そして六道骸が人しれず獄寺隼人を見守ること数年。
彼と彼の仲間が隼人に気付かれないようにしながら守り続けること数年。


彼女が12歳の春を迎えたとき、彼らと彼女の関係が急展開を迎えることになる。


今までボンゴレ十代目の右腕としてイタリアにいた彼女が、何の心境の変化なのか前触れも無く東にある島国へと旅立ってしまったのだ。そこは元々彼女の故郷と聞くし、ボンゴレ十代目ともつながりのある国だという。
けど本当に突然だった。本当の本当に突然だった。
六道骸の中では獄寺隼人を見守り、彼女に気付かれないように彼女を助けるのが当たり前だった。ここ数年でそれが日課であり仕事であり生きがいになっていた。そしてこれからも続くものと信じていた。


「隼人・・・・」


はぁ、とまた溜め息をはく上司に犬と千種は呆れ果てる。もうその数を数えるのも馬鹿らしくなってしまった。そもそも溜め息の数だけではない。彼女がイタリアを去って骸の口から彼女の名前が出ない日は無かった。
耳にタコ。まるで呪いや呪詛のように何度も何度も同じ事を繰り返し、隼人を見守るときの癖で木の枝の中で身を隠すのが日常になってしまった彼からはかつての凄腕暗殺者の影は無い。そして彼に付き合って同じように木の中に身を隠す自分達も滑稽だ。


「なんだか、この場所と仕事になじんじゃったぴょん」
「・・・・慣れって怖いよね・・・・」


三つ子の魂百までという年齢ではなかったが、知らぬうちに骨身に染み付いてしまっている。いない彼女を見守る日々。きっと他の仲間も自分達と同じようにどこかで隠れながら待っているのだろう。ここにいない彼女を。

・・・・でも、そうまとめてみれば感動的だが実際は間抜けである。


「じゅうらいめもいないから新しい仕事もないしなー」
「仕事・・・めんどくさい・・・」
「けど退屈だぴょン」


犬はそういいながら上の枝に座っている骸を見上げる。


「こんな骸さんを見てるのも飽きたし」


また溜め息をついている。彼女の名前を呼びながら。


「そんなに気になるなら、日本とかいう国に追いかけていけばいいのに」
「けど・・・ほら・・・・」


イタリアを去る前に十代目が骸に言い渡したのは現場待機。イタリアに残れという、最後の命令。そして骸がそれに従う限り、部下である犬達は動けない。


「・・・・暇だぴょン・・・・」
「・・・・だね・・・・・」


上からはまた、彼女の名前を呼ぶ骸の声が聞こえた気がしたのは気のせいじゃないだろう。


「柿ピー・・・」
「ん?」
「なにかいい方法はない?」


現状打破するような。


「なくは・・・ない」
「マジで!」


犬は千種の言葉に喜ぶと、隣の枝に飛び移った。そして犬のようにじゃれ付きながら彼の案に耳を傾ける。


「で、なになに!?」
「骸様を日本に行くように差し向ければいい」
「・・・・それはそうだけど、何かいい案があるぴょン?」
「それを・・・今から実行する」


面倒くさそうに立ち上がると千種は音も無く骸の元に近づく。そしてニ、三と彼と話をすると骸の目が突如として大きく開いた。


「日本に行きますよ!」


今までの欝な態度が嘘のように宣言する骸。犬は突然の変化に帰ってきた千種に尋ねる。


「何を・・・言ったんだ?」
「今日本は大飢饉で災害が多発していて獄寺隼人は食うものにも住むところにも困っている危機的状況です、って」
「言ったの?」
「・・・・・うん」


それを聞いて燃え上がる骸の様子に犬は納得する。


「隼人の身が心配です!千種!犬、他のメンバーにも伝えなさい!日本に行きますよ!!」


そう叫ぶ骸さんはかつての彼を髣髴とさせるものであった。仕事に全てをかけ、全身全霊で過ごしていたあの日々・・・!骸の言葉を聞いたほかの仲間達も色めき立つ。かつての上司の姿に感動を覚えながら。


「でも・・・日本の危機を聞いて十代目を心配しないあたりが骸ちゃんらしいわよね」


呆れながら呟く少女の声に一同は暗黙のまま頷いた。

そして彼らは旅立ちの準備を始める。東の島国を目指して。
きっと明日の今頃は自分達は日本の何処かの木の上にいるのだろう。そう思うとなんとなく笑えてくる犬であった。