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それは雲雀の家にたわわが実る数日前の話。
ここはイタリアにあるボンゴレ本部・・・の庭。その庭の一角で黒髪の少年は切なそうに溜め息をついていた。
その溜め息は春風のためらい、青さゆえの憂鬱。美しい少年の溜め息をつく図というのは絵にもなるし、そんなタイトルだって似合う。
けれどそんな絵になる光景は誰の眼にも止まることもなければ胸を打つことは無かった。
彼がいるのは庭の一角といえど高くそびえ立つ樹木の枝の中。
青々と茂る葉と、無数にも伸びる枝によって隠された彼の素顔を誰も拝むことなどは出来なかったのだ。ただ二人を除いては。
「あーまた骸さんが溜め息ついてる」
「これで・・・214回目・・・」
「なになに、柿ピー数えてたの?」
「犬・・・邪魔しないで・・・数間違える・・・」
柿ピーと呼ばれる少年。犬と呼ばれる少年。
二人の少年の声は骸と呼ばれた少年の足元から聞こえるがその姿は見えない。声のみ、彼らの姿も葉に隠されて拝むことは出来ないのだ。
けれどそんな事を気にせず骸は215回目をなる溜め息をつく。
庭の横を通るボンゴレの構成員でさえ気づかない彼らのやり取り。
彼らは別にボンゴレの敵でもなければ、他のファミリーのスパイでもない。れっきとしたボンゴレの一員である。
ではなぜ彼らが息を殺すように身を潜めているのか。それは彼らの立場ゆえとしか説明が出来ない。
古来の日本でゆうなら隠密。表では出来ない裏の仕事。
彼ら3人は裏社会であるボンゴレの中でもさら闇に足を踏み込んだ立場なのだ。仲間といえど素顔をさらせば命取りになる。正体を知られればそれは死に直結する。
骨の髄まで知らされるように育てられた彼らは待機中とはいえこうして身を隠し、日々『仕事』に備え続けている。
すべては現在のボスであるボンゴレ十代目のために・・・!
けれどそんなボスは現在アジトに不在である。正確にはこの国、イタリアに不在である。
どうしてそんなありえない事態になっているのか。その理由を知らない彼らではない。むしろ、その理由こそが骸の216回目の溜め息にも繋がっているのだから。
「はぁ・・・隼人は元気でしょうか・・・」
口から漏れたのは彼らのボスの名前ではなく、先日ボンゴレを抜けた構成員の一人の名前だった。
けれどそれを聞いても他の二人の少年は驚きもしない。むしろ茂みの向こうで『あぁ、また話が始まるのか』とうんざりとするだけだった。
彼ら3人と、獄寺隼人。
それを語るにはさらに数年前にまでさかのぼる必要があった。
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