体のいたる所に巻かれた包帯。
傷だらけの体。
その傷の一つ一つを丁寧に消毒しながら新しい包帯を巻いていくのは、真新しい包帯と同じように真っ白な髪と肌を持った男だった。

白蘭。俺達ボンゴレの敵。いや、元敵、だったと言うのが正しいのだろうか。白蘭の敵だったボンゴレはもう無いのだから。
信じたくは無いがボンゴレは白蘭の指揮するミルフィオーレに数ヶ月前に壊滅させられた。ドン・ボンゴレである十代目はミルフィオーレがボンゴレ狩りを始めて直ぐに射殺された。構成員達は皆殺し。最後まで抵抗した守護者とヴァリアーは見せしめのように惨たらしいやり方で惨殺。同盟ファミリーも時同じくして崩壊を迎えざるえないほどの打撃を与えた。
これも信じたくない話だが、多分ボンゴレの関係者で生き残っているのは俺だけなのだろう。上質な絹のシーツと天蓋つきのベッドで寝かされ、壊れ物のように扱われる俺には毎日のように報告書と写真が届けられる。
それは時に俺の知る土地だったり(説明が無ければそれがどこか分からないものだったが)、それは時に惨たらしい遺体だったり(言われないと誰かも分からないほどの原形をとどめていないものが多数)、白蘭はそれを一枚一枚丁寧に俺に見せながらそれは嬉しそうに説明をしていく(はっきり言って腹立たしいほどの笑顔で)。

俺の心を壊すように、傷つけるように、踏みにじるように。

けど俺が悲しそうな顔をすると慌てて謝っては書類を引き裂いて破り捨てる。

「隼人を傷つけるならいらない」

と叫びながら。

俺の嫌がるものも怖がるものもすべて排除しよう、というのが彼の口癖。だから俺の悲しむ書類は破棄するのが自分の役目らしい。けど滑稽だと思うのは現況を作ったのが彼だからだろう。
俺の知る土地を破壊して回っているのは彼の部下。俺のファミリーを皆殺しにしたのは彼の組織。そしてそれらを指示したのは間違いなく彼。俺の存在した証を粉々に壊して、俺の知る人物達の口を永遠に封じて、そして俺を傷つけてはそんな自分に嫌悪する。

何がしたいのだろう、この白蘭という男は。自己満足でもしたいのだろうか(それにしては行動も会話も支離滅裂だ)。

そしてつい先日も、彼は自分で言っていた内容と逆な事をしては満足そうに微笑んだ。目に見える形で俺を傷つけたのだ。鋭利な刃物を持ち出してきてはクスリで朦朧とする俺に馬乗りになって楽しそうに切り裂く白蘭。

「出来るだけ痛くないようにするから我慢してて」

ろくに抵抗できない俺は血まみれになりながらも奴にされるがままだった。

心のどこかでこのまま殺してくれないかと期待しててたのかもしれない。

出血多量で死ぬもよし、薬漬けの果てに絶命もよし、奴の首筋に伸ばしたナイフが致命傷になるのもよし。命の大切さを説いてくれたあの方はこの世にいない。命を捨てるなと俺にといたやつは俺を置いて先に逝っちまった。俺を好きだと優しく微笑んでくれた男は人の形を残さぬ遺体となった。この世に未練を残したくても残せる場所すらない。
ナイフが俺の腕を切り裂き、足を切り裂き、首を切り裂いて奴の髪も服も赤く染まるのを見ながら俺の心は歓喜に震えた。


でもそれは僅かなひと時のこと。目が覚めれば突きつけられるのは絶望と言う名の現実。

「隼人のピアノの音色が聞けなくなったのは悲しいけど、しょうがないよね」

俺の腕に丁寧に包帯を巻きながら白蘭はそう呟いた。俺の両手の神経は奴のナイフで綺麗に切断されたらしい。生きていく上で支障はないと教えてくれたが俺は奴に向けて引き金が引けなくなったのが悲しかった。

「隼人とワルツを踊れないのは残念だけど、仕方ないかな」

足の傷口に薬を塗りながら白蘭はそう微笑む。俺の両足は自力で立って歩く事が出来ないように筋を痛められたらしい。杖さえあれば歩けると囁かれたが俺は奴から逃げる事が出来ないのが悔しかった。

「隼人の唇から僕の名前が紡がれないのは・・・・ちょっと淋しいかな」

首筋に残った傷跡を舐めとりながら白蘭は悲しげに眉をひそめる。俺の声帯は満足な音を出せないほど破壊されたらしい。白蘭の名前を呼べなくなったことは嬉しいが二度と愛する男の名前を呼べないことは空しかった。

「けど何も出来なくなってもいいよね。隼人が望むことは俺が何でもしてあげるから。隼人が嫌いなものはすべて排除してあげる。隼人が欲しいものは何でも手に入れてあげる。今の隼人には何も無いから、俺が代わりに全てをあげるよ。何も無い隼人、空っぽの隼人、誰も知らない隼人、何処にもいけない隼人・・・これからは俺が隼人を埋めてあげる。俺の隼人だから、俺だけの隼人だから、俺が幸せで満たしてあげる。

はやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやとはやと・・・大好き、隼人。

何でも願ってなんでも望んで!そして俺が用意したものだけで満たして!!満たされれば良いんだよ隼人!!!

可愛い隼人のためなら何だってしてあげるから・・・・・・・だから俺を愛して可愛い隼人」

人形のように何も出来なくなった俺を抱きしめる白蘭。
その言葉が本当なら俺がお前の命を望めば、お前はこの場で命を経つのだろうか?

けどそれは有り得そうな現実。否定できない未来。

でもそれを伝えたくても願いを紡げる口も、望みを書ける指も、今の俺には残っていない。抱きしめるお前を蹴り飛ばす足すら残ってない俺はただ奴の腕の中で笑うことしか出来なかった(やっぱりコイツの自己満足なんだよ)。


結局、笑いあう俺達の思いは一方通行というタイトルの喜劇。


激しく白獄に萌え中なヒビキさん。無意識に白蘭がやんでます(と某Sさんからつっこまれた)