イタリアから帰ってきた彼女は盛大に僕に言った。


「俺はイタリアでマフィアをやっていたんだぜ」


なんでもかんでもそれこそ【強くなる】の名目でマフィアになったらしい。なんでこう彼女は僕の想像の斜め上を行く思考で行動するのか。そもそもなんでマフィアなんだと聞いたら


「強くて格好よさそうだし、駅前でスカウトされたから」


らしい。


駅前でスカウト。
というか黒塗りの車に乗った人から声をかけられてそのままデビュー。
一昔前のアイドルのような話だが語る彼女は本気だった。

っていうかありえないよ。マフィアだって?それこそ映画の中の話だろ。

これも一瞬のアメリカンジョーク、いやイタリアンジョークか。
僕はそう考えていた。まだ僕にも常識が残っていたからね。


「そうなの。それは凄いね」


まるで子供のたわごとに付き合う大人の気分で
そう答えていた僕が今となっては懐かしかった。





その日の夜に彼女の歓迎会をやり、翌日には中学校までの道のりと説明をしながら歩いているとなぜか町には黒服の屈強な男たちがあふれていた。
しかも国籍も年齢もバラバラ。
チンピラとは違う風格に僕は警戒しながら隼人と家に帰ったのだが、その男たちの集団は僕の後ろの家からあふれているものだと知ったときなんともいえない脱力感と共に僕はあきれ返った。

だって・・・昨日まで空き地だったはずだよ僕の家の裏は。
少なからず骨組みすらなかった気がする。
それなのにいって帰ってきたら豪邸が出来上がっていた。
しかもその家のせいできもち僕の家は日当たりの悪い形となっている。

とりあえずそんな家を飲みこまんがばかりの豪邸からあふれ出す黒服の人、人、人。いったい僕の近所はどうなっちゃったんだろうね。めまいを覚えそうな頭を振り払おうとしたそのとき、僕の隣に立っていた隼人は嬉しそうに豪邸から出てきた一人の人物に手を振った。


「あー!十代目」


わりと普段は感情に振り回されない僕なんだけど、たった数日でここまで乱しきってくれる彼女はある種の才能なんだと、このとき僕は思ったね。

流石だよ、隼人・・・。