(ヤンデレ―リボーン編)

俺の愛した獄寺隼人は死んだ。
それが5年前。敵対したマフィアとの抗争中の事だった。

俺は俺の愛した獄寺隼人の姉と結婚した。
それが2年前。ちょうど獄寺隼人の誕生日の話だった。

俺と俺が愛した獄寺隼人の姉との子供が生まれた。
それが先月の話だ。しかし出産を終えた数日後、母体は死んだ。





自らつくった毒を飲んでの自殺だった。





母親の死を理解できない子供は無邪気なものだった。俺の腕の中で玩具をいじくりながら罪の無い笑みを浮かべる。
男で一つ、さらに殺し屋。マフィアなんて商売である以上、誰しもが子育ては無理だと俺に言った。けど俺は我が子を手放そうとしなかった。意地とか義務とかそんな問題ではない。俺が望んでのことだ。

血肉を分けた我が子には「ハヤト」と名づけた。
俺の愛した人間の名前で、子供の母親の肉親の名前でもある。最初は誰しもその名前を聞くたびに驚いていたが子供の銀髪と緑の瞳を見て獄寺隼人を知る人間は納得もしていた。生き写し、というやつなのだろう。血のなせる業なのか。

ハヤトは誰からも愛された。幼い頃から俺が何度もアジトに連れてきたせいか血なまぐさいマフィアどにも可愛がれ、一種の癒しにもなっていた。アジトの主の可愛がり方は小動物に対するそれにも似ていたがまぁでも嫌われるより良いだろう。幹部たちもわざわざ遠回りをしてお土産を買ってきたり飴玉を仕込ませたりと気を引くのに必死だった。

俺の子供とは思えないくらい愛想がよいハヤト。どんな相手にも微笑みかけるあいつのことを誰かが天使だと言っていた。この汚れた世界に下りた天使。噂は噂を呼びアイツを一目見ようとこのアジトを尋ねるやつまでいた。嘘みたいな話だがある殺し屋はアイツに微笑まれて涙を流したという。でも笑いながらも心の底では有り得るかもしれないと思える魅力がアイツの笑みにはあった。





ハヤトが10歳になった日、ハヤトの元に小包が届けられた。
あて先はハヤトの死んだ母親から。自殺する前に頼んでおいたのだろう。消印は十年前だった。

俺は俺の愛した獄寺隼人の尊敬していた男に殴られた。
ハヤトの誕生日のことだった。男はハヤトから渡された手紙を握り締めていた。

「おまえ・・・最低だ」

ハヤトは自分では読めなかった日本語の手紙を男に読んでもらったらしい。そして手紙を代読した男は読み終わり次第俺を殴った。傍にいた幹部達は誰も止めようとはしなかった。ハヤトはただ泣いていた。






私は彼にとって愛する人を生むための器でしかなかったの。






字は震えていた。紙は涙でしわくちゃだった。






俺はどうすればよかった。ただ愛する獄寺隼人にもう一度あいたかったんだ。
死んだ人間に会うためにはどうすれば良かった?愛する獄寺隼人の肉親ならあいつを生めると思ったんだ。
生まれた我が子にどうすれば良かった?俺はただ・・・・。

全てを知ってもハヤトは俺の手を離さなかった。それどころか俺をもう一度殴ろうとしてる奴等から俺を身を挺して庇おうとした。あぁ・・・やっぱりこいつの無謀さは死んでも変わらないな。

冷めた心でそう思いながら俺は小さな天使を抱いて泣いた。





父さんは自分と同じ色である俺の黒髪が嫌いです。
父さんは母さんと同じ色を宿す俺の瞳が嫌いです。

父さんは写真の中で微笑む人と同じ色の髪に俺の髪を染めました。
父さんは染め終わった俺に「綺麗な髪だな」って生まれてはじめて髪を褒めてくれました。
だから俺は父さんに褒めてもらえる銀色の髪が大好きです。

父さんはよく話しに出してくる死んだ母さんの妹と同じ色のカラーコンタクトを俺につけました。
父さんは慣れないコンタクトの痛みに耐える俺に「良い眼の色だ」と笑ってくれました。
だから俺は父さんが笑ってくれる緑色の瞳が大好きです。


父さんを殴ったあの人にそう訴えたら、あの人は困ったような表情で俺を見下ろしていました。
周りで俺達を見ている人たちは俯いたまま俺達を見ようとはしません。父さんはただ無表情で俺を抱きしめて泣いていました。

父さんは俺の自然ではない銀色の痛んだ髪が好きです。
父さんは人工的な光を放つ俺の黄緑色の瞳が好きです。
そして父さんは俺の名前が大好きでたまらないのです。





俺はどうしたら良かったんですか?ただ父さんに愛されたかっただけなんです。





涙を流した瞳からは魔法が落ちてもう父さんの好きな色は宿せません。
そんな俺にあの人は言いました。


「君達は愚かなくらいにそっくりだ」


と。






誰か
正しい答えを知ってるのだろうか。愛する人を手に入れるためにの方法を。
これ以外ないはず。だから俺は
愚かじゃない。


大晦日に書いてたネタです。年越した瞬間に某リボ獄管理人さんに送ったのは良いメモリアルです。