「あ・・・また死んでる」
ハヤトの手には血に濡れた剃刀。浴槽に浸かっている左腕からは流れる液体は溜めたばかりの湯船を赤く染めている。
「せっかく隼人と入ろうと思ったのに・・・」
しょうがない。私は座り込んだままの彼女を抱えると脱衣場まで連れて行った。そして彼女の柔肌に傷をつけないように私のお気に入りのワンピースを脱がせる。
真っ白なワンピース。それはハヤトによく似合う。白いところが少ないくらいたったいま汚してしまったので同じ服はもう着れないけれど、明日一緒に新しい服を探しに行けばいいことだ。
ハヤトと一緒に買い物なんていつぶりだろう。今度はどんな服を買おう。
そんな事を考えながら私も服を脱ぐと彼女をもう一度抱えて浴室に向かう。そして青白く冷え切ったハヤトの体を抱きしめながら湯船に浸かると、向き合うように座らせて紫色の唇にキスを落とした。
「ハヤト、起きて」
にっこり微笑む私。極上の笑みを浮かべてハヤトの瞳が開くのを待つ。
しばらく待っていると戻っていくハヤトの愛らしい桜色の頬。さくらんぼのように甘い唇。そして光を取り戻していくビー玉の様な瞳。
「おはよう、ハヤト」
「・・・クローム・・・?」
呆然としたまま私の顔を見つめる彼女。
「また・・・俺・・・」
「うん」
「失敗した・・・のか」
落胆の呟き。彼女は自嘲気味に微笑むと自分の血に染まった湯船に涙をこぼした。
ポトリ。ポトリ。一粒二粒。湯船の中がどんどんハヤトの体液に侵されていく。私はそれが嬉しくてハヤトを抱きしめると彼女の幼い乳房に顔をうずめた。
「ハヤト・・・ハヤト・・・」
「クローム・・・クローム・・・・」
馬鹿みたいにお互いの名前を呼び合う。鉄の甘い匂いに包まれたクラクラするほど甘い時間。けど私は知っている。彼女の次に続く言葉がいつだって私達には似つかわしくない言葉だと。
「ハヤト、大好きよ。ずっと一緒にいようね」
「クローム・・・俺を解放してくれ・・・早く殺してくれ・・・」
ポトリ。ポトリ。三粒四粒。頭上からこぼれた雫は私の髪に吸収されていく。
対照的な言葉。対照的な愛。私はその言葉に聞こえないふりをするとハヤトの頭を掴んで湯船に沈めた。他の体液みたいにこのまま溶けてしまえばいいのに。湯船に流れて一つになって、そして私がそれを飲み干すの。なんて素敵なことだろう。
けどそれは無理だし可哀想だから、今は犯すだけにしてあげる。
「ハヤト・・・ハヤト・・・大好きよ・・・・」
湯船から引き上げると息をしないハヤトを抱きしめ指を入れる。ガクガクと揺れ動く彼女の口からは甘い喘ぎの代わりにたくさんのお湯が流れ出た。
大丈夫何回だって直してあげる。私にはそれが出来るんだから。かつてあの人が私にしたように、私が貴方を生かしてあげる。
「死ぬまでずっと一緒だよ・・・」
いや、死んだってずっと一緒だよ。これって最高の愛じゃないかしら。
獄が好きだから自分の幻覚の心臓で生かすクロームと、死にたいんだけどクロームのせいで死ねない獄。
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