。見つかれば反逆者として打ち首にされてもおかしくない。
僕は表紙を隠すように慌てて拾い上げる。次の瞬間踏みつけられた僕の本。
「やっぱり僕が思っていた通りの人材だったね」
その時の僕は無意識に彼に跪くような姿勢になっていた。
この宗教国家の中で最高権力を持つ“白蘭”様。そしてそんな国家の中で無神論を抱く僕。これが僕と白蘭様の長い付き合いの始まりだった。 |
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