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(ヤンデレ―クローム編)
私の恋人ゴクデラハヤトは凄く可愛くて頭がいい。私と歳が変わらないくらいなのにマフィアもやってて腕も悪くない。スタイルだっていいし顔もいいから町を歩けば皆振り返る。性格はちょっと粗野で乱暴なところもあるけど根は優しくて素直なところもあるの。お化けとか心霊現象とか信じちゃう子供ぽいところもあるしね。ハヤトはそんな素敵な女の子。みんな彼女が大好きだし勿論私も大好き。けど他のみんなと違うのは私とハヤトは相思相愛のカップルだって事。女の子同士だとかそんなの関係ない。私と彼女が愛し合っている、これだけが重要で大事なんじゃないかしら。
私とハヤトには直接的な肉体関係はないけれど同じベッドで眠ったり、同じ部屋に住んだり、一緒に食事を取るだけで私は満足。この満足感といいう満たされた気持ちが本当の愛なのよ、絶対。だってハヤトは何時でも私と一緒にいてくれるし、私の隣で微笑んでくれる。同じ思いをハヤトだって抱いてくれている証拠。可愛いハヤト。綺麗なハヤト。ハヤトは私の自慢の恋人だ。
そんなハヤトは今、私と一緒に喫茶店でケーキを食べている。今日は月に一度の自分感謝デーだとかでハヤトはケーキをすでに二つ食べてしまった。あの細い体の何処にそんなに入るのかな。ちょっと不思議。私は一つ食べればおなかいっぱいだけどハヤトはまだ食べたりないのかさらにショーウィンドーに並んでいるケーキを見つめて追加で二つも頼んだ。
「ハヤト、食べすぎじゃない?」
思わず心配して問いかけるがハヤトはまだまだ余裕と笑みを浮かべる。そして運ばれてきたケーキに目を輝かせるとまた美味しそうに頬張り始めた。こういう姿を見ていると私もこれ以上、注意できなくなってしまう。ほっぺたにクリームをつけて幸せそうに食べるハヤト。とても同じ中学生とは思えないくらい可愛い。その姿を見ているだけで私の心はきゅんとなって満たされていく。やっぱりこれが愛って奴なのね。幸せそうなハヤトを見ていると私も幸せ。
けれどそんな私たちの間に割り込んでくる害虫もたまにいる。
「君たち可愛いねー。良かったら俺達と遊ばない?」
下品な笑みを浮かべて近づいてきたのは店の外から私達を見ていた高校生二人組み。ハヤトが好みそうなシルバーアクセサリーをつけてチャラチャラと音を立てながらハヤトの肩に手を置く。その途端、幸せそうな顔を一転させハヤトの眉間に深い皺が刻まれた。
「あれ、怒らせちゃった?」
不機嫌を顔で書いたようなハヤトにニヤケながらペラペラとわけの分からない事をまくし立てる男達。
可愛いと褒めているけどそんなの当たり前。私のハヤトは世界で一番可愛いんだから。
綺麗だねって言ってるみたいだけどそれも当たり前。私のハヤトは誰よりも美しいの。
そんな当たり前のこと、わざわざ口に出すなんて馬鹿だ。この男達は本当に愚か。無視してお茶をすすっているとハヤトは眉間に皺を寄せながら私に目で訴えてきた。どうやら限界らしい。・・・まぁ私も限界だけど。せっかくのハヤトの楽しい時間をこんな害虫に潰されるのは絶対にイヤ。
「ごめん、ハヤト。ちょっと待っててね」
私は学校用の鞄を肩にかけると小声で隼人に耳打ちをしてから絡んできた男達に笑みを浮かべる。
「ついてきて」
ハヤトも可愛いって褒めてくれた私の笑顔。本当はハヤト以外に見せたくないんだけどこれもハヤトのためと思えば仕方がない。そしてそんな笑顔の効果は絶大で何かを勘違いしている高校生は私の後に何も考えずについてきた。あぁ本当に馬鹿だ。店の外。一本大通りから離れた路地裏。見るからに怪しそうな場所にさえ何も考えていない二人はヒョコヒョコとついてきた。
「君って大胆だね〜」
「俺達二人のお相手してくれるの」
下種が。骸様はマフィアを毛嫌いしていたけど、きっと今の私と同じ気分だったのかしら。何故かそこに存在しているというだけで腹立たしい。
私は回りに誰もいない事を確認すると鞄から三股の矛を取り出した。柄はないけど一般人相手ならこれで充分。クスリと笑って刃を向けるとやっと身の危険を感じたのか男たちの顔色が変わった。
「え・・・マジ・・・・!?」
「護身用にしてもヤバクね?」
心からの笑みを浮かべて襲い掛かる私に二人は逃げ出すがもう遅い。ここは私の空間。男達が裏路地に一歩入った時点で私の幻覚に取り込まれているのだ。悲鳴の一つも・・・表を歩く誰の耳にも入ることはない。
「私とハヤトの時間を邪魔した罪は・・・重たいよ」
刃が・・・赤く染まった。
まったく、恋人同士の時間を邪魔するなんてヤボにも程があると思う。人の恋路を邪魔する奴はって言葉を知らないのか。だから愚か者には天罰を。そんな私の考えは間違えてない。けれどやはり身体の弱い私には二人を相手にするのは負担が大きすぎてガクンと膝から力が抜けると立ちあがっれなくなってしまった。なんとか動く腕で顔についた血をふき取りながらどうしようかとぼんやり考えていると微かに骸様の声が脳内に響いた。
『クロー・・・ム・・・きこえ・・・ますか・・・』
途切れ途切れの意識。骸様が私の名前を呼ぶ。
「はい、聞こえています。骸様」
『また・・・やったんですね』
「えぇ。ハヤトのためですから」
『・・・・・・・・そうですか。一般人に手を出すのはいささか感心しませんが隼人君のためですからね』
骸様は変なところで真面目だ。いや真面目というより慎重なのだろう。マフィアとは違い相手は普通の高校生。行方不明にさせるには日本という国は難しすぎる。
『まぁ・・・後は僕に任せて君は休みなさい』
「おねがい・・・します。あ、でも・・・ハヤトが・・・」
喫茶店に置いてきたままの恋人を思い出して私は胸を痛める。可愛いハヤトはきっと私を心配しながら待っているだろう。けれどこれからハヤトのところに戻っても青白い顔をした私を見たらハヤトは心配するに決まってる。私はハヤトに心配はかけたくない。
『隼人君には僕がくれぐれも伝えておきますよ』
「・・・・・そうです・・・か、お願いします」
私はそういうと意識を手放した。身体が変わっていく感じ。意識の中に骸様が入ってくる。
一瞬だけ見えた意識の空間。すれ違いざまに見えた骸様の顔はどこか悲しげだった。
目を覚ますとそこは私とハヤトの家の寝室だった。私の横では安心しきった顔で眠るハヤトの姿。私の手を握り締め幸せそうに瞳を閉じている。
「ハヤト・・・今日はゴメンね」
可愛い恋人の頬に口付けを落とす。その時ハヤトの唇が小さく動いた。
「む・・・くろ・・・くすぐったい・・・」
紡がれた名前は私じゃなくって骸様の名前。さっきまで入れ替わっていたせいか。寝ぼけたハヤトには隣にいるのが私ではなくて骸様だと勘違いしてしまったのだろう。苦笑した私は眠っているハヤトを優しく揺り起こす。
「ハヤト・・・私だよ」
「ん・・・くろぉむ?」
舌っ足らずに名前を紡ぎながら瞳を開いたハヤト。ゴシゴシと数回目を擦ってからやっと私に気がついたのかガバっと身体を起こして驚いたような表情を浮かべた。
「えええええ!?クローム、いつからそこに!?」
「少し前かな。ハヤトが眠っている間に」
「そっかぁ・・・じゃあ骸は帰ったのか・・・」
残念そうに眉をひそめるハヤト。あの冷たい牢獄に一人で戻った骸様に同情したのだろう。綺麗なハヤトは心も綺麗らしい。
「心配しなくてもまた来るよ」
「そうだよな。クロームがここにいるんだもん。また会えるよな」
私の言葉に再び笑みを取り戻すハヤト。やっぱりハヤトには笑顔が似合っている。そう思うとこの笑顔を曇らせたあの男達を消した私は悪くないと改めて思わせた。けど次の瞬間、ハヤトの顔が急に曇る。青白い顔。そして口元に手を当てるとその場でうずくまり嗚咽を始めた。
「う・・・げぇ・・・えぇええ」
「大丈夫?ハヤト!どうしたの!?」
うずくまるハヤトの背中をさするがなかなか良くならない。何度も何度も吐きそうな声をあげるハヤト。肩を貸してトイレまで連れて行くとハヤトはそこでやっと落ち着きを取り戻したらしく申し訳なさそうに私を見つめた。
「ごめんな・・・」
「良いんだよ、ハヤト。でも顔色悪い見たいだけど大丈夫?」
「あぁ・・・原因は分かってるから。心配かけたな」
私が用意した冷たい水を飲みながら青白い顔でハヤトは微笑む。吐き気は止まったみたいだけど私の心配は止まらない。だってハヤトは私の恋人なんだから。何か重要な病気を抱えてるとしたら今すぐにでもDrのところに電話しなくては。そう思っているとハヤトは信じられない言葉を私にささやいた。
「クロームにはいってなかったんだけど」
「俺のお腹にさ」
「骸の子供がいるんだ」
目の前が・・・一瞬真っ暗になった。
ハヤトが何を言ってるのか分からない。子供誰との?骸様?有り得ないでしょ?だってハヤトの恋人は・・・
私だよね?
・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。
あぁ、そういうことか。
「うふふふふふふふふふ」
急に笑い出した私にハヤトは身体をピクリと肩を揺らした。
そして怯えたように私を見上げる。あぁそんな表情のハヤトも可愛いね。けど怯える必要はないよ。私は理解したから。ハヤトの愛を。
「そっか。ハヤトは前に言ってくれたこと覚えてたんだ」
「ク、クローム?」
「私がテレビであかちゃん見たときに“可愛い”って言ったから自分の身体を犠牲にしてまで作ってくれたんだね」
「・・・・・え・・・・・なんの話・・・?」
「本当にハヤトは優しいね。何時だって私の事を思ってくれてるんだから」
そういうと私はぎゅっとハヤトを抱きしめた。
「いつだって私のためを思ってくれてるんだもんね。今日ケーキ食べに行ったのだって私が先月にケーキの特集を見てたから誘ってくれたんでしょ。昨日のお弁当に入ってた目玉焼きも一年前に私が食べたいって言ったからだよね。ベッドサイドに飾ってあった花だって半月前に私が花屋さんの前でチラッと見たの見てたからでしょ」
あぁ本当にハヤトは優しい。
「猫のカレンダー買って来てくれたのだって私が猫を助けたことボスから聞いてたからでしょ。一昨日ゲームセンターで取った麦チョコくれたのも私の好物覚えてくれたたからだよね。それから・・・」
「クロー・・・ム・・・俺・・・・」
「そうそう!今日付けてたネックレスが髑髏だったのも私を思ってくれてだよね!先週着てたTシャツも髑髏マークだったし。ハヤトは何時だって私の事を愛してくれてるのね!」
こんなに私は愛されている。そう思うと嬉しくてたまらない。
なのに・・・なんでかしら。私の腕の中でハヤトはガクガクと震えだした。
「どうしたの、ハヤト?まだ具合が悪い?」
「クローム・・・俺・・・」
「うん?」
「誤解させてたならゴメン。怒らせたんなら謝る。・・・俺どうすればいいの・・・かな」
「何を気にしてるの?ハヤト」
「俺・・・俺・・・ずっと自分のことしか考えてなくて、骸の傍にいることしか考えてなくて、誰よりも長く骸の傍にいられるかと思ったらクロームの傍にいればいいんだと思って、友達なのに利用するようで悪いとは思ってたけど・・・俺・・・俺・・・」
「ハヤト・・・なに言ってるの?」
「ごめん、何を言えばいいのか俺・・・頭が混乱して・・・」
「ハヤトは何も考えなくていいよ」
「恋人の私のことだけ考えてれば」
にっこりと笑うとハヤトの目から涙がこぼれた。
うふふふふ。ハヤトは泣きたいくらい私を愛してるんだね。
そうに決まってる。
だって私たちは恋人同士・・・なんだから。
骸獄がネガティブヤンデレだったので対抗してポジティブヤンデレ。
両思いなのに後ろ向き、片思いなのに前向きという結果のヤンデレですね。
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