【1】計画的犯行と自供(雲獄)

「おぇえ・・・・・」


朝から応接室の端っこで丸まってバケツを抱えている隼人。数日前から続く微熱と倦怠感。


「いい加減認めなよ」

「だから認めてるじゃないか」

「妊娠だって」

「風邪だって」


お互いに呆れたように言いながら顔を見合わせる。


「いや、何回も言うがありえないだろ」

「君も何回も言うのに僕の話を聞かないよね」

「だって・・・」

「生理が遅れてるっていってたじゃない」

「あれは・・・ただの月経不順だ」

「気持ち悪くて、すっぱいものが欲しいとかいってたし」

「・・・・・た、体調悪いときは皆そうだろ」

「それに君、生でやったことないから安心だとかいってたけど・・・」

「そうだよ!俺達、いつもゴム使ってたじゃねーか」


だから妊娠の可能性は低いだろ。
僕の言葉に目をキラキラ輝かせて詰め寄る。何でそんなに嬉しそうなんだろうね。
僕はそんな彼女の前でニヤリと笑うと片手でコンドームを持ちながら片手で針を刺すような仕草を取った。


「さ・・・・最低」


顔を青くするとガクっと肩を落とす。僕は逆に悪戯が成功した子供のようにほくそ笑む。


「なに考えてるんだよ・・・」

「隼人との幸せな未来?」

「何だよ、それ」

「隼人と僕と隼人と僕との子供に囲まれた未来」

「で、俺はそのお前が設計した未来予想図のせいでこんな目にあってるのか・・・・」


隼人はそういうと僕から離れて再びバケツを抱えた。


「普通、順番とかあるだろ・・・」

「だって君はプロポーズされて素直に頷くタイプじゃないだろ」

「・・・・そうだけど・・・・」

「ならこの方が早いよ。僕は無駄は嫌いだし」

「でも非常識だ・・・」


まぁ僕も君も非常識な存在に違いないからいいんじゃない?
僕の言葉にバケツから頭を上げた隼人は睨んで見せた。


「それで・・・」

「何?」

「それで俺に言うことは」

「特にないね」

「っつ・・・お前が謝る・・・っていうか謝られてもムカつくし想像つかないけど、他に言うことあるだろ!色々!色々さ!!」

「わぉ、君は僕に何かいって欲しいの?」


何がいって欲しいか分かっていて僕は笑う。
まぁ意外とロマンチストな君だから、こういうことにはこだわるんだよね。


「何をいって欲しいの?」

「・・・自分で考えろよ・・・」

「隼人が言ってくれたら僕は今すぐ言ってもいいけど」

「ぜ・・・絶対言わない」

「じゃあ僕も絶対言わない」

「・・・・・・」


流石に泣きそうな顔の君に苛めすぎたかと反省。
まぁ今日は記念すべき日だし、僕は男だから今回は譲ってあげるよ。


「僕と結婚して」


半泣きな瞳を僕に向ける彼女。


「・・・・それでいいんだよ」


鼻をすすりなが言う隼人に愛しさがこみ上げる。

非常識な僕達の恋愛の終わりは、笑ってしまうくらいにお決まりのプロポーズと結婚で幕を下ろした。けどまぁ、これくらいひねりがないほうがある意味捻くれてる僕達らしくてちょうどいいかもね。





雲雀さんが暴走気味ですが相思相愛なので獄もまんざらじゃありません。結局、コレが彼らの幸せの形。



【2】全部欲しいから、何にもいらない(黒ツナ獄)

「俺はね、君を抱きたいと思わないんだ」


俺の言葉に体を振るわせる獄寺くん。
俺はふかふかのソファに座って、彼女は冷たい床の上に正座で。コレが俺達の正しい関係。


「別に恋人になりたいとか思ってないんだよね」

「そんな・・・恐れ多いことは・・・」

「でも、抱かれたいとか思ってるんでしょ?」


愛人でもセフレでも、性処理用の公衆便所でもいいから。


「抱かれたいと、思ってるんだよね?」


もう一度問い詰めるように言うと彼女はさらに体を振るわせた。
獄寺くんと俺とは長い付き合いで、ボスと右腕で、ファミリーで、男と女。けどプライベートでの付き合いもある俺達だけど一度たりとも特別な関係になったことはない。
その服を裂き、肌に触れ、彼女と接合する。きっとファミリーの仲間達が聞いたら耳を疑うだろうが、俺と獄寺くんにはそういったことは一度も無かった。


「俺は男で君は女。そういった関係になったっておかしくないけどね」

「は、はい」

「君は何時でも俺に抱かれてもいいという覚悟は出来てるし、むしろそうされる事も仕事だと思っている。使命だと思っている」


それが君の忠誠心。


「でもね、だから俺は君を抱かないよ」

「十代目・・・」


獄寺くんは俺を見上げると嬉しそうに目を輝かせた。
そうだよ俺は忠誠心とかそんなことだけで君を抱かない。もっと輝いていて、もっと深いもの。それを君が手に入れたときに君を抱く。


「俺が、君を、抱くときはね」

「はい」

「君が俺以外の人を愛して、好きになって、その人と相思相愛で結ばれることになって、君が幸せの絶頂にいるときに相手の目の前で君を抱いてあげる。その汚い子宮の中に孕むまで俺の子種を注いであげる。何回でも何回でも壊れて使い物にならなくなるまで抱いてあげるよ」



そういうと君は表情を強張らせた。
分からない、という表情か。そりゃそうだろうね。


「だから今の君は抱かない」


魅力をまったく感じないから。


「わかり、ました。その時はよろしくお願いします」


君は戸惑いながらも素直に頭を下げてお礼を言う。。
俺はふかふかのソファに座って君の頭を踏みつける。彼女は冷たい床にキスを落とす。コレが俺達の正しい関係。


自分の玩具が人に貰われていった時に凄い良いものに見えることがあるだろう?だから君が誰かのものになるときに始めて魅力を感じられると思うんだ。

うん、だからね。
その時まで俺は君を抱けない。・・・抱かないんだよ?




妊娠話といっときながら妊娠する行為すらしてない。
それが黒ツナ様クオリティ。



【3】無いものねだりは真夜中に(クロ獄)

一番神聖で
一番汚らわしくって
一番罪深い行為

だから私は、奇跡を起こす


ずきずきと痛む頭。
手に乗ってる白い錠剤を8粒流し込む。
笑顔でいなきゃいけない。

これから帰る所は私の家。
待っているのは私の家族。
私が起こした奇跡の結晶たち。
その人たちを心配させないためにも笑顔で。

昔の私とは違うの。
待っている人がいる。
必要としている人がいる。


扉を開けると笑って出迎えてくれる伴侶。


「ただいま、隼人」

「おかえりなさい」


疲れていない?怪我していない?
心配そうに見上げる隼人に優しく口付けを落とす。


「大丈夫、なんともないよ」


笑顔でそういうと隼人は嬉しそうに笑った。

台所に向かうと先に座って待っている子供達。
私と隼人の愛の結晶たち。


「おかえりなさい!」

「ただいま」


一人一人にただいまのキス。
隼人に似たあの子には額に。
私に似たあの子にはほっぺたに。

キスが終わると湯気の昇ったおかずを隼人がテーブルに並べた。


「えっと・・・美味しくないかもしれないけど・・・」


子供を生む前からの食事の前の口癖。
どうも姉の料理の影響で隼人は自分の料理に自信がない。


「大丈夫だよ」


にっこり笑って箸をつける。
子供達もそれに続く。

隼人はそれを見て微笑んだ。


食事が終わってお風呂に入って。
眠たそうな子供達を私は寝かしつける。

ベッドに入ってお休みのキス。

一人一人の寝顔を見守ってから私も隼人とベッドに入る。


「可愛い隼人・・・」


横で一足早く夢の国に入る隼人。

この世で一番綺麗で
この世で一番美しくって
この世で最もあってはならない存在

汚れる事を知らない彼女に子供が出来るはずがない。
まだ少女のままの隼人。

だから子供達は奇跡のかたち。
私たち家族も奇跡の結晶。


「おやすみ」


昔の私とは違う。
私は、手に入れたんだ。


隣の隼人の髪に指を絡めながら、私も眠りについた。






ずきずきと痛む頭で夜中に目を覚ます。
薬を飲むために、台所へ。

子供部屋を覗くとベッドの上にはぬいぐるみ。
可愛いお人形に布団をかけて、再び台所に向かう。

水を注ぎ、テーブルへ。
テーブルの上には皿に盛られた積み木の山。
粘土のお団子。砂の入った茶碗。
泥水の入った急須を洗って水切りにかけておく。


なんだか泣きたくなってくる。
けど、後悔は、していない。

私はポケットから白い薬を9粒出して水で流し込んだ。

ベッドに戻って横になると隼人を起こさないように彼女の頬に触れる。




この温もりだけは、本物。
だから私が、奇跡を起こすのだ。



初のクロ獄がこれって!このクロームさんはヤンデレです。



【4】みんなのうた(黒耀×獄)

「ねぇねぇ、骸さんあと何時間れすか?」

「さぁ、どれくらいかかるでしょうかね?」

「・・・すぐのこともあれば・・・1日がかりって事も」


それを聞いて青ざめる犬。
心配そうな骸。
無表情の千種。


「痛い・・・ぴょん?」

「来るときも痛がってましたからね」

「男には分からない・・・」


戸惑う犬。
さらに心配そうな骸。
溜め息をつく千種。


その時、奥の扉からか細い泣き声が聞こえた。


“おぎゃー・・・おぎゃー・・・”


「生まれた?」

「生まれた」

「・・・生まれた」


呆れるくらいに同じ言葉を繰り返す3人。
そして奥の扉へと招かれる。


「・・・よぉ・・・待たせたな・・・」

「隼人?痛くないか?大丈夫ぴょん?」

「痛かったけど・・・なんかこの子見たらどうでも良くなった」

「えぇ・・・気持ちは良くわかりますよ、可愛いですね」

「だろ?」

「・・・猿・・・・」

「皆、生まれたばかりのときはそうだって」


そう言いながら我が子を抱きしめる隼人。


「産毛だけど・・・髪の色は俺似だな」

「口元は俺そっくり!」

「そうだな口は犬似だな」

「僕は・・・・」

「目元は骸似、鼻は千種似だな」

「猿・・・」

「だからしつこいって!」


苦笑すると隼人は子供を3人に手渡す。


「俺達の子供だ」


「俺達の子ぴょん!」

「大事な僕達の子供です」

「・・・・・うん」


1人の母親と、3人の父親。
子供が大きくなったら伝えよう。


あなたはみんなの子供だよって。

それはきっと愛のある光景。



複雑だけど幸せ。誰の子、じゃなくってみんなの子なのです。



【5】いつかの何処かの誰かのために(ラン獄)

「無理ならいいんだぞ」

「やだ」

「お前のこと考えていってるんだぞ」

「やだやだ」

「はぁ・・・好きにしろ」

「うん、好きにする」


呆れたように溜め息をつく隼人。
俺と隼人の間には小さなテーブル。置かれたコーヒー。
そして赤ん坊の可愛らしい絵がかかれた母子手帳。

母親の欄に書かれた名前は隼人のもの。ちなみに父親の欄は未記入。


「俺の子供、だもん」

「すねた時の口調・・・昔からかわらねーな」

「・・・・・・・・」

「はぁ・・・なんでお前なのかな」


隼人はそう言って頭を抱える。一応、俺と隼人は恋人同士。
けど、それにしてはその言い方酷くない?


「隼人は・・・・」

「ん?」

「隼人は俺の子供生むのは嫌?」


ぐすっと鼻をすする。
そりゃ、俺は子供だよ。隼人より年下だよ。
殺しの仕事だって満足に行かないし、いまだにリボーンには勝てないし。すぐ泣くし(今も無きそうだし)、コーヒーは砂糖いっぱいじゃないと飲めないし、お酒は弱いし、大人っぽくなったのは外見だけだし。


「隼人が嫌ならあきらめる・・・」

「ランボ・・・」

「けど、俺は隼人と始めてセックスした時だってちゃんと責任取る気で抱いたし、いざって時のために貯金だってしてるし、告白して・・・OKしてもらえた時点で・・・未来の事だって考えてたんだよ?」


ぽろぽろとこぼれる涙。
みっともないにも程がある。本当は泣いたり、傷ついたり、大変なのは隼人なのに・・・俺が泣くなんて。


「泣くなよ、アホ牛・・・」

「だって・・・」

「我慢はどうした」

「今は、無理」


そう言うと隼人は再び溜め息。
困らせてる?怒らせてる?恐る恐る見上げると、隼人は困ったように笑ってた。


「父親が泣いてたら子供に笑われるぞ」


そう言いながらもっていたハンカチで俺の頬をぬぐう。


「親ならさ、笑って出迎えてやろうぜ」

「それって・・・」

「生んでやるよ、子供」


お前なりに俺のことちゃんと考えててくれたんだな。
隼人はそう言って涙を流して笑った。

隼人なりに心配だったんだね。
不安だったんだね。怖かったんだね。

ごめんね。もっと頼れる男になるから。


「俺、頑張って隼人と赤ちゃん守るからね」


俺も泣きながら笑う。
泣き虫な親で不満かもしれないけど、きっと生まれたときは笑顔で出迎えるから。


だから、安心してね赤ちゃん。



まだ10年後くらいの設定。まだ子供のランボと大人の獄。




【6】回り道して帰ってくるの(リボ獄)

前々から、そそっかしい奴だとは思っていた。奴の名前の由来はそれこそ「早とちり」から来てるに違いないと思ったことは何度あることか。

俺の恋人、獄寺隼人が姿を消してから1年。
最後に二人であったのは雪が降ってた日で、そして一年ぶりに再会した今日も何の因果か雪が降っていた。
黒い皮の靴で滑らないように雪の上を歩きながら、目の前で赤ん坊を背負って歩く女の肩を捕まえる。


「おい」


びく、っと震える肩。そして覚悟を決めたように振り替えると隼人は緑色の瞳を俺に向けた。


「リボーンさん・・・」

「探したぞ」


一年ぶりの恋人の再会にしてはお互い次の言葉が出ない。
雪の降る街中たたずむ二人。結局俺達は黙ったままだったが、寒さに耐えかねた赤ん坊が泣き出したのをきっかけに隼人は近くにあった喫茶店に俺を誘った。


「お久しぶり、ですね」

「元気してましたか?とか野暮なこと聞くなよ」

「はい・・・」

「単刀直入に聞く。なぜ急にいなくなった」


俺の台詞に俯く隼人。腕の中で赤ん坊をあやしながら伏せ目がちに俺をみる。


「気付いてるんでしょ?」

「・・・お前の口から聞きたい」

「リボーンさん・・・の子供です」


ちょうど妊娠が分かったのは一年前。あの雪の降る日に別れた後だった。
シャマルから俺がその事を聞いたのはその翌日。その後すぐ隼人に会いにいったが、その時にはもう部屋はもぬけの殻だった。
言いたいことがあったのに、その前にこの馬鹿は消えた。


「置いてあったののは俺宛の手紙が一通、ツナ宛に一通」

「・・・・・」

「俺には“今まで有難うございました”、ツナには“探さないでください”だったよな」


覚えてるか?と尋ねれば隼人は無言頷く。


「馬鹿なことしたって自覚はあるか?」


こくり。


「じゃあ、俺が何しに来たかは分かるか」


こくり。


隼人は頷きながら涙をこぼす。


「悪かったのは・・・わかってます。何が正しくて間違いかも」

「・・・・そうか」

「でも、お願いします!」


赤ん坊をテーブルに置くと隼人は床に座り込む。そして深々と頭を下げると何度も何度も同じ言葉を繰り返した。


「この子は悪くないんです!悪いのは俺なんです!だから殺すなら俺だけにしてください!どうか・・・どうかこの子は見逃してください!!」


何度も何度も頭を下げて、何度も何度も同じ言葉を繰り返す。


「・・・・お前なぁ・・・・」

「お願いします!なんでもしますから!!」

「そんなこと出来るわけ無いだろ!」


キツイ言い方で怒鳴ると俺は赤ん坊に手を伸ばした。腕の中で抱く幼い命。
赤ん坊は俺に気がつくと不思議そうな顔を浮かべながら手を伸ばした。


「あぁ・・・やめて・・・お願い・・・命だけは・・・・」

「しつこい」

「お願い・・・助けてくださ・・・」

「いいから黙って立て。そして椅子に座れ。涙も止めろ、拭け。大声を出すな、店の中なんだから皆見てる。話は、それからだ」


あっけに取られる隼人。膝も顔も汚れている。
はぁ・・・折角綺麗な顔してるのに。柄にも無く勿体無いと思ってしまう。


「別に俺は子供を殺しにきたわけでも、お前を殺しにきたわけでもない」


ハンカチを出して隼人に投げわたす。


「責任を取りに着たんだ」


俺がそういうと隼人は目を見開いた。
腕の中の子供はそんな母親の顔が面白いのか甲高い声で笑う。


「何時までも俺の嫁がそんな顔するな。お前みたいなの娶った俺が馬鹿みたいだろ」


腕の中の俺の子の方がよっぽど落ち着いている。


「迷惑・・・じゃないんですか?」

「なんでそう思う」

「だって面倒くさいでしょ。煩わしでしょ?子供とか・・・結婚なんで迷惑でしょ?」

「それはお前の中の俺だ。俺はそう思ってない」


面倒くさいと思うならお前とそういう関係になりそうな時点で別れる。
色々、お前という人間を理解して選んだ時点で俺の未来は決まっていたんだ。




「お前は俺の本妻だ」




一年前に伝え損ねた言葉。
そして・・・ずっと言いたかった台詞。一生こいつには秘密だと、俺は心の中で呟く。

窓の外に目をやれば雪はもうすぐやみそうだった。



ランボ編とある意味対極なリボ獄編。





【7】十の月と、百年の眠りと、千回のキス(ベル獄)

―-王子のキスは魔女の呪いを解くのか。


俺が伴侶を娶ったのは日本。王子様にふさわしいお姫様。そんな彼女を見つけたのは遠い異国の地での話。

金色の王子の俺に、銀色のお姫様のお前。
お似合いにも程がある。運命だって決まってる。
だから口では嫌がるお前をさらって、お城の奥に住まわせた。そうさ野蛮なマフィアの世界より美しい宝石に囲まれてるほうがお似合いなんだ、俺達。
綺麗なドレスを着せて、高価な装飾品を見に纏い、美味しいものを食べる、たくさんの召使達をはべらせて、幸せだろ?楽しいだろ?嬉しいだろ?


なのに、なんで隼人は笑わない?


国で一番のピエロ、芸人、演奏家、歌手etc・・・。海外からだってわざわざ連れてきたのに笑わない。喜ばない。無表情に見つめるだけで、それが面白くなくって俺は芸がすんだ奴らを殺していく。
だって笑わせられない奴らに生きてる価値なんて無いだろ?


ねぇ、何をすれば喜ぶの?


食べたことの無いような珍しい料理?値段のつけられないような高価な指輪?最高級の素材で作ったドレス?
けれど何を出しても奴は首を振らない。お礼の言葉も出ない。
我侭なお姫様。おかげで今日も城には死体が増えていく。


そんなある日のこと、隼人の主治医が恐る恐る俺に声を出してきた。


―――奥様はご懐妊されております。


驚いたね。流石の俺でも。まぁ毎晩寝る間も与えないくらい犯してるんだし、いつかはこんな日が来るとは思ったけどね。

けど驚いたのはそのあと。俺が主治医から聞いた言葉を隼人に伝えると、彼女は目を見開いて大声で笑い始めたんだ。


「・・・・・・っあはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは



久々に聞く彼女の声。メイド達も普段と違う主人の様子に驚きを隠せないみたいだった。
そうか、こんなに簡単だったんだ。彼女を笑わせること。その日は一日中、隼人は狂ったように笑い続けた。

妊娠がわかった翌日からのお前は変わった。冷たい池に飛び込んだり、食事を取らなかったり、無理な運動をしたり、ベランダから飛び降りようとしたり。そのたびに俺のところに報告が入り、隼人は俺の顔を見るたびにゆがんだ表情で笑う。
そしてそんな日々が一ヶ月も続くと、今度は何もしなくなった。眠り続けるようになった。
撫でても、殴っても、犯しても目を覚まさない。童話の中のお姫さまみたいに眠り続けている。昨日も今日も今現在も。


極端だよね、やることが。見ていて飽きなくていいけど。
俺はそう思いながら膨らみ始めたお腹に手を置いた。


眠り続ける君は、本当に怠惰な俺にお似合いだよ。
だけどあまり長いと退屈だから早く目を覚まして。
そのためのキスなら何回だって送るから。


「だって俺、王子だし」


お姫様を起こすのは王子様だって決まってる。

それは今も昔もこれからも、変わらない童話のしめ方なんだから。


初ベル獄。思いのほか黒さが出せませんでした。ベルのキャラ掴みきれてないなぁ・・・。




【8】最凶○×計画(ツンデレ雲獄)

「なぁ、雲雀」

「なに隼人。醤油なら、はい」

「ありがと・・・じゃなくって」


プルプルと首を振ると隼人は箸を咥えたまま僕を睨む。
ここは僕の家の台所。僕と隼人と僕の両親。今日もいつもどおりの夕食、のはずだった。


「雲雀」

「なに?箸咥えたまま喋るのは行儀悪いよ」

「う・・・これでいいだろ」

「うん、良い子良い子」

「子ども扱いするな!ってか話がぜんぜんすすまねーーー」


ドンっと音を立てて茶碗を置く隼人。やっぱり行儀が悪い。僕の両親は隼人に甘いから苦笑してるだけだけど、コレはちゃんと注意しないとね。


「あのね、隼人」

「あのね、キョウちゃん」


じっと僕を見る。僕の呼び方がキョウちゃんになってるという事はちょっと焦っているのだろう。何か分からないけれどただならぬ雰囲気を感じる。


「なに?隼人から先に言って」


そう言った事を僕は直後に後悔した。
お茶をすすり隼人の口がゆっくりと開くのを待つ。


「うんと・・・ね?」

「うん」

「お、おれ・・・妊娠したの!」


ぶっ!
ポロッ!
ガシャーン!


僕のお茶を噴出す音、父さんが掴んでいたおかずを落とす音、母さんがコップを滑らせた音。それはコントのように流れるような動きだった。


「え!?あれ?どどどどうしたの?」

「ちょっと待って・・・落ち着くまでに25秒くらい待って」

「う、うん」


隼人の言葉を聞いて僕は頭を抱えながら目を閉じる。
えっとなんだっけ?妊娠?わぉ誰が?隼人?なわけないよね。うん、落ち着け。落ち着いて。並盛の秩序を自称する自分がこの程度で平静でいられないなんてまだまだだ。


「それで・・・」

「うん、落ち着いた?」

「ちょっとはね、それでもう一度聞くけど“誰が”妊娠したの?」

「俺!」


元気よく答える隼人に僕は再び眩暈を覚える。


「隼人、が妊娠?」

「そう、俺がお母さん」


となると重要なのはこの先だ。それこそ落ち着いて僕。何があっても平静に。


「誰との子なの」


コレが一番聞きたくて聞きたくない質問。そして一番重要な質問。
だってそうだろ?僕と隼人の間にはまだ肉体関係はないのだから!となると沢田か?奴が一番有力だな。隼人も懐いてるし。山本はありえないよな。無理やりでもない限りありえない。あと心当たりがあるのは・・・。
まぁとりあえず誰でも噛み殺す。
そう心に決めると僕は隼人の言葉を待った。


「決まってるじゃん」

「・・・・で、誰?」

「赤ちゃんのお父さんは」


キョウちゃんだよ?
嬉しそうに、恥ずかしそうに。僕を指差しながら真っ赤になって呟く隼人。
うん、可愛いよ。萌えれる仕草だよ。でも、今の発言はありえないから!


「きょうやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


父さんが繰り出してきた拳を僕はすんででよける。母さんはその後ろで困ったように右往左往してるし・・・。


「お前なーーーお預かりしている大事なお嬢さんに何てことしてるんだーーー!!!」

「落ち着いて、父さん」

「落ち着けるか!お前ら中学生だぞ!そりゃ“隼人ちゃんがウチにお嫁に着てくれたら嬉しいなv”とか言ったことはあったが早すぎだろ、色々!!」

「まって・・・なんていうか色々ありえない状態なんだから!」

「ありえないって、お前責任取らないつもりか!見損なったぞ!!」

「違うって、話、を、聞いてよ」


投げられる食器をよけながら僕は必死で言葉をつむぐ。現在我が家の台所は戦場。テーブルの上の皿は立派な殺人兵器と化していた。


「隼人!」

「なに?」

「この親父に言ってやって」

「えっと・・・不束者ですがよろしくお願い・・・」

「違う!だから!隼人の知ってる子供のつくり方」


これで誤解も解けるはず。隼人は父さんと母さんににっこり笑うと隼人流子供の作り方を説明した。


「俺と雲雀の赤ちゃんは昨日の夜にコウノトリさんが連れて着てくれたんだよ」


ぴた。
その台詞で父さんの攻撃が止まる。


「隼人・・・ちゃん?」


ありえない。家の両親の表情はそれを語っていた。
ここでさらに駄目押し。


「隼人」

「ん?」

「セックス、って知ってる?」

「せ・・・?なにそれ」


頭の上に浮かぶ?マーク。コレで完璧だろう。
父さんは魂が抜けたように肩を落とし、母さんは苦笑しながら父さんを支えていた。


「僕達、健全だから」


両親への励ましなのか、何なのか分からないけれどそれだけ言って僕は隼人と一緒に台所を後にする。いまの台所にいても食事は無理だろう。けど・・・言ってて自分でも悲しくなってきた。
僕は部屋へ財布を取りに行くと近場のファミレスへ隼人と向かうことにした。


「なぁなぁ、雲雀」

「なに?」

「俺・・・赤ちゃんできてないの?」


しょんぼりと僕の隣で肩を落とす隼人。


「欲しかったの?」

「うん、俺と・・・キョウの赤ちゃん欲しかった」


真っ赤になりながら僕の手を握って微笑む。
僕もそれに大きく頷くと、いつかね、と約束を交わした。
でもそれより先に性教育からだよね。赤ちゃんへの道はまだまだ先。


「まずはおしべとめしべかな?」


隼人に聞こえないように呟くと、僕は握られた隼人の手を強く握り返した。


大丈夫。今は無理でもいつか会えるよ。
多分それは・・・遠くない僕達の未来の話。



甘いというか長い; でもツンデレだから(なに、その言い訳




【9】最凶○×計画2(ツンデレ雲獄&ツナ獄)

「十代目〜」


学校に到着すると、先に着いていた獄寺くんが手を振りながらやってくる。今日も可愛いなぁ、獄寺くん。無邪気というかなんと言うか。朝から癒される。けど次に出てきた獄寺くんの言葉は朝の爽やかさからかけ離れたものだった。


「セックスってなんですか?」


にぱ!っと擬音語までつけて。
可愛らしく無邪気に。なのに、何この邪念が混じりまくりな台詞。


「え・・・・っと獄寺くん。ごめんよく聞こえなかったみたい。もう一度いってもらっていいかな?」


頭を抱えてもう一度。俺の耳が悪いといってくれ。
聞き間違いだよね。勘違いだよね。だって獄寺くんの口から・・・。


「セックス、ってなんですか?」


セックスなんて言葉出るわけないよね・・・。
と思いながらも耳から入ってくるのは紛れも無い現実。


「誰から聞いたの・・・その言葉」

「雲雀です!俺が昨日妊娠したって言ったらその単語知ってるか?って言われました」

「へー・・・ふーん・・・・」


獄寺くんが妊娠、ね。
少なからずイタリアにいたときには間違いが起きないようにその手の知識からはなれさせてたからなぁ・・・俺。たしか子供はコウノトリが連れて来るんだよ、とか誤魔化して教えたけどもしかしてその延長?


「コウノトリの話とかした?」


その質問に笑顔で大きく頷く獄寺くん。
苦労してるな雲雀さん。柄にも無くそんな事を考えながら笑ってしまった。


「ごめん、獄寺くん。子供はコウノトリが連れてくるんじゃないんだ」

「えぇ!そうなんですか!!!」


本気で驚く獄寺くん。天然もここまで来ると罪だ。


「本当はね、そのセックスっていうのをすると子供が出来るの」

「はぁ・・・さすが十代目は物知りです!雲雀なんか知ったかぶりして教えてくれませんでしたもん」


なんか花の話をされて誤魔化されました。
獄寺くんの台詞に雲雀さんの性教育講座が目に浮かぶようだよ。苦笑半分、失笑半分。笑っちゃいけないけど腹筋の辺りが痛くなってくる。


「それで獄寺くん・・・」

「はい、何ですか?」

「セックスのやり方知りたくない?」

「え!知りたいです、教えてください!」


はしゃぎながら俺の手を取る獄寺くん。俺は無邪気な彼女の態度に黒い笑みを浮かべると放課後の約束を取り付けようとした。
でも、いつもこういう時は絶対現れるんですよね。


「誰が、何を教えるって?」


地獄耳ですね、雲雀さん。
俺は降参という感じで両手を上げると、皮肉交じりに呟く。


「君の邪気は上の階にいても分かるんだよ」

「へぇ、じゃあ今度から抑えるように気をつけます」

「わぉ、君は存在自体が邪気だからそれは無理じゃないかな」


雲雀さんからの手厳しい言葉。獄寺くんは俺が雲雀さんに苛められてると思って間に入ってきた。


「十代目を苛めるな!」

「苛めてないよ。注意してるだけ」

「雲雀の言い方は意地悪く聞こえるんだ!これ以上、十代目に何か言うなら・・・」

「言うなら?」

「キョウちゃんとは3日間、口を聞かない!」


・・・・・・・・。


「わぉ、困ったね」


うん、俺もどう反応かえせばいいか困りました。
でもプリプリと怒っている獄寺くんは本気なんだよね。全身全霊って感じ。


なんか興ざめした雲雀さんは黙って自分の教室に帰っていった。時間的にも朝のホームルーム間近だからね。
俺も朝から疲れた体を引きずって自分の席に戻っていく。


「あ、それで十代目」

「なに?」

「セックスのやり方って・・・・」

「もう、その話題は今度ね」


俺がそういえば獄寺くんは口を閉じる。素直で何より。
あ、でも最後にコレだけは約束させなくちゃ。


「あのさ」

「はい?」

「俺たちが教えないからって他の人には聞かないでね。特に山本」

「は・・・はい」


戸惑いながらも頷く。
それに安心すると俺は獄寺くんも席につくように促す。



時刻はAM8時半。なんか朝のこの時点で一日分の体力を使ったような気分になる俺だった。



【8】の話とリンクしていますw雲雀さんは苦労してますよね、ツンデレって。



【10】これから(○○獄)


●フゥ太の日記●

今日、ツナ兄の家でランボと遊んだんだ。
ランボはいつもみたいに大暴れで、一人で大泣きして、いつもみたいに10年バズーカを発射。
でも今日はいつもと違ってツナ兄の勉強を見に来ていた隼人兄にバズーカがあたっちゃった。煙がモクモク部屋に広がって10年後の隼人兄の姿が見えたとき僕はビックリ。

だって隼人兄は綺麗な女の人になってしまっていたんだもん。

隼人兄?って聞くと女の人は周りをみわたしながら、そうだよって。隼人兄は隼人姉だったんだ!
しかもなんか雰囲気も今とぜんぜん違って僕はドキドキしちゃった。
お腹も大きいし。・・・もしかして赤ちゃんかな?女の人だったんならきっとそうだよね。

僕は10年後の隼人姉に近づくとこっそり赤ちゃんのお父さんを聞くことにした。だって気になるもん。10年後じゃランキングにもでないしね。
でも隼人姉は少し考えるようなそぶりを見せて、困ったように笑うと僕に小さく耳打ちした。

未来のことは教えられないんだ。ごめんね、って。
そういって笑った顔はツナ兄のママみたいに優しそうでキラキラしてた。そうこうしていたらまた煙が出てきていつもの隼人姉登場。

隼人姉はキョロキョロと周りを見渡すと、隠れていたランボを捕まえて殴っていた。・・・・なんかさっきの10年後と大違いだ。
僕の視線を感じて隼人姉が僕を睨む。僕はあわてて視線をはずす。

うーん、今から隼人姉って呼ぶのおかしいよね。知らない振りして隼人兄って呼んでるほうがいいよね。
でもいつ誰にばれるんだろ?誰が女の人って知ってるんだろ?
その人が隼人兄の赤ちゃんのお父さんになるのかな?
気になる気になる。でも僕がランキング星にいくら聞いても星は答えてくれなかった。

まぁいいや。気長に待つよ。


「10年後には答えが出るしね」


僕はそう締めくくるとノートを閉じた。


――10年後の母となる貴方へ
いつかまた会いましょう。





フゥ太の口調はなんかなれない・・・。うーん。