(ヤンデレ―白蘭編)

僕の大好きな隼人チャンはおままごとが大好きだった。
お気に入りの鍋の形の玩具とプラスチックで出来た食材を並べて、綿の詰まった子供でお母さんになるのが楽しくてしょうがないらしい。男の僕からすればその面白さはよく分からないけれど女の子はマセているから現実じみたごっこ遊びが好きなのだと昔何かで読んだような気がする。
つまり、これは未来への予行練習ってことなのかな?





そして今日も隼人チャンは僕の執務室の一角でおままごとに興じていた。





「じゃあビャクランがパパのやくね」


舌っ足らずに僕を呼びながら隼人チャンは僕にネクタイを渡してきた。一人で遊ぶのに飽きたのかほかに遊び相手がほしい隼人チャンは仕事中の僕のディスクに割り込むと無理やり遊びに参加させる。


「それで、ハヤトがママなの」


にっこり笑って持ってきた人形を抱きしめる隼人チャン。その無邪気な姿に再び仕事に戻れるほど僕の精神力は強くない。普段ならレオ君や正ちゃんが僕に仕事をさせるために隼人チャンの相手をするのだが、今日は皆忙しいのだろう。珍しく僕に回ってきた特権。

・・・・・・・・仕事が終わってないと文句をつけるならこの場にいなかった自分を怨んでね?

自分が仕事をしない理由を無理やり押し付けて僕はディスクから立ち上がると、部屋の隅に用意されたお家と言う名のシートの上に僕は向かった。

シートの上には紙で出来たお皿とその上に盛られたマシマロ。僕の好物だと知ってわざわざ用意してくれたのだろう(といっても僕のディスクにあった袋から盛ったみたいだが)。隼人チャンは人形を床に寝かせるとマシマロの一つを取って僕の唇に運ぶ。


「パパ、おいしいですか?」
「うん、ママの料理は最高だね」


モゴモゴと口を動かせば広がる甘い香り。柔らかな食感とバニラの風味、そして目の前で微笑む隼人チャンの表情に満たされながら僕は幸せそうに微笑む。


「いっぱいあるからたくさんたべてね」


両手でお皿を持ち笑う隼人チャン。彼女もとっても幸せそう。
おままごとと言う仮想空間であっても僕達はとても幸せ。今は仮の家族ごっこでも僕達はもうすぐ『本物』になるんだから。


「ねぇ、隼人チャン」


微笑んだままでマシマロを受け取ると僕は自分の口ではなく彼女の唇に運んだ。


「隼人チャンはもうすぐママになるんだよ?」
「ふぇ?」
「僕と隼人チャンの赤ちゃんがね、ここにいるの」
「ん〜???」


パクっとマシマロをたべながら首を捻る隼人チャン。幼い彼女にはまだ分からないだろう。けど僕が手を伸ばして今撫でている彼女のおなかには新しい命が確かに宿っているのだ。


「先週隼人チャンが熱っぽかったから正ちゃんに調べてもらったの。生後2ヶ月だって。ちょうど隼人チャンが僕と暮らし始めた頃と同じ時期だね。大丈夫、“アイツの子供”じゃないよ。アイツと隼人チャンは3ヶ月以上会ってないんだから。だから絶対に僕の子供、それ以外は有り得ない」


優しくお腹を撫でると僕の言葉を理解できない彼女はまだ不思議そうに首をかしげている。


「あか・・・ちゃん?」
「うん、僕達の子供だよ」
「ハヤトほんとうにママになるの?」
「そうだね、本当のママになるんだ」


そして僕と本当の家族になるの。そう付け加えれば始めて理解できたのか隼人チャンは再び柔らかな笑みを浮かべた。


「ハヤトがママ。ビャクランがパパ」
「そうだね」
「ここにあかちゃん!」
「そうだよ、ハヤト」


きゃきゃと無邪気に喜ぶ隼人チャン。でも僕は次の瞬間表情を凍らせた。


「んじゃあねハヤトね、あかちゃんのなまえ・・・・・・・・がいいとおもうの」


小さく唇から漏れた言葉。彼女が望んだ子供の名前は僕が殺した・・・・。





僕の大好きな隼人チャンは僕以外の奴が大好きだった。
真っ白な丘の上にある家で温かな料理を並べて、愛する者の帰りを待ち続けた毎日が幸せでたまらなかったらしい。アイツを嫌う僕からすればその気持ちはよく分からないけれどその時の隼人チャンは幸せだったから、あの日々を思い出してごっこ遊びが好きなのだと昔誰かにで聞かされたような気がする。
つまり、これは過去への逃避行ってことなのかな?





そして今日も壊れた隼人チャンは僕の執務室の一角でおままごとに興じている。


幼児退行獄というマニアックなプレイにに萌えるのは私だけでしょうか(おぃ)