むかしむかしのお話です。
あるところに悪いドラゴンにより
高い塔へと幽閉されている美しいお姫様がおりました。
偶然通りかかった旅の王子様は塔の上のお姫様を見て一目ぼれ。
お姫様も凛々しい王子様の姿に心を奪われます。

『一人ぼっちでとらわれている君。どうか希望を捨てないで。
 僕が旅を終えて今よりずっと強くなったら必ず君を助けに来よう』

だから君も強い心で待っていて。
そういうと王子様は再び旅立ちました。
それから数日たち数ヶ月経ち数年たちました。
王子様はまだ現れません。
お姫様は待ち続けました。ずっとずっと。
ただ王子様にもう一度会える日だけを夢見て。







『キョウちゃーん・・・まってよぉ・・・』


僕の後ろを小さな影がついてくる。銀の髪にくりくりとした緑の瞳の可愛らしい女の子。彼女はとてとてと走りながら必死で僕の背中を追っかけた。


『キョウちゃん・・・キョウちゃん・・・』


拙い舌で必死に僕の名前を呼ぶ。
待って、いかないで。と付け足しながら。

僕が立ち止まる。
後ろの彼女はビックリして止まる。


『隼人?来ないの』


僕が振り返ると彼女は安心して笑顔で走りよってきた。


『キョウちゃん!』


隣に立つと手をぎゅっと握り締める。僕より一回り小さな手。
僕が握り返すと彼女は照れくさそうに笑いながら一言こう呟いた。


『・・・・だいすき』


それはまさに天使というに恥じない笑顔。
頬を真っ赤に染め、僕を見上げてくる。


可愛い隼人。天使のような隼人。僕は彼女の笑顔を見ながらずっとのこの笑顔を守っていこうと幼い心に決めた。



けど今、僕の隣には彼女がいない。
今から5年前、母子家庭だった彼女の母親が病で死んだとき彼女は異国の父の元へと旅立ったのだ。それこそ童謡の赤い靴の女の子のように異人さんに連れて行かれた彼女。

空港で泣きじゃくる彼女に僕は小さな約束をした。


「君を守れるように僕は強くなるから、
 だから君も一人でも負けないように強くなって」


そしてお互いに約束が果たせたら、迎えに行くから。

指きりを交わすと、涙をこらえて微笑んでくれた彼女。
そして彼女が乗った飛行機が見えなくなったとき、僕は始めて・・・泣いた。