けど隣人がマフィアということを信じたとして、幼馴染がマフィアの工作員だったことも信用しても一つ疑問が残る。


「なんでそのイタリアのマフィアが僕の家の隣に引っ越してきたの?」
「あーーーそうですよ、十代目!なんで日本にいるんですか!!」


隼人、ツッコミが遅い。再会を喜ぶ前に言っておこうよそれは。


「え、そりゃあ獄寺くんを追って来たに決まってるだろ。あんな置手紙一つでマフィアを辞めるなんて俺が認めるわけないじゃないか」


苦笑気味に差し出された手紙が一枚。そこに書かれていたのは僕にも読める言葉で一文だけだった。

『一身上の都合により、辞めさせていただきます。』

わぉ。どこの退職願だい、これは・・・。


「え、辞められないんですか」


本気でショックを受けている隼人。本気でコレでマフィアだったのだろうか。ちょっと僕の中で『やっぱりイタリアンジョーク?』って声が上がり始めていた。
それに比べて沢田と名乗る少年は慣れているのか、隼人の退職願を懐にしまうと隼人の手を取り諭し始める。


「えっとね、血の掟とかあるくらいマフィアの世界は厳しいものなんだよ。そう簡単に辞められるわけないでしょ」
「うぅ・・・そうだったんですか・・・」
「そういうもんなんだよ」


本気で分かってなかったようだ。隼人の意気消沈ぶりは見ていて哀れだった。


「だから獄寺くんはまだ俺の部下なの」
「はい、それは分かりました・・・」
「じゃあ一緒にイタリアに帰ろう」
「それは嫌です」


その言い方に沢田も僕も驚いた。
隼人は顔を上げるとはっきりと言い放ったのだ。


「俺はイタリアには帰りません。日本に残ります」


しっかりと沢田の目を見つめて隼人は言い放つ。


「命令でも?」
「命令でも、です」


十代目には申し訳ないですが・・・と付け足すと隼人は道路に膝を着いて頭を下げた。


「すみません!俺、日本にいたいんです」


後半は涙声。深々と頭を下げる光景に僕は舌打ちすると隼人の腕をつかんで無理やり立たせた。


「悪いけど隼人はイタリアには行かせないよ。君を殺してでも僕が引き止める」
「物騒なこと言うね。君に俺が殺せるの」
「やるよ、隼人のためならね」


そういうと僕は涙をこらえている隼人を胸に抱く。こうしてみると涙もろいところなんか昔と変わらないなと感じた。